第2話
午後の授業は相変わらずつまんなかった。普段ならどうでもいいことを考えながら黒板を見るふりをするのですが、今日は授業に集中していた。
もしかしたら、今日は僕が今学期に入って以来初めてノートを取った日かもしれない。別にこれで先経験したことを忘れるわけではないけど、だた、こんなことをしているだけで先のバカバカしくなった自分のイメージを少しでも自分の心の中で改善できるのなら、それで十分意味あるのだ。
教室とトイレを往復するだけの午後、真面目に勉強をしているうちに、下校の時間となったので、帰宅部所属である僕は学校に留まることもなく、校門を出た。そして、もう我慢できなかった。
「なんてついてるんですか、先輩?」
思わず声に出しちゃった。控えめにしたので、ほかの生徒たちは聞こえてないよだ。あるいは、聞こえていたとしても、関係のないことだから気にならないかも。そういう人は好きだ。
でも、僕の隣にいる、この浮いている幽霊の耳には確実に入ったはずだ、と思う。
そうだ。先輩はずっと隣にいた。授業を受けている時も、先生からプリントを渡された時も、トイレに行ったときは流石にドアの外で待っていたらしいけど、なんて僕についているのかがわからない。
「だって、話しかけていいって言ったじゃん。」
なんか甘えているような口調みたいだ。いやいや、気のせいだ、絶対。ここで恋愛脳になるな!ていうか、そんな小さい声で、それに雑音を混じっていたのに聞こえていたのか、ちょっと失策だ。
「そうは言ってたんですけど。ていうか先輩、地縛霊じゃなかったんですか?」
「違うよ。そんなこと一言も言ってないよね。」
「まあ、そうですけど。それで、いつまでつき・・・こほんこほん、ついてくるんですか?」
「ああ、今付きまとうって言ったな。なんか傷つく。」
「言ってませんよ。ていうか誤魔化してません?」
そう言われると、先輩は気まずいような顔して苦笑いしながら、目をそらした。そうしていると、まだ生きている頃の習慣のせいか、幽霊として何物にもぶつかりません先輩は浮いたまま止まった。先輩の反応を観察するために、僕も足を止めた。
しばしの沈黙、聞こえるのはただほかの生徒の足音や話し声だけ。
横を見たまま止まるのは怪しまれるので、僕は顔を前に向いたまま、少し頭を下げながら、できるだけ視線を先輩の方に向いた。
どうやら先輩は苦笑いをしたまま何かを考えているようだ。言い訳かな。そして何十秒ぐらいの沈黙のあと、先輩は口を開けた。
「ついてっちゃ、ダメ?」
まさかの正攻法でした。言い訳とかの小細工ではなく、直接お願いみたいなやり方なんて、場合によれば図々しいと思われる可能性もあるのに。さすが幽霊というべきか。
しかし、僕はそんな簡単で落とされるような馬鹿じゃない、だから、いくらそんな可愛らしい声で言われても、そんな涙が出そうな目で見つめられても、ダメなことはダメだ!
でもこれは別にダメなことじゃないからどうでもいいか。
「はぁー」っと小さくため息したあと、顔を上げて、歩き始めた。
「別にいいですよ。」
小声で言ったけど、どうせ聞こえるんでしょうね、先輩は。その証拠に、満面の笑顔で嬉しそうな先輩が僕の隣についてきた、もちろん、浮いたままで。
「ありがとう!」
声も浮いているようだ。
そしてそんなことを言われた僕も、多分浮いていると思う。顔も少し発熱しているみたい。これは気づかれたらマズイな。少し落ち着く時間を貰わないと。
「言っておきますけど、バスとか人が多いところでは話しかけないでくださいね。変な人だと思われたくないので。」
「うん、分かった!」
まだ浮いているか。
僕もだけど。
人があまりないところに来たので、先輩は話しかけていいか悪いかわからないような気持ちなのか、何やらそわそわしているみたい。
「何ですか、先輩?」
ビクッとして、先輩はこっちを見て疑問を口に出した。
「ええと、今何処に向かっているの?あ、相原君の家じゃないよね。」
「えっ、なんて知ってるんですか?先輩うちに行ったことあるんですか?なんか怖いんですけど、ストーカー幽霊ですか?」
「違うよ!君が先バスのことを言ったから、バスで登下校をしてるんじゃないかって思って。」
「あ、そうですか。先輩、意外と鋭いですね。すみませんでした。」
そして焦った顔と声も素敵でした、なんてチカン発言は心に残ることにした。ちなみに先の質問連発はわざとというか、本能的なようなものでした。どうやら僕は小学生の時の友達のやり方を体に刻みつけたみたい。
「で、何処に向かっているの?」
「友達の家ですよ。あいつ、今日は風邪で学校をサボってだから、プリントを渡しに。」
僕の正直で嘘偽りない答えを聞いたら、何故だか先輩はびっくりしたような顔をした。
「相原君って、友達いたんだ!」
先輩はわざとなのか、口を押さえて目を剥いて声のトーンも上げて驚いていると言わんばかりのリアクションをした。先の仕返しかな。
「先輩から見る僕は一体どんな人ですか?友達のひとりやふたりがいるぐらい、当たり前のことだと思うんですけど。」
「そうだけど。君が教室にこもっている時クラスメートと全然会話していなかったから、ポッチじゃないかと思って。」
そういえばそうでしたかも。
「それはたまたま中心にいる人物が休んでいただけで。それに、もうすぐ中間テストだから、みんな勉強に励んているんじゃないですかね。」
「そうなの?でも、ほかの生徒たちは楽しくおしゃべりをしてたみたいんだけど。」
よく観察しているね。ほかの生徒も見てたのか。いや、別に僕とは関係ないけどね。
「それはトップクラスの生徒かば・・・じゃなく、勉強に向いてない生徒たちでしょうね。僕みたいな中層レベルの生徒は、真剣に勉強しなくちゃならないんですよ。」
「そう?中層レベルの生徒が斬新なノートを・・・ね。」
何か見透かしたようで、先輩は自信そうな笑みで僕を見つめていた。見透かされたようで、僕もそわそわなってきた。
「と、とにかく、僕だって友達がいるんですから。」
僕の慌てっぷりがみて面白いのか、先輩はクスクスと笑った。これで終わったらいいんですけど。
「で、その友達って、男の子、それとも、女の子?」
気のせいか、「それとも」からの口調がちょっと色っぽいですけど、それはさておき、追い打ちとは、卑怯とは言えないけど、良くないと思うな。
まあ、こういうことになったときの手も用意していたので、慌てる必要はないけど。
「あっ、着きましたよ!」
大声で覆うという、禁断な一手。
僕だけが見える幽霊 @Yu1ki7ha
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