第128話
「あ、れ?」
なんか、不思議な気分。
というより、久しぶりの感覚。右手が動く。左手が動く。視線も自分で動かせる。
「これって……」
「アリス! あぁ、よかったですわ。アリス、アリス」
「リ、リリルハさん」
リリルハさんに抱き締められた。
抱き締められた、ということは、やっぱり。
「私、元にもどったんだ」
ずっと、お姉ちゃんに取り込まれたままだった私。自分の身体が残っているのかもわかってなかったけど、こうして見ると、ちゃんと残ってたんだ。
どういう原理なのかはわからないけど、魔法だから、自然の法則なんて関係ないのかもしれない。
リリルハさんの体温も感じられる。
お姉ちゃんに取り込まれる前と何も変わらない、私がここにいた。
戻ってこれたんだ。
久しぶりに感じる私の身体の感覚と、リリルハさんの体温。
すごく心が落ち着いた。
「アリス様! すぐに、エリザベート様を!」
「あ、そうだ!」
レミィさんに呼ばれた。
そうだった。エリザベートさんが大怪我をしてるんだ。すぐに治癒魔法をかけないと。
「くっ。待ちなさい」
「させるかっ! うおぉぉ!」
お姉ちゃんが私の行く手を遮ろうとしたけど、それを竜狩りさんが防いでくれた。
その隙に、私はエリーさんの元へと急ぐ。
エリーさんの顔からは血の気が失せていて、本当に虫の息って感じだったけど、辛うじて息はしていて、まだ助けられる状態だった。
「エリーさん、すぐに助けるからね」
私はすぐにエリーさんに治癒魔法をかけた。
エリーさんの傷はかなり大きくて、今も生きているのが不思議なくらいだった。
でも、多分そうなっているのは、お姉ちゃんが加減をしたから。
お姉ちゃんは、エリーさんが何か策を持っていて、どうせ当たらないと思ってたんだ。だから、本気の本気で攻撃はしないで、次の動きに全力を出すつもりだったんだと思う。
だけど、結果的に、エリーさんは何もせずに攻撃を受けてしまった。だから、中途半端な威力になっちゃったんだと思う。
そう考えると、お姉ちゃんのエリーさんへの警戒は、私たちにとっては幸運だったということだ。
エリーさんの傷は、少しずつ治っていって、少しだけ顔に生気が戻っていく。
血を流しすぎたから、すぐに身体は動かないだろうけど、一先ずこれで大丈夫だと思う。
エリーさんは気を失ったままだけど、息は一定に落ち着いていて、表情も和らいでいる。
「これで、大丈夫」
「お姉さま。よかった」
リリルハさんとレミィさんがホッと胸を撫で下ろしている。
「あとは、竜の巫女だけですね」
ポツリと、レミィさんが呟く。
振り向くと、お姉ちゃんは竜狩りさんと戦っていた。
竜狩りさんは、私たちを守るように戦ってくれている。私がエリーさんの怪我を治すための時間を稼いでくれているんだけど、やっぱり勝てる気配はない。
レミィさんもすぐに加勢に行こうとしていたけど、それでもさっきと同じ結果にしかならないと思う。
だったら。
「お2人は後ろに。私は、竜狩りに加勢してきます」
「まって」
走り去ろうとするレミィさんを呼び止めた。
「私も行く」
「え? い、いえ、それは危険すぎます」
私の言葉にレミィさんは困惑していた。
そうだよね。竜狩りさんやレミィさんでも勝てないような実力を持つお姉ちゃんに、私が加勢した所で、何か変わるのかわからない。
だけど、このままじゃ、お姉ちゃんには勝てない。
それに。
「私は、お姉ちゃんをとめたいの。だから、ここでだまって見てなんていられないの」
私なんかがお姉ちゃんを止められるのかはわからない。でも、私は、お姉ちゃんを止めたい。
私の見た世界に気付いてほしい。
そのためには、ここで竜狩りさんやレミィさんに助けてもらうだけじゃ駄目なの。
「レミィ。アリスは止まりませんわ。行かせてあげなさい」
私の決意を感じてくれたのか、リリルハさんとレミィさんに言ってくれた。
「し、しかし、リリルハ様」
「アリスなら、大丈夫ですわ。私が保証します」
「……わかりました」
リリルハさんの確固たる声に、レミィさんはまだ不安そうにしていたけど、諦めたように納得してくれた。
「では、行きますわよ、アリス」
「え? リリルハさんはだめだよ?」
「え? ア、アリス?」
リリルハさんも一緒に来ようとしていたみたいだけど、それは駄目だと思う。
リリルハさんも無理をしすぎだし、何よりも、エリーさんを放置できない。
「エリーさんをまもってくれる人がいないと、だめだと思うの」
「うっ。た、確かに。で、でも、うぅ」
リリルハさんは、かなり落ち込んだ様子。
もしかして、さっきのは、自分も行くつもりだったから言ってくれたのかな。
流石に、そんなことはないよね。
「じゃあ、行ってくるね」
「うぅ、わかりましたわ。アリス、レミィ、お気をつけなさいな」
「うん」
「はい」
リリルハさんに送り出されて、私たちは竜狩りさんの元へ、加勢に行った。
◇◇◇◇◇◇
「くっ。化け物め」
「死に損ないが、邪魔しないで!」
お姉ちゃんの槍が、竜狩りさんの腹部を掠めた。辛うじて避けているけど、さっきの肩に受けた傷が深いようで、最初に比べて動きがかなり鈍くなっている。
傷というよりも、血を流しすぎているんだ。
竜狩りさんは、レミィさんと違って、治癒能力がある訳じゃない。だから、当然、傷はすぐには治らないし、治癒魔法も使えない。
その点で言えば、レミィさんよりも打たれ弱いと言える。
「加勢します」
竜狩りさんに追い討ちをかけようとするお姉ちゃんに、レミィさんが魔法で牽制した。
「あぁ、また、邪魔者が」
レミィさんを睨んで、お姉ちゃんが舌打ちをする。そして、その視線は私に向いた。
「アリス、やっぱり来るのね」
「うん。お姉ちゃんをとめたいから」
お姉ちゃんと睨み合う。
「いいわ、アリス。そこまで言うのなら、相手をしてあげるわ。お仕置きしてあげる。ドラゴンさん」
「グオオオオン!」
お姉ちゃんの呼び掛けに、黒いオーラのドラゴンさんが応える。
「ドラゴンさん」
「グオオオオン」
私もドラゴンさんを呼んだ。
対峙するのは、お姉ちゃんと黒いオーラのドラゴンさん。私たちは、ドラゴンさん、レミィさん、竜狩りさん。
これでも、お姉ちゃんとの戦いは厳しいものになると思う。
それでも、ここでやらないといけない。
今ここにいるのは、私が想像できる最高の戦力だから。
「本気の本気よ。アリス。全力で、私は私の信じる世界を手に入れてみせる」
「私だって、ぜったい、ぜったいに、お姉ちゃんをとめてみせるんだから」
お姉ちゃんは槍を構えて私たちに向かって投げつけてきた。それは、ものすごい早さで、バリバリと空間が歪むように見えた。
私は、お姉ちゃんの槍を真似てみて、私もその槍を投げた。
お姉ちゃんと私の槍は、お互いの魔法で作られたもので、それはつまり、魔力のぶつかり合いになる。
その破壊力は凄まじくて、それだけで、周りに暴風が吹き荒れる。
ズドォォン。という轟音が鳴り響き、それが開戦の合図のように、お姉ちゃんと私たちが動き出した。
これが最後の戦いの始まりになるはずだから。
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