第114話
「うおおあぁぉ!」
「ギャオオォ!」
「あぶないっ!」
ガクンッと、アジムさんの体を急降下させる。そのすぐ上を、ドラゴンさんの炎が掠めていった。
だけど、それで終わりじゃない。
「ぐえっ!」
「こっち!」
避けた先には、暴風が斬撃になって迫ってきていた。
まだ体勢を直していなかったアジムさんだけど、間に合わないと思って、強引に右へと引っ張った。
勢い余って、クルクルクルクルと、何回転もしてしまったアジムさんは、目を回したようで、視線が定まらない。
「ア、アジムさん。だいじょうぶ?」
「お、おぉー、な、なんとかぁ、おぁ?」
声に覇気がない。
時々、おえって声も漏れてるし、無理をさせてしまっているみたい。
だけど、ドラゴンさんの攻撃は苛烈で、休む暇なんてない。
やっぱり、私の時は、ドラゴンさんたちも、攻撃をしづらかったんだ。そう確信する程に。
避けながら近付こうとしても、それはかなり難しい。
全力で魔法を使えば、なんとかなりそうだけど、それだと、アジムさんが耐えられなさそう。
「うーん。どうしよう」
そう考えている間にも、ドラゴンさんの炎が迫ってくる。
ギリギリでかわすけど、そのせいで、またドラゴンさんたちとは距離ができてしまった。
これでは埒が明かない。
少し危ないけど、防御魔法も併用してみよう。
「アジムさん。少しだけ、がまんしてくれる?」
「え? うおっ!」
ドラゴンさんの暴風を、魔法で防いでみる。
ちゃんと守りきれるという自信はあったけど、ドラゴンさんの攻撃は、本当に強力で、少しだけ押し出されちゃった。
だけど、衝撃は全部受け止められた。
これなら、避けなくても、大丈夫そう。当たる度に、押し戻されちゃいそうだから、あまり受けない方がいいと思うけど。
「し、死ぬかと思った」
「だいじょうぶだよ。私がちゃんとまもるから」
「ま、まあ、信じてはいるが。というか、信じるしかないが、た、頼むぞ?」
アジムさんは、額の汗を拭う。
アジムさんが、私を信じてくれてるのなら、ちゃんとそれに答えないとね。
「うん。いくよ」
「う、おおああぁぁ!」
全速力でアジムさんを飛ばす。
ドラゴンさんの攻撃が飛び交う中を、避けながら、時には防御しながら。
炎や暴風、電撃まで飛んできた。
色んな攻撃がぶつかり合って、至る所で爆発が起きている。
ドラゴンさんの攻撃だけじゃなくて、それも避けないと。
「おえっ、おうっ! あ、ぐえぅ!」
アジムさんの呻き声が響く。
なるべく無理はさせたくないんだけど、そうも言ってられないくらい、ドラゴンさんの攻撃は凄まじかった。
しかも、これだけ全力でドラゴンさんに向かって行っているのに、ドラゴンさんとの距離は縮まらない。
やっぱり、スピードだけでは、ドラゴンさんには近付けないんだ。
私の時と同じように。
なら、仕方がないよね。
「アジムさん。ドラゴンさんから目をはなさないでね」
「え? お、おお」
アジムさんの視界で、ドラゴンさんを捉える。
アジムさんを飛ばしながら、しかも、防御魔法まで使ってるから、威力はかなり弱まってしまうけど、このまま何もしないと、時間だけが過ぎてしまう。
だったら。
私はこの前と同じように、魔法で鎖を作り出し、ドラゴンさんを捕まえようとした。
すると、一瞬、本当にほんの一瞬だけ、ドラゴンさんを捕まえることができた。
すぐに壊されちゃったけど。
この前と違って、威力が弱いことに気付かれて、避けるよりも、破壊した方が早いと思われたのかも。
その隙に近付くけど、1頭のドラゴンさんに近付くと、もう片方のドラゴンさんに邪魔される。
その動きは、やっぱり、この前と同じだ。
「もうっ!」
私は思わず叫んじゃった。
どうしよう。
何もできない。
このままじゃ、何もできずに時間だけを浪費して、傷付く人ばかりが増えちゃう。
早くなんとかしなきゃいけないのに。
でも、焦った頭では何も思い付かなくて、気付けばまた、ドラゴンさんとの距離は離れてしまっていた。
「お、おい、今のは何だ?」
そんな私に、アジムさんの声が聞こえてきた。
その声は、何故か楽しげというか、嬉しそうというか、何か期待しているような声だった。
今のっていうと、魔法の鎖のことかな。
「魔法の鎖のこと?」
「それだよ! すっげぇ、かっけぇな。あれで、ドラゴンを捕まえられるのかよ」
アジムさんは、興奮気味に言う。
「でも、一瞬だけだよ? それじゃあ、ちかづけないし」
正直、足止めにもならない。
私の全力で魔力を注いだ時でも、結局、ドラゴンさんを捕まえることはできなかった。
ドラゴンさんには、使えない魔法。
の、はずなんだけど。
「それがあるなら、早く言えよ。それを使えば、ドラゴンに痺れ薬を食らわせられるだろ」
「え?」
どういうことだろう。
私は、アジムさんの作戦を聞いた。
つまりは、私の魔法の鎖は、一瞬でもドラゴンさんを捕らえることができる。それは、瞬間的な速度なら、あの鎖はドラゴンさんにも匹敵するということ。
ならば。
「俺か鎖に掴まって、ドラゴンの元に行く。そこで、痺れ薬をドラゴンに飲ませればいい」
「なるほど」
確かに、それならば、ドラゴンさんの元に行けるかもしれない。
だけど、普通に飛ばすよりも、遥かに速い。もちろん、防御はするけど、さっきまでとは比べ物にならない動きに、アジムさんが耐えられるのか。
不安に思っていると。
「もう、酔いすぎて、むしろハイになってんだよ。今なら何の問題もない」
そう言いきるアジムさん。
「わかった」
私はその言葉を信じることにした。
「だが、気を付けろ。ドラゴンたちも、今は、簡単に壊せる、くらいの認識だろうから受けているが、この作戦を見たら、警戒するのは確実だ。2度目はない」
「うん。わかった。集中するよ」
ドラゴンさんの位置を捕捉する。
相手は2頭。1頭を捕らえても、もう1頭がいる。油断はできない。
私は2頭のドラゴンさんの位置を確認して、魔法に集中した。
私たちが何かを狙っているを察したのか、ドラゴンさんたちは、攻撃を止めて、さっきまでよりも距離を取っていた。
だけど、関係ない。
あの鎖なら、この距離でも届くのは、私がやった時で確認できている。鎖の強度に不安はあっても、その速度には差なんてないんだから。
「行くよ、アジムさん」
「こいっ!」
魔法の鎖を作る。
アジムさんは、それを素早く掴んで、痺れ薬を用意した。
それを確認して、私は青いドラゴンさんに向けて鎖を投げつける。
「ぐっ、ぬおおぉ!」
さっきまでとは比べ物にならない速さで、青いドラゴンさんに接近する。
さっきまでとは違い、アジムさんが鎖にしがみついていることに気付いた青いドラゴンさんは、咄嗟に避けようとしたみたいだけど、それは間に合わなかった。
グルンとドラゴンさんを1回転する鎖から手を離して、アジムさんが剣を構えた。
斬りかかってくると思ったのか、ドラゴンさんは、大口を開けてアジムさんを待ち構えている。
「グオオオオン!」
「今だっ!」
だけど、アジムさんは、最初から、剣で戦うつもりなんてない。
大きく開いた青いドラゴンさんの口に、アジムさんが痺れ薬を投げ入れた。
青いドラゴンさんの口には行った瞬間、煙幕のように痺れ薬が霧散する。
突然のことに驚いた様子の青いドラゴンは、首を振って、手をバタつかせた。だけど、徐々に苦しそうな声を上げて、翼の翼が鈍くなっていく。
どうやら、薬は効いたみたい。
ドラゴンさんは必死に抵抗を見せるけど、その体は、少しずつ下降していった。
「よし、もう1頭も!」
「グルルルルッ!」
だけど、そう簡単には行かなかった。
もう片方の赤いドラゴンさんは、今の攻撃を見て、すぐに鎖が危険だと判断したようで、鎖を作り出すよりも前に、赤いドラゴンさんが、炎を当たりに撒き散らす。
あれだけの炎が舞い踊る中、防御魔法を使いながら、鎖を飛ばすのは厳しい。
それに、ドラゴンさんの視線は、アジムさんに集中している。
さっきの攻撃を見られて、警戒してるんだ。
「やっぱり、2度は通じないか」
「うん。でも、1頭なら」
ドラゴンさんは強いけど、1頭だけなら、なんとかなるかも。
それに、今回はアジムさんがいる。
もし、アジムさんが、ついてこれるなら。
「アジムさん。考えたんだけど」
私は、アジムさんに作戦を伝えた。
「な、なるほど。それは、中々。……いや、わかった。それで行こう。俺もドラゴンキラー。それくらいのことはしておかないとな」
「あぶなかったらすぐにおしえてね」
「ああ、わかってる。行くぞ!」
アジムの掛け声と同時に、私はアジムさんを空に飛ばす魔法を解除した。アジムさんは重力に従って落ちていく。
だけど、その下に、私は魔法の鎖を作り出した。アジムさんは、それを足場にして立つ。
そのまま私は、いくつもの鎖を作り出して、アジムさんの足場を作った。
それと同時に、赤いドラゴンさんに向けても鎖を飛ばしていく。
さっきとは違う、全力の魔法。
これなら、赤いドラゴンさんの撒き散らす炎にも、少しは対抗できる。
ドラゴンさんをすぐに気付いて、受けることはせずに逃げ出した。
やっぱり、避けられると捕まえるのは中々に難しい。
スピードは互角だけど、赤いドラゴンさんの動きは優雅だ。動きを予測しても、どうしても避けられてしまう。
だけど、この前のようにはいかないよ。
今回は、赤いドラゴンさん1頭だけ。
邪魔はされない。
私はどんどん鎖を飛ばしていって、赤いドラゴンさんの動きを封じていく。
赤いドラゴンさんは、逃げ場が塞がれていって、焦るように鎖を破壊し出した。
そのお陰で、逃げる速度はかなり遅くなっている。捕まえるのはまだ難しいけど、今ならそれで問題ない。
だって、私には、アジムさんがいるんだから。
「よっしゃ! こっち見ろやぁ! ドラゴン!」
ハッと気付いた赤いドラゴンさんが、アジムさんの方を見た。
アジムさんは、赤いドラゴンさんよりもさらに上から飛び降りてくる。
流石の赤いドラゴンさんも、逃げられるような距離じゃない。攻撃に夢中で気付かなかったよね。
アジムさんは、ずっと赤いドラゴンさんから目を離していなかった。あれだけ動いていたのに。
だからこそ、この作戦は成功した。
「これでも食らえっ!」
そうして、さっきまで鎖を攻撃していて、開けっぱなしになっていた口の中に、痺れ薬を放り込んだ。
「っ!」
赤いドラゴンさんは、痺れ薬を飲み込んで、青いドラゴンさんと同じように、動きが鈍くなっていく。
そして、力尽きたように落ちていった。
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