第107話
ヒミコさんとウィーンテット領国の周りを調べ回る。
ちなみに移動は、普通に歩いていたら、時間がかかってしまうから、魔法を使って走っている。
だけど、何も考えずに走り回ると、ドラゴンさんに見つかってしまうかもしれないから、できるだけ隠れながら進んでいた。
幸か不幸か、ドラゴンさんがここまで攻めてきた時に攻撃したであろう跡は、私たちにとっては、隠れることができる、格好の場所だった。
「やはり、ここにも、ドラゴン様がいらっしゃいますね」
「うん。そうだね」
ヒミコさんは、地図にドラゴンさんたちのいる場所を記録した。
ドラゴンさんたちは、リリルハさんが予想していた場所と同じ場所にいる。違うのは、リリルハさんの予想よりも遥かに密集してドラゴンさんがいたこと。
リリルハさんの予想でも、ドラゴンさんの目を掻い潜ってウィーンテット領国に入るのは難しそうと思っていたけど、今見る限り、実際はもっと難しいように見える。
地図の通り、隠れられる場所もないし、私たちが隠れているような、攻撃の跡の窪みも、近くに行けば、あまり意味がない。
まだ反対側までは見れていないけど、多分、ここと同じくらいにはドラゴンさんがいると思う。
そうなると、ウィーンテット領国に入るのは、かなり厳しい。
「どうしよう」
この情報をただ持ち帰っても、厳しい状況を再確認しただけで、何も成果を得られない。
ウィーンテット領国は、外部からの侵入者を防ぐために、抜け道なんかも作っていないって、リリルハさんが言っていたし。
「とにかく、すべてを確認してみましょう。そうすれば、何処か一ヶ所くらい、穴があるかもしれません」
「そ、そうだよね。まだ、ぜんぶ見てないもんね」
ヒミコさんに言われて、私も気を取り直した。
だけど、ヒミコさんの表情を見ると、多分、そんな穴があるとは、思ってないんだろうけど。
◇◇◇◇◇◇
夜が近くなってきて、やっとウィーンテット領国を1周できそうだった。
だけど、結果は予想通りで、抜け道なんて、何処にもなかった。
しかも、夜になれば帰ってくれるかも、なんて淡い期待をしていたけど、結局、ドラゴンさんは、近くで休むだけでいなくなってはくれないみたい。
そうして、グルッと1周して、出発した森が見えてきた頃、遠くからリリルハさんが来るのが見えた。
リリルハさんは、すごい勢いで走ってきて、そのまま私に抱きついてくる。
そして、私の体を触り、無事なことを確認すると、私の手を繋いで、一緒に森の方へと戻っていった。
「アリス。怪我はありませんわね?」
「うん、大丈夫だよ」
私の姿を見て、リリルハさんは、ホッとしてるみたい。
「あなたも、大丈夫そうですわね」
「ええ、思いの外、ドラゴン様には、見つかりませんでした」
ヒミコさんが言うように、私たちは一度もドラゴンさんに見つかっていない。
隠れながら、慎重に動いていたからなのかもしれないけど、私たちが気にしていたのが嘘みたいに、順調に調べることができていた。
「そう。それなら良かったですわ。それで、収穫ですが」
リリルハさんの問いかけに、ヒミコさんは静かに首を横に振った。
何も口には出さなかったけど、リリルハさんには、それだけで伝わったらしい。
「そうですの。困りましたわね」
改めてヒミコさんが記録したドラゴンさんの位置を見て、リリルハさんは溜息を漏らした。
「ねずみ1匹、通さない、という意思を感じますわ。いえ、この場合、アリスを近付かせないようにしてるのかも知れませんけど」
「私を?」
私なんかじゃ、お姉ちゃんにとって、何の障害にもならないと思うけど。
「いいえ。アリスは、竜の巫女を覗けば唯一、ドラゴンさんたちに言うことを聞かせることができますわ。それは、竜の巫女にとっても、ある程度の脅威ではあるはずです」
そっか。そうだよね。
私には、お姉ちゃん程の力はない。
魔力もない。
ドラゴンさんたちを従える力もない。
だけど、少しだけ、お姉ちゃんの力を受け継いでいるのは確か。
だからこそ、ここにくる途中の村で、ドラゴンさんから、村を助けることができた。
それは、お姉ちゃんにとっては、邪魔な存在ということ。
あそこにいるドラゴンさんたちだって、私の声さえ届けば、言うことを聞かせられるかもしれない。
だからこそ、近付くことさえできないように、お姉ちゃんが対策をしてるのかも。
「でも、そうしたら、どうしたらいいんだろう」
お姉ちゃんが、私を近付かせないようにしてるってことは、ドラゴンさんたちが、あの場からいなくなることはほとんどあり得ない。
ウィーンテット領国を攻め落とすまで、攻撃が止むことはないだろう。
それを阻止するために動くこともできないなら、私たちは一体、どうすればいいんだろう。
「近付くことができないのなら、一度、戻ることを止めてはどうでしょうか?」
「は? 何を言ってますの?」
みんなで頭を悩ませている中、唐突にヒミコさんが、そう口を開いた。
ヒミコさんの言っている意図がわからず、リリルハさんは、少し怪訝な顔をしている。
そんなリリルハさんに、ヒミコさんは怯まずに話を続けた。
「ここを突破することは不可能です。無理に動いても、何一つ、良いことはありません」
「それは、わかってますわ。それでも、見捨てることなんてできませんわ」
「いいえ、見捨てる訳ではありません。手段を変えるのです」
「手段を、変える?」
ヒミコさんは、そこで一呼吸すると、私の方を見た。
「アリス様は、竜の巫女様が、何処にいらっしゃるのか、わかりませんか?」
「え? う、うーん」
突然聞かれても、わからないよ。
ヒミコさんたちにも言っていなかった、自分の居場所を、私が知ってる訳なんてないのに。
どうして、ヒミコさんは、そんなことを聞くんだろう。
リリルハさんたちも、ヒミコさんの意味のわからない質問に、困惑しているみたいだった。
「失礼しました。あるいは、とも思ったのですが」
「ヒミコ、どういうことなのか、説明しなさいな」
ヒミコさんは、リリルハさんに言われて、もう一度、そちらの方を向いた。
「つまり、あの国に向かうのではなく、直接、竜の巫女様の元へ向かうのです」
「竜の、巫女の所へ?」
ヒミコさんの作戦は、こうだった。
まず、ウィーンテット領国に入るのは、どう足掻いても難しい。
仮に、抜け道のようなものがあったとしても、それが罠である可能性は否定できない。
かといって、ドラゴンさんたちと戦って無理矢理入ろうにも、一度見つかれば、他のドラゴンさんたちもやって来て、敵うはずがない。
しかも、時間をかけすぎれば、防御すらも間に合わなくなって、ウィーンテット領国が攻め落とされてしまう。
だったら、今、何とかウィーンテット領国が魔法で堪えられている間に、お姉ちゃんを見つけて、なんとか説得しよう、ということだった。
ヒミコさんの作戦を聞いて、リリルハさんは、悩むように眉間にシワを寄せていた。
「あのドラゴン様たちを相手にするよりは、まだ現実味のある話かと」
「確かに、そうかもしれませんが。しかし、やはり、竜の巫女が何処にいるかわからなければ、意味がありません」
シュルフさんの指摘に、ヒミコさんが微かにうつむく。
「それは、その通りなのですが」
「それが、解決しなければ、結局、絵に描いた餅にしかなりません」
お姉ちゃんが何処にいるのか。
それは、誰もわからない。
もし、知っているとしたら。
それは、ドラゴンさんくらい。
「あ、そうか」
「アリス? 何か思いつきましたの?」
「うん。ドラゴンさんに、お姉ちゃんのいる場所をきけばいいんだよ」
ドラゴンさんなら、お姉ちゃんのいる場所を知ってるはず。
私がそうであったように、ドラゴンさんたちは、必ずお姉ちゃんを守っている。
だから、お姉ちゃんの居場所を知らないなんてことはあり得ない。
私が命令すれば、ドラゴンさんたちも教えてくれるはず。無理矢理、命令するのは気が引けるけど、そんなことも言ってられない。
「なるほど。確かに、それはその通りですわ」
リリルハさんも、ハッとしたように手を打ち鳴らした。
だけど、すぐに、難しそうな顔に変わる。
「ですが、どのドラゴンさんに聞きましょう。あそこにいるドラゴンさんたちは、やはり難しいですわよね」
「あ」
そっか。
ドラゴンさんに聞くにしても、やっぱりあそこに近付かないといけないんだ。
そうしたら、結局、見つかって、話す暇もなく攻撃されちゃう。
それだと何の意味もない。
だけど、それ以外に聞けるドラゴンさんなんていないし。
うーん。良い考えだと思ったんだけど。
「だったら、ここにいるドラゴン様以外のドラゴン様を探したら良いんじゃないっすか? もしかしたら、俺たちの通った町や村みたいに、襲われてる所もあるかもしれないっす」
そこで、キョウヘイさんが提案する。
「確かに、町や村を助けつつ、ドラゴンさんを見つけて、話を聞くというのは良いかもしれません」
シュルフさんも、キョウヘイさんの提案に賛成した。
そして、みんなの視線が、リリルハさんの方へと集中する。
「わかりましたわ。町や村を救援しつつ、ドラゴンさんを捕縛し、そして、竜の巫女の居場所を聞き出すのですわ」
リリルハさんが号令をかけて、私たちは地図を見る。
そして、次の目的地を見つけた。
「では、まず1番近い町は……」
1番近い町を見つけて指を差したリリルハさんだったけど、その言葉は途中で止まってしまった。
「リリルハさん?」
どうしたのかと聞こうとしたら、リリルハさんは、すごく険しい顔をしていた。
「どうかしたの?」
地図を見ても、それが何処なのか、私にはわからない。
シュルフさんも険しい顔をしてるし、ここって、何かある場所なのかな。
そう聞こうとした時、それよりも前に、リリルハさんが答えてくれた。
「1番、近い町を、エンブリア、ですわ」
「エンブリア」
何となく聞いたことがあるような、ないような。
そんな風に思っていると、ふと、テンちゃんの顔が浮かんだ。
そうだ。何かで聞いたことがあると思った。
「それって、もしかして」
「ええ、エンブリアは、テンのいる町ですわ」
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