第16話

 デリーさんに付いていって、辿り着いたのは、色んな薬や植物が並べられた、研究室のような所だった。


 あのあと、地下まで行った私たちは、何もない部屋に入った。


 そこで、赤い変な模様の描いてある床の上に立って、デリーさんが何かを呟いて。


 そうしたら、見たことのないこの森にいた。


 そこから少し歩いてやって来たのがここ。


 ドラゴンさんは、近くにいなかったから、さっきの場所に残してきてしまったのかもしれない。


 でも、ドラゴンさんなら大丈夫だよね。


 とりあえず、私は部屋の中を見回してみることにした。


 そこにある薬は鮮やかな色がついていて、すごく綺麗だった。でも、逆に植物は、少しだけ気持ち悪い色をしていて、あまり触りたいとは思わなかった。


 その部屋の真ん中に、手術をするための机のようなものが置かれていた。


「ここに横になれ」


 デリーさんが言う。


「どうして?」


 今は夜だけど、ここで寝ようとは思わない。

 寝るならちゃんと、ミスラさんのところに戻らないと。


「黙って言うことを聞け!」


 だけど、デリーさんは怒った様子で怒鳴る。


 どうして怒ってるんだろう。

 私、何か悪いことしたのかな。


 でも、どうしてこんなことをするのかわからないと、困るし。


 ちゃんとこういうのは聞いておかないといけないよね。


 ちゃんと聞けば教えてくれる、よね。


「ねぇ、デリーさん」

「クソガキが! 黙って、従え!」


 デリーさんが、いきなり近くにあったガラスの瓶を私に投げつけてきた。


 あ、ぶつかる。


「グオォォォン!」


 その瞬間、ズドォンと大きな音を立てて、天井に穴が開いた。


 そして、その穴からドラゴンさんの尻尾が現れて、その尻尾が、私を守ってくれた。


 ガラスの瓶は、割れてその場に散らばる。


「くっ。邪魔なドラゴンだ。こんな所までついてきたのか」


 聞こえてくる咆哮は、確かにドラゴンさんのもので、どうやったかはわからないけど、ここまで来てくれたみたい。


「くそが、これでも食らえ」


 デリーさんが、手をドラゴンさんの尻尾にかざすと、空中に変な模様が現れて、ドラゴンさんの尻尾に向かっていくつのも光線が出てきた。


「危ない!」


 言ったけど、すでに遅くて、その光線はドラゴンさんの尻尾を貫いた。

 何度も。


 私はすぐにドラゴンさんの尻尾を治療する。

 痛いのに変わりはないかもしれないけど、でも、治してあげないと。


 尻尾に穴が開いて、すぐに治してあげて。


 でも、光線は止まない。


「ブオォォォン」


 そんな中、ドラゴンさんが一際大きく吠えると、天井がすべて崩れて、ドラゴンさんが現れた。


 天井が全部落ちてきたけど、私のことはドラゴンさんが守ってくれた。


 でも、デリーさんは大丈夫かな。


「この、下等な生物が」


 デリーさんは薄い白い光の膜で守られているみたい。

 よかった。


 でも、デリーさんは恐い顔をして私たちを睨んでいる。

 と思ったら、今度はニヤッと笑った。


「だが、これはいい。実験に最適な状況だ」


 デリーさんはそう言うと、ぐちゃぐちゃに散らかった部屋の中で、何かを探すように物をひっくり返していく。


 そして、部屋の隅の方で、何かのスイッチを押す。


 その瞬間、私たちの周りの床が目も開けられないくらいの眩しい光を放った。


「あうう」


 目が痛い。すぐにドラゴンさんが尻尾で守ってくれたけど。


 それからしばらくして、やっと光が収まって、ゆっくりと目を開くと、私たちの周りを透明な壁が囲っていた。


 微妙に景色が歪んでいるから、わかる程度の透明な壁。


「これはなに?」


 デリーさんに尋ねる。

 でも、デリーさんは答えてくれなかった。


 その代わり、ニヤニヤと笑みを浮かべている。


 デリーさんの手元を見ると、よくわからない装置を持っていた。

 その装置を私たちに向けて、何やら操作している。


「まずは、小手調べだな」


 ガチャガチャと何かして、デリーさんが私たちにその装置に向ける。


 そして、その装置の先端の方がピカッと光ると、私の足元も同じように光った。


「え?」


 その瞬間、ガクッと力が抜けた気がした。


 そして。


「ひゃう!」


 ピカッと雷みたいな光が私に向かってきた。


 ドラゴンさんがすぐに翼で庇ってくれたけど、その威力はすごくて、その風圧だけで私は飛ばされそうになった。


 耳が壊れそうなくらいの大きな音で、ビリビリと瓦礫が悲鳴を上げる。


 この空間の空気が高温に包まれたように、景色が一瞬紅くなったような気がした。


 まるで爆弾が目の前で爆発したみたいな感じ。


 さっきまで家の瓦礫でぐちゃぐちゃになっていたのも、今の一撃ですべてが吹き飛んでしまった。


「なに、今の?」


 こんな攻撃、見たことない。


 デリーさんの方を見ると、さっきと同じ魔法で防御していたみたいで、怪我はしてなかったけど、その顔は驚愕に染まっていた。


「す、ばら、しい」


 デリーさんが呟く。

 そして、また装置を操作した。


 また、私の足元が光る。


「あう」


 また、力が抜けた気がした。


 そして、またさっきみたいな雷みたいな光が私たちに襲いかかる。


 それもドラゴンさんが防いでくれたけど、今の2回の攻撃で、ドラゴンさんの翼がボロボロになっちゃっていた。


 痛そう。


「ドラゴンさん。すぐ治すからね」


 私はドラゴンさんの翼に触れる。

 みるみるうちに翼は治っていくけど、痛々しいことに変わりはなかった。


「これだけの魔力を吸収しても、その回復力。素晴らしい」


 デリーさんは、少し気持ち悪いくらいの高笑いをする。


「どうして、こんなひどいことをするの?」


 聞いても、デリーさんは答えてくれない。


 というより、その装置に夢中で私たちのことが見えていないみたい。


「これなら、もっと膨大な魔力を吸収しても。いや、だが、それをすると、限界値を越えてしまう恐れが。ならば、制御装置を強化し、装置を増やして、力を分散させれば……」


 デリーさんは楽しそうに瓦礫が飛ばされて綺麗になった地面で、ずっと何かを書いていた。


 すごく楽しそう。

 だけど、それがすごく恐かった。


「デリーさん」


 私がデリーさんの所に行こうとすると、ドラゴンさんが尻尾で私を制止する。


 どうしたんだろう。

 そう思って、ドラゴンさんの方を見ると、危ない、と言っているような気がした。


「何が危ないの?」


 聞くと、ドラゴンさんは尻尾で透明な壁に触れた。


 すると、ビシャッと電気が流れたように、火花が弾けた。


 そうか。

 この壁は私たちが外に逃げられないようにもなってるんだ。


 この前のシュルフさんの時の魔法は、ただの壁だったけど、この壁は触ると痛いみたい。


 どうしよう。

 ドラゴンさんにこの壁を壊してもらおうかな。


「ドラゴンさん。この壁、壊せる?」


 聞くと、ドラゴンさんは首を横に振った。


「無駄だ。この壁はお前の魔力を使って作り出している。お前の魔力がなくならない限り、この壁が壊れることはない」


 ドラゴンさんが壁を壊せない理由を、デリーさんはきちんと説明してくれた。


 でも、難しくてよくわからなかった。


 とにかく、私がここにいる間はこの壁は壊せないってことみたい。


 それって、つまり、出られないってことかな。


 どうしよう。

 帰りが遅くなるって、アジムさんにも言ってないし、ミスラさんには黙って出てきちゃった。


 2人とも心配しちゃうかもしれない。


「ねぇ、デリーさん。私、帰らないといけないの」


 ちゃんと話せばわかってくれるはず。

 そう思って話しかけたけど、デリーさんは私を見下すような目をして、鼻で笑った。


「帰る? 馬鹿が。そんなことを許す訳がないだろ。こんなにも素晴らしい魔力供給装置を手に入れたんだからな」


 魔力供給装置って、デリーさんの持ってる装置のことかな。

 それとも。


「これでやっと、私を認めなかったあいつらを見返すことができるんだ。邪魔はさせない」


 デリーさんの目には、恐いくらいの執念が込もっていた。


 何に執着してるのか、それは私にはわからなかったけど、多分、負けたくない何かがあるんだろうな。

 ということだけは、わかった。


 それにすべてを懸けているんだろうな、ということも。


 でも、こんなすごい力、危ないと思うの。


「デリーさん。どうして、こんなことをするの? 危ないよ?」


 聞かないとわからない。

 私にはわからない。


 こんなにすごい力。

 人を傷つけてしまうかもしれない力。


 そんなのを持っていたら危ないのに。


「ふん。お前のような化け物に話す必要がないだろう」

「化け物?」


 私が?


「この壁もそうだが、さっきの攻撃も、すべてお前の魔力は使っている。これだけの魔力を持つものが化け物でないはずがないだろ」


 デリーさんが吐き捨てるように言う。


「そのドラゴンがお前に従っているのも、その影響だろう。そもそも、ドラゴンが人間に懐く訳がない」


 いや、それよりも、と、デリーさんが言う。


 そして、まるで汚いものを見るような目で、デリーさんが私を見下ろした。


 そして、心底嫌そうな声で、言う。


「お前は、魔人なんじゃないか?」

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