ノートーク・ノースパイ⑩
ルシアは隣国のスパイの間で、自分がスパイであると分かる方法を示し、大門から離れた案内板の陰で待機していた。 スパイという性質状、人の目に付きやすい場所はあまり通りたくはない。
そのためここで待っていると、スパイらしき人間を注意深く観察することができる。 流石に敵国から離れているためか、焦るように走っていて服装が地味な男がすぐにスパイだと分かった。
「あ、お疲れ様です」
「お疲れ様です。 姫様はどこにおられますか?」
「さっきここへ来る途中、姫を運んでいる者を見かけましたよ」
「なるほど・・・」
「では、俺はお先に」
そうして中へ入ろうとした者から、ルシアは次々と倒していった。 力はないが体力と運動神経はいい。 だから喧嘩は強かった。
十名程スパイを倒した頃、ようやく大きな箱を運んでいる二人の男が来る。 姫を運んでいるとバレないようになのか、かなり粗末な箱だ。
先程の男の言葉を聞いていなければ、怪しむだけで行動には起こしていなかったのかもしれない。
「お疲れ様です。 その中に入っているのは、もしかして姫様ですか?」
「はい。 このまま、渡しに行こうかと」
「俺は姫様の顔を知っています。 姫様が別の人だと困るので、先に俺に見せてくれませんか?」
そう言うと男二人は担いでいた箱を下ろし、中が見えるように蓋をズラした。 眠っているのは、先刻確かに出会った姫の顔。
本当にスパイとして姫を連れ出してきたのか怪しくなる程に不用心だが、おそらくはこの二人はただの運び屋だ。 ただ仕事の命を受け、やっているだけ。 姫を守ることより重要なのは、箱を運ぶことだ。
「うん、確かに本物の姫様のようだ」
「よかったです。 では、俺たちはこれで」
当然二人を逃がすはずもなく、サクッと打ち倒し陰へと運んだ。
―――ふぅ、一件落着。
―――姫様は傷一つないようだし、このまま運ぼう。
だがあまりにうっかりというか、自分には姫を運ぶ手段がないことを改めて思い出す。 大の男二人がかりで運んだ箱など到底持てるわけもなく、ましてや馬に積むなんて不可能だ。
―――・・・負ぶっていくしかないかぁ。
こうしてルシアは、馬のところまでゆっくりと負ぶり、姫が馬から落ちないよう慎重に自国へと戻った。 だが戻っている最中、背中に乗っていた姫が目覚めてしまう。
危害を加えるつもりはないが、もし暴れられでもしたら落ちてしまうだろう。
「あ、姫様お目覚めですか? 初めまして・・・ではなく、三度目ましてですね」
そう言って顔を向けると、姫は驚いた表情を見せた。 それも当然だ。 姫を攫おうとした張本人なのだから。
「さっきはごめんなさい、驚かせてしまうようなことをして。 姫様は無事にお城まで送りますので、しばらくの間はゆっくり休んでいてください。
戻るまで、結構時間はかかっちゃうと思いますけど・・・。 まだ姫様は、身体が重いでしょう?」
「・・・」
「ここには法律がありません。 喋ってもいいんですよ?」
「・・・」
―――まぁ、無視されても仕方ないか。
―――それ程俺は、罪深いことをしたんだから。
そう思いながらルシアは、国まで姫を無事に届け切った。
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