ノートーク・ノースパイ④




ルシアからの情報に従い姫を避難させた城であるが、警備はいつも以上に厳重に行っていた。 鼠一匹入らせないつもりなのだろう。 もぬけの殻となったはずの姫の部屋も、警備は強化している。 

そこに補佐のオリバーが佇んでいた。 狙われるとあった姫の部屋は最重要地点であり、オリバーは作戦参謀のような役目に就いている。 その時部屋にノックの音が響き、自身一人だけで応対した。 

姫からの伝令、それを伝えに来た模様だ。 だが、受け取ったメモ書きを見て『はぁ!?』と大声を上げそうになった。

考えたこともなかったが、その場合はオリバーといえど牢に入れられてしまうだろう。


“ケビンから報告がありました。 姫様が、外出したいと”


無理に決まっている。 そのようなことは、わざわざ伝えに来る必要すらない。 神経をすり減らしているオリバーには、まるで自分を困らせたいがための嫌がらせかと思った程だ。

まるでペンがひしゃげそうになるくらいの筆圧で、文字を記す。


“そんなもん、駄目に決まっているだろう!”

“しかし、ケビンが止めても姫様は言うことを聞かないそうで”

“お前はふざけているのか? 今の状況で姫を外へ出させるなんて『どうぞ攫ってください』と言っているようなものだぞ!”

“ですが・・・”

“とにかく、駄目だ駄目だ。 ケビンには、姫をどうにかして説得させろと頼んでおいてくれ”

“オリバー様、いいんですか?”

“何がだ?”

“姫様は、頑なに許可しないケビンを疑い始めているようです。 それで暴走を許すくらいなら、姫様本人に『貴女は今狙われている。 だから大人しくしておいてほしい』と伝えるべきです”

“それはならん!”

“でしょう? だったら、許可を出した方がいいかと・・・”

「・・・」

“姫様を不安にさせて、いいんですか? 姫様を不安にさせないことが、最優先でしょう?”


それを見たオリバーは、深く溜め息をついた。


“分かった、許可しよう。 ただし、ケビンにちゃんと伝えておけ。 姫様からは絶対に目を離すな、と”

“かしこまりました”


文官はそう言って去っていった。 だが、作戦を任されているオリバーとしては気が気で仕方がない。 部屋の中を行ったり来たり。 これからスパイが来るのかもしれないというのに、落ち着かなかった。


―――姫様が今日に限って外出だなんて、心配でしかない。

―――でも自分が行っても、ただの足手纏いにしかならないからな・・・。

―――ケビンに任せるのが賢明だ。

―――だが、万が一姫様が攫われたとしたら・・・。

―――そのような時は、ケビンを絶対に許すことはできない!



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