第3話 黄金の雨、神酒になる。
食料危機の難を逃れたユリーヌ王国。
魔物の被害を受けた村々も建物の復興が終わり、人々は以前の生活を取り戻していた。
いや、以前よりも豊かな生活を送っていた。
農作物が以前より巨大になったり、数が増えたりしたため、人々の生活にゆとりを与えたのである。
おまけに味が格段においしくなったため、人々は活力に満ちていた。
さらに、変化があったのは農作物だけではなかったのだ。
黄金の雨は王国全体に降ったため、山野や川などの自然にも影響を与えていた。
山では、キノコや山菜などが同様の変化を遂げた。
さらに山に生息する獣たちも、黄金の雨が含まれた水を飲んだり、栄養が豊富なキノコや山菜を食べたりして変化している。
獣たちの肉は、霜降り肉のように柔らかく、噛めば肉汁がどんどん溢れてくるような極上のものとなっていた。
川では大きな魚たちがわんさか泳いでおり、釣り針を垂らすと面白いように釣れた。
そして野原では、花が以前より美しく咲き乱れている。
それらの光景は、さながら楽園のようだった。
・・・
「うーむ、もっともっとうまい酒を造りたいな」
「ああ、そうだな。麦も米も、せっかく良質なものが作れるようになったんだから、俺達も頑張らないとな」
「あたしのとこは最高のものを作っているわよ」
ここはアルーコル村。
王国内で消費される酒を造っている村だ。
今は村長の家で、各酒造の代表者達が会合をしていた。
今回の会合の議題は、「美味い飯に合う最高の酒を造ろう」である。
美味しい食物が王国中で食べられるようになった結果、酒も同様に美味いものになっていた。
酒を造る原料がレベルアップしたのだから、酒の味もレベルアップしたのだ。
だが、まだまだ味を良くできるはずだ、とこうして皆で知恵を出し合っているところである。
だが、果実酒を作っている酒蔵の女主人は、自分のところのものは既に最高の出来だと主張している。
たしかに、新たに作られた酒の中で、果実酒は頭一つ美味いと評判だ。
「お前のとこの果実酒は原料に”アレ”を使ってないからな」
「ああ、そしておそらく、俺達が最高の酒を造るための鍵は”アレ”だろうな」
「ええ、”アレ”でしょうね」
「「「 水 」」」
そう、酒造りの重要な原料の一つが水だ。
他にどんなに良い原料を使っていたとしても、水が悪ければ酒の味は落ちる。
果実酒は原料の果実に果汁がたっぷりと含まれているので、酒造りに水を使わないのだ。
他の酒造では村の井戸から汲み上げた地下水を使用している。
「地下水には”女神の涙”が入ってないからなぁ」
「ああ、決してまずい水じゃないんだが、”女神の涙”が含まれた他の原料と比べると、な」
「そうねぇ、”女神の涙”が含まれてない普通の水じゃあねぇ」
その時、誰かが言った。
「水の代わりに”女神の涙”を原料にすれば良くね?」
☆
スイは森の中のいつもの場所で本を読んでいた。
本の内容は、酒蔵の主人である中年男性が異世界に転移して、ドワーフ達と最高の酒を造るために奮闘する話だ。
「僕もはやく大人になって、おいしいお酒を飲みたいな~」
物語では人々が美味しそうに酒を飲んでいる。
美味い酒を造った主人公は、酒好きのかわいいドワーフの女の子達からモテモテでハーレム状態だ。
酒を飲んだことがないので味はわからないが、きっとすごく美味しいんだろうな、とスイは想像した。
そして、そんな想像をしていたら、急に尿意を催した。
「僕も異世界で、おいしいお酒を作ってみたいな~」
そう言いながらスイは、のんきにユリンの木に向かって放尿するのだった。
☆
「! ついに、ついに”女神の涙”が降ってきた!ユリン様に、俺達の願いが通じたぞ!!!!!」
「よし、いっぱい降ってくれよ!ユリン様、よろしくお願いします!!!」
あれから毎日、アルーコルの村人全員で”女神の涙”を降らせてくれるように女神ユリンへ祈り続けた。
そして数日後、願いはついに叶ったのである。
”女神の涙”・・・黄金の雨が降ってきたのだ。
この日のために、村人達は雨水を貯める仕掛けを用意していた。
その甲斐あって、酒造りに十分な量の黄金の雨水を手に入れることができたのである。
そして、早速酒造りを始めるのだった。
・・・
ごくごくごくごく
「ぷはぁあああ!うめぇ!!今まで飲んだ麦酒の中で、最高の味だぜ!!!」
「この米酒もだ!1つ前に作られたのもうまかったが、こいつはさらに段違いにうめぇ!!!」
ここは、王都にある酒場だ。
酒場では、アルーコル村の新作が入荷したと聞いた客が押し寄せていた。
今度の新作は水のかわりに”女神の涙”を使って作られた酒らしい、そんな噂を聞いた酒好き達だ。
そして彼らは、その酒のあまりの美味さに、続々と驚きの声を上げるのだった。
これらの酒は、たちまち他の国々でも話題となった。
あまりの美味さに人気が沸騰し、すぐに品薄になる。
その結果、幻の神酒と噂された。
ユリーヌ国は、それまで他国に多額の借金をしていた。
しかし、酒や豊富に取れる美味しい食べ物のおかげで、他国への借金もどんどん無くなっていった。
高い値段でも飛ぶように売れるからだ。
特に品薄状態の酒は、他国の貴族が「1瓶だけでも売ってほしい」と白金貨の入った袋を持ってくるほどだった。
「これも全て、ユリン様のおかげです。本当にありがとうございます」
ハルン王は今日も、日課である女神ユリンの像への祈りを捧げていた。
こうしてスイのおしっこは、ユリーヌ国の経済事情まで回復させた。
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