第2話 黄金の雨、王国の飢餓の危機を救う。

亡国の危機から数日後、ユリーヌ国では魔物に荒らされた村々の復興に力を入れていた。


魔界・グリムフォレストから王都に来るまでの間にあったいくつかの村々は、壊滅的な状態だった。


幸い、黄金の雨によって魔物に殺された村人達は生き返ったのだが、家屋や畑などは破壊されたままだ。


そんな被害を受けた村の一つであるクロープ村では、村人達が頭を抱えていた。



「ああ、麦畑がめちゃくちゃだ・・・」


「ちくしょう!俺の大根畑もだ!魔物のくそったれ!!!」


「俺が育ててた人参も全部ダメになってた。畑ごとな・・・」


「私の果樹園もだよ。もう少しでリンゴやぶどうを収穫できるところだったのに、木が薙ぎ倒されてたわ・・・」


「オラの田んぼもだ。後ちょっとで稲が実るところだったのがパーだわ」


「ワシらはおしまいじゃ!これでは生活していけん・・・・」



生き返った当初は涙を流して喜んでいた村人たちも、今では暗い表情をしていた。


クロープ村は農業がとても盛んな村だ。


村の周りには多くの畑や果樹園がある。


そんなクロープ村も、今では見る影もない状態だった。


麦畑や田んぼ、大根や人参など多くの野菜を育てていた畑、リンゴやぶどうなどの色とりどりの果物が実をつけていた果樹園。


それら全ては魔物達によって踏み荒らされ、薙ぎ倒されていた。



・・・



「むうう、魔物の危機の次は、食料難か・・・!」



クロープ村の農作物の被害は、王宮でも大きな問題になっていた。


それは、クロープ村が王国の食糧庫と呼ばれていたからだ。


国内で消費される農作物の大半はクロープ村で作られている。


それが、魔物達によってめちゃくちゃにされた。


さらに悪かったのが、収穫期になる直前だったことだ。


食料は、魔物の襲撃を受けなかった村々で作っているものや、保存しているものもあるが・・・国民すべてを養い続けるには限界がある。


このままでは王国内で飢餓によって次々と死者がでてしまうだろう。



王・ハルン5世は、大臣たちを集め国難を乗り越えるための緊急会議を開いた。



「他国から農作物を買ってはどうか?」


「金はどうするのだ?財政的な余裕はないぞ」


「他国から借金すればよいだろうが!」


「既に借金しとるわ!だから金に余裕はないって言ってるだろうが!」



円卓の会議室で大臣たちが議論を進めるが、なかなか解決策はでない。


次第に紛糾していく会議の様子を眺めながら、王はため息を付くのだった。



「はぁ、このままでは我が国は・・・ユリン様、どうかご慈悲を・・・」



王はひとり、女神ユリンへの祈りを捧げるのだった。







「ふんふんふーん♪」



土曜日の昼過ぎ、中学生の少年・スイは上機嫌で森の中を歩いていた。


空は快晴だ。


その手には、少年が好きなライトノベルがある。



「待ちに待った『異世界の農家に転生したオイラが、農作物チートで神扱いされた件』の新刊を手に入れたぞ!」



そう言いながら、いつもの場所に辿りついたスイは、恒例の読書を始めた。


本の中の主人公は、チート能力を使って荒れ果てた土地に畑を作り、豊かに実った農作物を収穫していた。


農作物には不思議な力が宿っていて、その農作物がきっかけで主人公はどんどん成り上がる。


農作物を食べた人達があまりのおいしさに涙を流して感謝してきたり、農作物を食べて主人公に惚れたヒロイン達によってハーレム状態になったりと、主人公は次々と成功を手に掴んでいくのだ。


そんな内容の物語を、スイは夢中になって読み進めていくのだった。











あれから数日、食料難の危機は王国全体に知れ渡り、国民は一様に不安を感じていた。


王宮では議論の結果、隣国に食料援助を要請することを決定し、すぐに使者を送った。


しかし、隣国からのユリーヌ国への返事は”NO”だった。


既に多額の借金をしている状態のユリーヌ国に、力を貸す国はなかった。


仕方無く、王宮は国民に対して以下の通達を出した。


1.食料危機のため、食料をできるだけ消費しないようにすること。

2.王国内にある山野や川といった自然から積極的に食料を調達すること。


そして、あとは女神ユリンへ祈るだけだった。



「ユリン様、どうかお助け下さい」



王国全体が、女神ユリンへの祈りで溢れていた。


そんな時である、再び”奇跡の雨”が降りだしたのは。











スイが読書を開始してからしばらくして・・・



ジョーーーーーーー



「あ~、僕も農作物チートやってみたいな~」



そう言いながら、ユリンの木に向かって放尿するスイ。


すっかりスイは、ユリンの木を小便器扱いしていたのだった。











「・・・私は幻を見てるの?」



クロープ村に住む、シーラは思わずこう呟いた。


雲一つない空から、黄金の雨が降ってきた。


太陽の光を反射した雨粒は、宝石のように光輝いている。


それは本当に、幻想的な光景だった。


・・・だが、シーラが呟いたのはこの光景を見たからではない。


自身が以前に育てていたキャベツ畑の光景を目にしたからだ。


荒れ果てていたキャベツ畑は、黄金の雨によって以前の姿を取り戻していた。



「奇跡じゃ!ユリン様の奇跡じゃあああ!!!」



クロープ村の長老が叫ぶ。



「俺の麦畑が・・・!黄金に輝いてる・・・!!!」


「大根畑が元に戻ってる!!! 」


「うおおおお!人参畑えええ!!! え、人参でけええええええ!!!」


「すごいわ!!!リンゴが、ぶどうが!!!前よりたくさん生ってるわ!!!」


「オラの田んぼの稲!穂がいっぱいだああああ!!!」



村の周りの畑などから、次々にそんな声が聞こえてくる。


つい先ほどまで絶望的な表情をしていた村人達は、涙を流して喜んだ。


黄金の雨によって、村のすべての農作物は復活していたからである。


だが、それだけではなかった。


農作物はパワーアップしていたのだ。


大きさが巨大になったり、実の数が増えていたりと様々だが、一つの共通点があった。



「このリンゴ!すごく甘くておいしいわ!!!!!」


「なんじゃこのトマト!前より格段にうめぇぞ!!!!!」


「きゅうりうめええええええ!!!!!」



味が格段に良くなっていたのだ。


実った作物を食べた村人は皆、驚きの声をあげていた。


全員で手を繋いで踊っている一家もあった。



「ユリン様はなんて慈悲深い神なんだ!!!」


「ユリン様の奇跡を、私は一生忘れません!!!」


「ユリン様!ありがとうございます!!!ユリン様、ばんざーーーーーーい!!!」



そして村人達は、この奇跡の雨を降らせてくれた女神ユリンに対して、次々と感謝の言葉を口にした。




この奇跡はすぐに王国中に知れ渡り、王国全体が喜びに満ち溢れた。


そして、王宮は国民に対して、食料危機が去ったことを正式に通達したのだった。



それから数日かけて、クロープ村では農作物の収穫が行われた。


美味しい農作物は王国中に行きわたり、国民たちは皆笑顔で食事をするのだった。




またもやスイのおしっこは、ユリーヌ国を救ったのだった。

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