黄金の雨~森で立ちションしたらおしっこが異世界転移して国を救ってた~

ねお

第1話 黄金の雨、魔物の大群に無双する。

「ユリン様、どうか我々をお救いください」


グランダイト大陸にある小国・ユリーヌ国の王・ハルン5世は、女神ユリンの神像に向かって祈りを捧げていた。


その表情は悲痛なものだった。


ユリーヌ国の南に隣接するグリムフォレストから魔物の大群が押し寄せてきたからだ。


別名・魔界とも呼ばれるグリムフォレストには、魔物や魔獣の巣窟である。


これまでも何度か、ユリーヌ国の騎士団は魔界から攻めてくる魔物達を撃退してきたのだが・・・


今回の魔物の数は今までと比較にならないほど多かった。


王都から迎撃に出撃した騎士団は全滅し、王都を守る城壁を破られるのも時間の問題だ。


敵の大群は既に王都の周りを覆いつくしており、退路も断たれている。


城壁の外から聞こえてくる魔物達のおぞましい叫び声は、ユリーヌ国の滅亡を間近に感じさせた。




・・・




「もう、おしまいだわ・・・」


王国騎士団に所属する騎士・リッドを夫に持つファラは、自宅で絶望に打ちひしがれていた。


数時間前に王都の城壁の外に出撃した夫を見送ったのだが・・・


騎士団全滅の報を受け、目の前が真っ白になった。



リッドは幼馴染だった。


幼い頃から一緒に笑い、一緒に怒られ、一緒に泣いた仲だった。


そして、リッドが王国騎士団に入った時に、二人は一緒になった。


自分のお腹に新しい命が宿った時に、リッドと生まれてくる子供との明るい未来を信じて疑わなかったのに、現実は無常だ。


このままでは自分も、生まれてくるはずの命すらも、魔物達によって散らされてしまう。


「ユリン様・・・せめて、この子の命だけでも・・・」


大きくなった自分のお腹をさすりながら、叶うはずのない祈りを口にするのだった。




・・・




城壁の外には無数の魔物達がひしめいていた。


魔物達いる場所は草原地帯なのだが、緑が見えないほどであった。


魔物達は城壁を乗り越えようと、他の魔物や死骸を足場にして登ってくる。



城壁の上では、魔物の侵入を阻止しようと必死に武器を振るう男達がいた。


衛兵だけでなく、文官も職人も商人も関係なく、戦える男達は皆いた。


彼らは懸命に応戦するも、魔物は倒しても倒しても次から次へと登ってくる。


絶え間ない魔物達の攻撃により、彼らは一人、また一人と力尽きていく。


王国の衛兵であるジョンも、魔物達に向けて必死に剣を振るっていた。


昨日まで軽口を叩き合っていた親友のバドも、今は既に魔物によって物言わぬ躯に変えられていた。


(ユリン様、どうか、どうかお力をお貸しください!ユリーヌ国を・・・俺達を守ってください!)


自分達ではどうしようもできないような現状で、彼はそう願わずにはいられなかった。




・・・




絶望的な状況に、誰もが国教であるユリン教の主神である女神ユリンに祈りを捧げていた。


そんな時である。


パラ・・・パラ・・・パラパラパラパラ。


雨が降り始めた。



空には雲一つないというのに、雨足は次第に強まり、王都一帯に降り注いでいった。


それを呆然と見ていた誰かが口を開いた。


「黄金の・・・雨だ」


日光を反射した雨粒は、まるで宝石のように輝いていた。




そして・・・




「「ぐぅおおおおぉぉぉ」」



雨を浴びた魔物達が一様に苦しみだした。


先ほどまで猛々しく吠えていた魔物の叫び声は、苦痛のうめき声に変わった。




・・・




「はぁ、はぁ・・・一体、何が起こってるんだ・・・?」



城壁の上で戦っていたジョンは、いち早く異変に気付いた。


黄金の色をした雨が降ってきたと思ったら、魔物達が登ってこなくなったからだ。


それどころか、今まで山になっていた魔物達の足場は次々と崩れていった。


どうやら魔物達の身体が次々と溶けているようだ。


王都の周りを埋め尽くしていた魔物達が全て溶けるのに、そこまで時間はかからなかった。


魔物達のうめき声は全く聞こえなくなった。



「・・・奇跡だ!ユリン様が奇跡の雨を降らせてくれた!!!」


「俺達は、助かったんだ!!!」


「ユリン様!ユリンさまああああああ!!!」



城壁の上で戦っていた男達は、皆涙を流して狂喜した。


歓喜の雄叫びをあげる者もいる。



そして黄金の雨はさらに奇跡を起こしていた。


力尽きていたはずの男達が、身体を起こしたのだ。


衛兵のバドも目を覚まし、ジョンは号泣して抱き着いていた。




・・・




異変に気付いて外に出たファラは、呆然と空を見上げていた。


黄金の雨が空を埋め尽くしていた。


それはまるで、夜空に輝く満点の星のよう・・・・


いや、それ以上に輝いて見えた。



「きれい・・・」



その幻想的な光景に目を奪われていると・・・


ファラに向かって、一人の騎士が歩いてくる。


それに気づいて顔を向けたファラは、目を大きく見開く。



「・・・ただいま、ファラ」



ファラの前まで来た騎士はそう言った。


それは、ファラが良く知る、最愛の人の顔だった。


しかし、すぐに彼の顔は見えなくなった。


視界がぼやけたからだ。



「・・・!リッド!リッド!リッドおおお!!!」



ファラは涙を流して何度もリッドの名を叫びながら、彼の胸に飛びつくのだった。




・・・




こうして、滅亡寸前だったユリーヌ国は救われた。


黄金の雨は、数万の魔物の大群を全滅させただけでなく、この戦いで魔物達に殺された者全ての命を蘇らせたのだ。


負傷した者達も雨によって傷は癒えた。その力は、失った四肢すらも復元するほどだった。


この雨は国民の祈りを受けた女神ユリンがもたらしたものだとされ、「奇跡の雨」や「女神の涙」と呼ばれた。











「あ~気持ちい~~~」



森の中で、一人の少年がおしっこをしている。


彼の名前は黄金きがねスイ、中学1年生だ。


彼がおしっこをひっかけている木は”ユリンの木”だ。



それは、異世界グランガルドの神の一柱であり、ユリーヌ国の神であるユリンの祈りによって地球上のここだけに生えた木だ。


その木の幹に触れたモノは女神ユリンの祈りの力によって、特別な力を与えられて異世界のユリーヌ国に転移するのだが・・・


今のところ触れたのは少年のおしっこだけだ。


そのため、特別な力を与えられたおしっこがユリーヌ国に降り注いだ。



「おしっこしたし、ラノベの続き読もーっと」



少年は、高校生が異世界転移して国を救うライトノベルの続きを読み始めた。


本の中の主人公は、チート能力を使って魔物達を殲滅し、救国の英雄として祭り上げられている。


国民からは次々と感謝の言葉を受け、かわいいヒロイン達からは次々と求愛され、ハーレム状態だ。




「あ~僕も異世界転移したいな~」




自分のおしっこが異世界転移して国を救っていたとは知らずに、少年はそう口にした。

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