第4話 黄金の雨、魔物の大群に無双する。2
これは、ユリーヌ国へ魔物の大群が押し寄せてくる少し前のこと。
「時は満ちた・・・。人間の国を征服する時だ。」
魔界・大森林グリムフォレストには魔王がいる。
魔王は配下の魔物を使って、人間の国を滅ぼそうと考えていた。
北にある人間達の領土の全てを手中に収め、グランダイト大陸の征服という計画を立てていたのだ。
それは長い年月をかけた壮大な計画だった。
今までは魔物の数が少なく、到底人間の国を滅ぼせるような状態ではなかった。
個々の力は人間よりも魔物のほうが圧倒的に高いのだが、人間達は知恵が回る。
武器や防具などの戦う力を増幅させる装備、弓矢や投石機などの飛び道具もある。
さらに言えば、人間達には神の加護まであるらしい。
歴代の魔王たちも人間の国へ侵攻したが、その全ては失敗に終わっていた。
だから今代の魔王は、慎重に慎重に、数百年かけて魔物を増やし、十分な戦力を蓄えたのである。
さらに、歴代の魔物の侵攻は、ただ魔物達を人間の領地にけしかけるだけだった。
無秩序な魔物達の侵攻は、指揮系統を持つ人間達の軍に各個撃破されたのだ。
そのため、魔王は今回の人間国の侵攻にあたって、自らの直属の配下である四天王を指揮官として据えることにした。
「コボルトロード、魔王軍を率いて人間の領土に侵攻せよ。手始めにユリーヌ国だ」
「魔王様、承知しました。このコボルトロードにお任せください」
魔王は指揮官の大役を、四天王の一人であるコボルトロードに任せた。
コボルトロードは四天王の中でもっとも軍を指揮するのに最適だと考えたからだ。
コボルト族の長である彼は、配下達を率いて魔界内で魔獣を狩っている。
集団戦のエキスパートなのだ。
そして侵攻先は、魔界に隣接する人間の国の中で最も弱小国であるユリーヌ国を選んだ。
抜かりは無かった。
・・・いや、無いはずだった。
☆
「全滅・・・しただと?」
コボルトロード率いる魔王軍はユリーヌ国へ侵攻した。
魔王軍は迎撃してきた騎士団を蹴散らし、次々とユリーヌ国内の村を落としていった。
そして、僅か2日で王都まで迫り、王都占領も目前。
先ほどまで、私はそのように伝令の魔物から報告を受けていたはずだった。
「ど、どうやら、ユリーヌ国の女神ユリンが奇跡を起こしたようです・・・」
私の怒気を感じたのか、目の前にいる伝令の魔物は気圧されながらそう報告した。
・・・どうやら、王都侵入の直前に黄金の雨が降ってきたらしい。
雲一つない空から降ってきたそれは、魔物の身体を強力な酸のように溶かしていったそうだ。
それによって数万の軍勢は、指揮官のコボルトロードもろとも、全て溶かされたのだという。
グリムフォレストの上空から遠視していた魔物が、その光景を目にしたとのことだ。
その雨を、人間共は女神ユリンが起こした奇跡だと言って”奇跡の雨”、”女神の涙”などと言っているそうだ。
「こざかしい、人間共め・・・!」
私は怒りの声をあげた。
その声を聞いた目の前の魔物は泡を吹いて気絶してしまった。
倒れた伝令を他の魔物に片づけさせた時、巨漢が私の前に進みでてきた。
「魔王様!次は俺にまかせてくれぃ!」
「・・・オーガロードか」
四天王の一人、オーガロード。
その身長は私の倍以上もあり、身体は筋肉によって膨れ上がっている。
頭の中にも筋肉が詰まっていそうな奴だ。
魔王軍の中でも随一の腕力と、鋼の身体を持つ魔物。
個人の戦闘能力は魔王軍の中で最強だろう・・・私を除けばの話だが。
「コボルトロードは四天王の中でも最弱!最強の俺なら間違いなく人間の国を落とせる!」
「だが、貴様に魔王軍を率いることなどできないだろう?」
「魔物は村にけしかけて、王都は俺一人で落とすぜ! 神の奇跡なんざそうそう起こらねぇだろうし、それに・・・」
「俺の身体に酸は効かねぇ!」
自信満々にオーガロードはそう言った。
ふむ、確かにオーガロードの言うことも一理ある。
村を落とすだけならば、統率が取れてない魔物でも十分だろう。
それにオーガロードの鋼の身体は、魔界にあるどんなものでも溶かすと言われる酸の池も平気だ。
もし万が一、またユリンの雨が降ったとしても、オーガロードの身体は溶かせまい。
私は十分に勝算があると判断した。
「よかろう。オーガロードよ、お前に任せよう。魔王軍を再編成し、ユリーヌ国を滅ぼしてくるのだ」
オーガロードにそう命じた。
十分な準備をして万全の体制を整えるため、侵攻は半年後に行うよう厳命した。
☆
スイは森のいつもの場所で読書をしていた。
今日読んでいるのは、以前にも読んでいた、高校生が異世界転移して国を救うライトノベルの続きだ。
本の中の主人公は、魔王の軍勢の中で最強の魔物と戦っていた。
そして、チート能力を使って勝利をおさめ、女の子に求愛されてハーレム状態だった。
「う~、今日は肌寒いなぁ」
もうすぐ夏が始まるような時期だというのに、その日は寒かった。
「テレビで異常気象だって言ってたけど、本当に寒いなぁ」
寒い日はトイレが近くなる。
「ふい~、あったかい。うわ!湯気が出てるよ」
森の小便器に放尿するスイ。
放出するおしっこからは湯気が出ている。
「寒いから今日はもう帰ろう」
放尿を終えたスイは、早めに帰宅することにするのだった。
☆
「ぐああああああ!」
魔王軍の四天王であるオーガロードは、ユリーヌ国の王都の城壁を前にして苦し気な呻き声をあげた。
雲一つない空から降ってきた、黄金の雨を浴びたからだ。
オーガロードはユリーヌ国へ侵攻すると、1人真っ先に王都へ向かって走った。
他の村々は配下のオーガ達に魔物をけしかけさせたので、自分は一気に王都を落とそうとしたのだ。
そして、ようやく王都の前に到着した時である。
黄金の雨が降ってきたのは。
酸の雨など、自分の身体には効かない。
そう思っていたオーガロードだったが、彼は勘違いしていた。
降ってきたのは、酸の雨ではなかったのだ。
「熱い!?熱いいいいいいいい!?!?!?」
黄金の雨は、まるでマグマのように熱かった。
それを浴びたオーガロードの身体は徐々に溶けて蒸発していった。
(酸だと思っていた雨は、灼熱のマグマの雨だったのか!)
黄金の雨を侮っていたことを、激しく後悔するオーガロード。
だが、後悔してももう手遅れだった。
ついに何もできずに、オーガロードの身体は全て蒸発してしまったのである。
・・・
「ユリン様がまた奇跡の雨を降らせてくれた!ユリン様ばんざーーーーい!!!」
ユリーヌ国の国民たちはまた歓喜の声をあげた。
魔物の大群が再び攻めてきたことを、警戒中の騎士団の小隊が気づいた。
そして小隊の騎士達は手分けをして、王都や村々に馬を走らせて連絡したのだ。
そして、その連絡を聞いた国民たちはいっせいに女神ユリンへの祈りを捧げた。
その結果の雨である。
今回は、魔物からの被害は0だった。
魔物の大群は各村に向かっていたが、どれもが村に着く前に黄金の雨によって溶けたのである。
なぜか1匹で王都の前までやってきた巨大なオーガも溶けて蒸発した。
「「「 ユリン様!ありがとうございます!!! 」」」
またもや、スイのおしっこはユリーヌ国を救った。
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