想いが通じる5分前

「このネオンテトラ、きっと恋をしてるわ」


 水槽を眺めて、はしゃいでいる乃愛の隣で、僕は頭を悩ませていた。

 どうやって想いを伝えようか。どのタイミングでプレゼントを渡そうか。

 いざ当日になると、事前に考えていたプランというものは全く当てにならない。


「それは、クリスマスだから?」

「ううん、寒いからよ」


 いつもの調子で、乃愛は答える。落ち着いたトーンの乃愛の声が、僕は好きだ。


 水槽をいくつかめぐる間に最善策へ辿り着けなかった僕は、思いきって乃愛に聞いてみることにする。

 さながら、高さのある飛び込み台から、プールに飛び込むような心境だ。


「ねえ、乃愛」

「ん?」

「さっきのネオンテトラが恋をしてるとして」

「うん」

「乃愛は、恋をしてる?」

「私が?」

「そう、乃愛が」


 飛び込み台を離れた僕は、着水の成功を祈りながら水面へ落下してゆく。

 静寂のなか、鼓動だけが波打っている。


「してるよ」


 一瞬、体の奥が浮いた気分になる。

 平穏を諦めた心臓が、はち切れそうだ。


「それは、寒いから?」


 乃愛は、頬を少し緩める。


「ううん、貴方あなただから」


 頭と体の反応が、数秒ずつ遅れ始めるのを感じる。

 心臓は相も変わらずはち切れそうだが、同時に心地よい安心感も押し寄せてきた。


 どうやら無事に着水できたらしい僕は、ロマンス色の水中世界へと深く潜ってゆく。


「釣られてみちゃった」


 乃愛はそう畳み掛ける。

 いや、おそらくそれは違う。釣糸にかかったのは僕の方だ。


 ギフト用に可愛くラッピングされたミニサボテンが、クスリと笑ったような気がした。

 サボテンは鞄のなかで、静かに自分の出番を待っている。

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水中世界は、ロマンス色。 花沢祐介 @hana_no_youni

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