第8話 トウライレポート 後
授業が終わり、色々と予定をキャンセルしてリリアと一緒にトウライに会いに行った。
1年の講堂に入ると、入学したての若い子たちがギクシャクしながらも派閥に分かれ交友を深めていた。実に微笑ましい景色だ。
生意気にもトウライの派閥もできているようだ。その中にマーレインの姿も見えた。
エレステレカはそのグループに足を向ける。
「トウライ・ママ、話があるわ」
周囲の生徒たちは、突然の公爵令嬢の登場に緊張する。
トウライはアリシア派閥と同じように日和見派閥、派閥の頂点のようなエレステレカの登場にビビり上がる気持ちはわかる。
「いいえ、わたしにはありません!」
そうはっきりと断ったトウライの言葉に、何人かが失神した気持ちもわかる。
「そう、残念だわ。それじゃ行きましょ、リリア」
「え? はい」
「リリアちゃん! ダメだよ! そいつから離れて!!」
リリアの背中を押して出ていこうとすると、トウライは慌てて追いかけてきた。
理由はわからないが、彼女はリリアから引き剥がそうと一生懸命なのだ。
出てきた彼女の腕を掴む。
「そっ。それじゃ行きましょう、トウライ」
「あれ? ちょっと待って、リリアちゃん!」
トウライの腕を掴み、無理やり引っ張って講堂を出た。品はないが、結果が出せる。リリアはトウライ派閥の面々に頭を下げて、ついてきた。
使用人たちの部屋を適当に借り、トウライを無理やり押し込んだ。
「さて、私はエレステレカ。あなたは?」
「むぅ・・・トウライ・ママよ」
いつもの歯切れの良さがない。
さすがに密室に押し込まれれば恐ろしいようだ。
「随分リリアによくしてくれているそうね。嬉しいわ」
「むっ、まるでリリアちゃんがあなたのもののような言い方ですわね!!」
顔を真っ赤にしながら食いついてくる。
「あら、私とリリアは仲良しよ」
「そ、そんなわけない!」
断言してきた。
そう、まったくもって「そんなわけがない」。そのことを知っているのは、この世界でエレステレカとリリアだけのはずだ。
「どうしてそんなわけないのかしら?」
前の私なら、ニニヨ人にコケにされまくっている現状、ぶちギレて何も考えず戦争を行っていたはずだ。
だが、今の私は違う。
どうもこう、やる気が出ない。ネチネチと嫌がらせをする程度、今の私しか知らないこの時間軸の面々に嫌われるいわれはない。
「ど、どうしてって、その、あ、あなたの本性が見えるの! 魔法よ魔法!」
ふむ、やはりそうか。
エレステレカはその言葉に、心底納得した。
どこかの国の諜報員かもしれないと危惧して接触したのだが、この緩さは違うんじゃないかと思ってしまう。
「こんなにいい人なわけがない、3作そろって悪役令嬢なのに」
よくわからない呟きは聞き流していた。
時々変な能力を持って生まれる人間がいる。特待生として選ばれたのも、きっと何かの能力によって突破したに違いない。
もちろん卑怯だアホだとか言って弾劾するつもりはない。
手駒として彼女を利用するつもりだ。リリアにこだわりがあるようなのでそれを利用して・・・
「そうか、騙されてる」
トウライはがしっとリリアの肩を掴んだ。
「信じてもらえないかもしれないけど、信じて! 原作と違ってすごくフレンドリーだけど、絶対何か裏がある! あなたを何度も何度も殺そうとするヤバい奴なの!」
エレステレカとリリアは顔を見合わせる。
「なんだかわかんないけどリリアちゃん元気ないし、卒業式で殺されちゃうかもしれないの!!」
エレステレカは首を振る。
「いいえ、あの時と違って運動サボってるからあっさり負けるわね」
「ふぇ?」
「任せてください。ボク、今度は怪我をさせないように倒します!」
「甘ちゃんが、焼け死ぬのは熱いのよ! 今度はちゃんと殺しなさい!」
「イヤですよ! 炎の中で高笑いをするエレステレカ様の姿は、今でもトラウマなんですから!」
「えっ、えっ!?!?!?」
トウライは2人の会話に動揺し始める。
「どうして炎の卒業式イベント知ってるの!?」
リリアが、後ろから羽交い絞めにした。
エレステレカはトウライの顎を持ち上げ視線を外させないようにする。
「あなたが知っていることの方が問題じゃない?」
トウライは思いっきり混乱していた。
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