13の4 魔法の応用



 カッパさんの二人は直射日光を真上から浴びると死にかけるそうなので、日が傾いてから出発することにした。なんでも頭のお皿に貯まった水がレンズ効果になって脳に直接ダメージを与えるらしく、場合によっては熱暴走して危険とか言っていた。パソコンみたいだね。


 アデレちゃんは砂漠のオアシスに逆戻りすることになったので、ずっとイスカちゃんに任せている商会のことが心配なようだ。


「あたくし、イスカさんへのお手紙をレイヴに届けてもらおうと思いますの」


「そうだね、まだ何週間か戻れないだろうし、その方がいいかもね。私もピステロ様とマセッタ様に「みんなと合流しました」ってお手紙を送らなきゃ」


 私はルナ君からお借りしているペリコにお手紙の配達をお願いして、砂漠のオアシスってところまでイナリちゃんに乗って行くことにしよう。


「あー、ペリコがいないと乗り物が減って不便なのかなぁ、けっこう大所帯だもんねぇ、シャル皇帝とイナリちゃんに乗るしかないかなぁ・・・」


「ナナセさん、父上の護衛は私が務めようと思います(キリッ)」

「ナナセ姫、娘を護るのは父親の責務でございます(キリッ)」


「はいはい、一緒がいいんですね、わかりましたよ、まったくもう」


 シャル皇帝とアイシャ姫はイナリちゃんに二人乗りで向かう気満々だった。もういいよ。



「そんじゃ、出発進行ー!こんどの休憩所へしゅっしゅっしゅー!」


「「「???」」」


 誰が誰に乗っていくか散々考えた挙げ句、私はカッパの二人と一緒に猫神様に乗ることにした。これは重力結界で灼熱の太陽を遮断するために二人を包みながら、テレス君にその結界の張り方を教えてあげるためだ。


 他のメンバーは、シャル皇帝とアイシャ姫がべったりくっついてイナリちゃんに乗り、アデレちゃんはいつも通りベルおばあちゃんを押し込んだリュックを背負い、疲れが取れていないシンくんを一番安全そうなハルコの背中にくくりつけた。


 荷物については、私の大きなリュックとカッパさん用の大量の水をアイシャ姫に全部押し付けた。決してやきもちで嫌がらせしているわけではない。ちなみに、イナリちゃんに乗ってると光が邪魔して荷物を軽くする重力魔法が使えないから大変かもしれないけど知らない。


「ナナセ様の日傘のおかげで快適ですぅっ!」

「とても涼しいですぅっ!」


「重力魔法と温度魔法を同時にずーっと使ってるとさ、すごい疲れちゃうからさ、おひさまが落ちるまでだよー」


 カッパさんたちのお皿を乾かさないように重力結界で包みつつ、その中を温度魔法で涼しくしている。ベルおばあちゃんって、いつもこんな大変なことしながら私やアデレちゃんを運んでいたのかと思うと頭が下がる。


「ねえねえアリスちゃん、大気中の水分を集められるでしょ?」


「難しい言葉ですぅっ」


「えっと、ジメジメした空気を日傘の外に出しちゃってよ」


「あたしたち、ジメジメの方が好きなんですけどぉっ」


「あそっか、カッパだもんねぇ・・・だったらさ、二人のお皿の上に集めてみるのはどうかな、除湿すればするほど温度魔法の効果がグッと高まる気がするんだよね」


「わかりました、やってみます・・・わあ!ナナセ姫様すごーいっ!快適になってきましたぁっ!寒いくらいですぅっ!」


「涼ちぃー!大成功だよアリスちゃん!私も液体魔法を頑張って練習したくなったよ!」


「ぼ、ぼくも頑張って日傘の練習しますぅっ!」


「テレス君が重力結界作ってくれて、アリスちゃんが水分集めてくれれば、私は温度を下げるだけで済むからずいぶん楽になるよ!頑張って練習しよー!」


「「おおーっっ!」」


 テレス君は元々かなり強力な重力魔法を使いこなしていたので、私がお手本になった結界を真似する練習はそんなに時間がかからなかった。アリスちゃんの方も、元々乾燥している砂漠の大気から水分を集めるのは苦にならないようで、むしろ私がそれを真似して液体魔法の練習するのにちょうど良かった。


「やっぱ良いお手本がいると魔法の練習が楽だねぇ、むむむん・・・」


「ナナセ姫様は人族とは思えないほど魔子の扱いが上手いですぅっ!」

「もっと色々な使い方を教えて欲しいですぅっ!」


「あはは、私の魔法は全部テキトーな思いつきだよぉ。それに重力魔法についてはアイシャ姫とか紡ぎ手のピステロ様とかの方がすごいし」


「アイシャール姫様からも教わってみますぅっ!」

「重力魔法の紡ぎ手殿にもお会いしてみたいですぅっ!」


 こうして、カッパさんたちと私が乗る黒猫号だけ快適なエアコンを完備することに成功した。この組み合わせで移動して良かったよ。



 夕日が沈んだ頃、最初の王の道に点在する最初の休憩所へ到着した。ここには人がすんでおらず、土壁と石材で作った丈夫そうな小屋と、木材で蓋をしている井戸があった。さっそく蓋を開けて中の様子を見ながらシャル皇帝に使い方を教わる。


「ナナセ姫、しばらく使用していない井戸は水質に問題があり、すぐには使えませんぞ」


「ああ、大丈夫ですよ、眼鏡で見れば危険かどうか判断できますから」


「なんと・・・それは大変失礼致しました」


 女神様に作ってもらったチート眼鏡です。ごめんなさい。


「とりあえず濁ってる分だけは捨てた方が良さそうですね」


「ナナセ姫様っ、それでしたら、あたしが不純物と綺麗な水を分離させますぅっ!水がもったいないですぅっ!」


「おおー、アリスちゃんすごい!液体魔法ってそんな使い方できるんだ!」


「えへへ」


 液体魔法は液体「だけ」を操ることができる。つまり、井戸から汲み上げた濁った水から、泥やゴミを分離させることが可能だ。ただ、大量の水を一瞬で分離させられるわけではなく、コップ一杯につき五分くらいはかかるようだ。でもまあ、便利な浄水器だよね。欲しい。


「ぬぬぬん・・・うん、雑菌とかそういうのは大丈夫そうだよ。アリスちゃんには引き続き綺麗なお水の確保をお願いして、私とアイシャ姫はベルおばあちゃんの温度魔法で手伝ってもらいながら食事の準備をするから、他のみんなでたき火にできそうな枝を集めたり、小屋のお掃除をしたりして下さーい!」


「「「はーいっっ!」」」


 知らず知らずのうちに、私がこのメンバーの隊長になってしまったようだ。本物の皇帝とお姫様が二人もいるのにいいのかな。



「(カンカンカン!)できましたよー!」


「「「はーいっっ!」」」


 私はお鍋の底をお玉で叩いてみんなを集合させる。テレス君はイナリちゃんの光が苦手だから一人で端っこで食べるのかと思ったら、今まで見たことない不思議な重力結界をイナリちゃん側にだけ発生させて身を守っていた。


「テレス君なにそのバリア!」


「えへへ」


「重力結界と違って全身を包む感じじゃないんだねぇ、ぬぬぬん・・・」


 テレス君はさすが紡ぎ手の助手だけあって魔法の使い方が上手い。どれどれと眼鏡を通してよく観察してみると、六角形に加工した小さな重力結界をいくつも繋ぎ合わせて、形状を自在に変形しやすくするための工夫がしてあるようだ。


「ひとつひとつを少しだけ歪めれば曲面にもなりますし、必要な分だけ作り出せば魔子の無駄遣いも減らせますし、イナリ殿ともゆっくりお話できますし、これなら良いことだらけですっ!最初は小さな円形をたくさん作って繋ぎ合わせてみたのですけど、その隙間を均等に埋めるように変形させたら勝手にこうなりましたぁっ!」


「おおー、ハニカム構造ってそういうメカニズムだったんだ!」


「結果としてぼくの甲羅みたいになりましたぁっ!」


「確かに甲羅模様だ!私も魔法障壁出したい!かっちょいい!」


 この遠征中にハニカムシールドを習得してピステロ様に自慢しよう。



 今回の遠征には乾燥させた食材をたくさん持ってきたので、乾燥キャベツと干し肉を戻してお好み焼きもどきを作った。前世で使ってたお好みソースとかトンカツソースなんて無いから、餃子のタレみたいなのを用意した。お好み焼きっていうよりチヂミっぽくなったね。


「お姉さまのお料理は独特な味わいが癖になりますの(もぐもぐ)」


「このタレ思いつきで作ってみたんだけど、けっこういけるねー(もぐもぐ)」


「ナナセ姫、この黒い調味料は帝国でも作ることは可能なのでしょうか?」


「あー、これの作り方って先祖代々の秘伝みたいなこと言って職人さんが教えてくれないんですよ。それと、大豆を発酵させて塩分加えて日持ちするようにしてあるんですけど、製作過程の温度管理とかけっこう繊細みたいなんで、王国とは気候がずいぶん違う帝国で作るのは難しいかもしれません」


「そうですか、せっかくアイシャールが作ってくれる美味しい食事も、この旅が終わればお別れということですな・・・」


「いや、こういった液体って輸出入に適してるってアデレちゃんのお父さんの大商人が言ってたんで、そのうちナナセカンパニーが大量に売りに来ますよ。小さなタル一つで四人家族一年分くらいはあります」


「アデレードの父ということは・・・アイシャールの・・・ぬわぁああっ」


 あららら、シャル皇帝が青ざめて頭を抱えちゃったよ。レオナルドの話をしたのは失敗だったかも。お父さんの娘に対する心情って、すごく複雑なものなんだろうね。おこちゃまの私にはわかんないや。

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