第十三章 姫様ナナセの魔法収集

13の1 大所帯



 ベルシァ帝国への道順は、アギオル様に「休憩所が点在している王の道を使った方がいい」と教えてもらったので、まずはその起点となっている、グレイス神国とベルシァ帝国の国境沿いにある集落跡地の神殿を目指した。


 廃墟だから無人なはずと聞いていたのに、蔦で覆われた神殿らしき建物から明かりが漏れていて、中から人の声が聞こえてきた。アデレちゃんの肩乗りカラスであるレイヴが「早く開けろ」と言わんばかりに扉をくちばしでつついているので、私とペリコとサギリは警戒しながらその扉を開けて中へ入った。


 するとそこでは盛大な宴が繰り広げられていた。


 しかも知ってる人がたくさんいた。


「こんな夜中に忍び込んでくるとは何者ですのっ!(しゃきーん!)」


 私は禍々しい重力結界を全開にして盗賊対策をしていた。けど、どうやら盗賊だと思われたのは私の方だったようだ。今の私は怪我するとアルテ様が大変なことになっちゃうから最大限の警戒が必要なのだ。


「あはは、アデレちゃんたち、こんなとこで休憩してたんだー」


「きゃあー!お姉さまでしたのーっ!失礼しましたのーっっ!」


 いきなりアデレちゃんに殺されかけたけど、すぐに剣を背中に収めて私の手を握ってくれた。いつもだったら抱きついてきそうな場面だけど、たぶんマセッタ様に「ナナセ様に頼ってはいけません」的なことを言われているのだろう。ちょっと寂しい。


「ずいぶん大所帯だねぇ、四人で出発したんじゃなかったっけ?」


「あたくしたち、帝国から王国へ戻る道すがら、この神殿で休憩していましたら、偶然イナリ様のグループと合流してしまいましたの」


「へえー。神様が引き合わせてくれたのかもねー。私も含めて」


 パッと見回してみると、獣化したイナリちゃんと一緒に謎の巨大黒猫が並んで座っていた。そしてなぜかその間に挟まれてシンくんが眠っている。っていうか、ノビてるって感じだ。


「シンくぅーん!」


「ゴ主人・・・」


「なんかあんま元気ないねぇ」


「ワレ、疲レタ・・・」


「なんでピステロ様みたいな口調なんだろ」


 どうやらシンくんは慣れない長旅でお疲れのようだった。そのまま寝かせてあげてから神様と思われる黒猫さんにごあいさつをする。金細工のネックレスやピアスが気高き貴婦人って雰囲気を醸し出している。たぶんこれエジプトとかの話に出てくる神話の神様だよね、創造神らしい創造物だ。


「ヴァチカーナ王国のナナセだよ」


「にゃあ」


「黒猫さんはバステト神的なアレなの?」


「にゃあにゃあ?」


 どうやら黒猫さんは「にゃあ」しか言えないようだ。


「ねえねえイナリちゃん、シンくんどうしたの?あとこの黒猫さんが砂漠の神様なんでしょ?」


「どうして姫がおるのじゃぁー!まあどうでもいいのじゃぁー!」


 イナリちゃんはずいぶん酔っ払ってる様子だった。何を聞いても質問に答えてもらえそうもないし、シンくんはノビちゃってるし、黒猫さんは「にゃあ」しか言えないし、このグループはそのままほったらかしにしてアイシャ姫の所へ移動した。


 すると、こちらも酔っ払いだった。


「めそめそ、めそめそ」


 どうやらアイシャ姫は泣き上戸のようで、地べたにへたり込んで泣きじゃくっていた。こともあろうか、椅子に腰を掛けた知らないおじさんの下半身にしがみつきながら光り輝いている。


「あのあの、アイシャ姫?なんかあったんですか?」


「めそめそ、しくしく、ひっく・・・はっ!なな、な、ナナセさんがなぜここに!?!?」


「あっ、貴女がナナセ姫れしたか!お会いしたく思っておりあしたぁ!」


 アイシャ姫は私の顔を確認すると、泣いている姿を見られたのが恥ずかしかったようで、知らないおじさんの下半身にぐりぐりと顔を埋めながら、ますますしがみついてしまった。今までのアイシャ姫からは見たこともないような強烈な暖かい光を発生させているところを見ると、よっぽどこのおじさんのことが好きなんだろう。なんかやきもち。あとその下半身に頬ずりする行為、見てるとムズムズするから辞めてほしい。たぶん父娘だろうし。


「私はシャルでふ!、アイシャールの父でアデレードの祖父でふ!娘と孫がお世話になっておりまぁむ!シャルとお呼びくらぁい!」


「王国宰相のナナセです、ベルシァ帝国の皇帝陛下は行方不明と伺っておりましたから、このように元気なお姿を拝見することができ、安堵しております」


 マセッタ様からの報告で帝国皇帝が生きていたという情報はもらっていたので驚くこともなかった。いちおう外国の超要人だから丁寧めなごあいさつをしておいたけど、アイシャ姫と一緒に酔っ払っちゃってて見るからに駄目そうだったので、再会を楽しんでるっぽい二人も放置して次へ向かった。


「ねえねえアデレちゃん、ベルおばあちゃんとハルコと一緒にいる緑色の謎生物、なんであんな端っこに離れてるの?」


「イナリ様の光が毒になるようですの。イスカさんと一緒ですわね」


「あー、なるほど。なんか液体魔法の紡ぎ手を発見したってマセッタ様から聞いてたけど、たぶんそれ系の人たちだよね」


「あたくしもつい先ほどお会いしたばかりなので、詳しいことわかってはおりませんの。ベル様が色々とお話を聞いて下さってますの」


 イナリちゃんとシンくんと黒猫さんが座っていた対角線側の隅っこまで来ると、そこには謎の巨大黒猫さんよりさらに驚きの謎生物がいた。


「うわぁ・・・【河童】ぁ・・・」


「くぱぁ?ですの?」


「ちっ、違うよアデレちゃん!これはカッパ!日本の妖怪!なんか可愛いんだけど!」


「お姉さまの美的感覚はどうかしていますの・・・」


「私ナナセ!ちょっと抱っこしてもいい?」


「あわわわ!あたしはアリスですぅっ!」

「ぼくはテレスですぅっ!」


 私は片方のカッパさんを抱き上げる。若干ヌルリとしてキモい。


「あっははー!なんかヌメヌメしてるー!お皿ぷにぷにしてるー!不思議な感触ー!」


 二人のカッパさんはアリスちゃんとテレス君と言うらしく、カエルみたいな緑の肌に鳥みたいな黄色いくちばし、背中には亀の甲羅みたいなものがあり、まつ毛の長いお目々がクリクリしていて可愛いらしい。頭のお皿はぷにっとしていて、脳が少し透けて見えてて怖い。さすが創造神、わかっていらっしゃる。


「なんで紡ぎ手が二人いるの?テレス君は光魔法が苦手らしいけど」


「あたしが使う液体魔法を補助してもらいますぅっー」

「ぼくは重力魔法しか使えないですぅっー」


 てっきり亀のウエノさんが何かの紡ぎ手だって言ってた妹さんとやらが液体魔法の紡ぎ手なのかと思ってたけど、どうやら違ったようだ。まあカッパも水に深く関連性がる生命体だろうから納得だ。


「へえ、重力魔法で水を操作なんてできるんだ?」


「液体魔法だけだと大量に集めることはできても、大量に操作するのは難しいですぅっー」

「そこで重力魔法を使って集めた水を方向付けしますぅっー」


「おお!なるほど!」


 バドワ大将のお寿司屋さんに設置した冷水循環ショーケースは、アウディア先生の液体魔法で稼働している。アウディア先生はちょっと魔法を使うだけで激しい疲労に見舞われていたから、なんだかショボい先生だなぁなんて思ってたけど、本来は水を操作するのって重力魔法と併用しなきゃ紡ぎ手さんクラスでも大変な事のようだ。ごめんなさい誤解してましたアウディア先生。


「ナナセやぁー、わしらはベルシァ帝国の端っこで固体魔法の紡ぎ手とやらとも知り合ったのじゃよぉー」


「私、固体魔法って見たことないから早く会ってみたいんだよね。どんな感じだった?」


「アリス殿やテレス殿と同じようにー、二人一組だったのじゃよぉー。固体魔法の場合は操作する物質の温度が大切らしくてのぉー、わしと同じくらい温度魔法を操る者が補助しておったのじゃよぉー」


「へえ、ベルおばあちゃんと同じくらいって相当すごいねぇ。楽しみー」


 この後アデレちゃんと私は、女の子カッパの方のアリスちゃんに頼んで液体魔法の脳の回路とやらを開いてもらい、さっそくコップの水を使って練習してみたけどピクリとも反応しなかったのですぐに諦めた。


 イナリちゃんもアイシャ姫もシャル皇帝もベロベロに酔っぱらっちゃってるし、ベルおばあちゃんとカッパさんたちも軽く酔っててご機嫌みたいだし、お酒を飲んでいないアデレちゃんと二人で宴の後片付けをした。みんな飲みすぎ。


 片付けが終わり、さてどこで休もうかとキョロキョロしてみると、ペリコ・ハルコ・サギリ・レイヴの鳥チームが隅っこに集まって翼を休めていた。私とアデレちゃんはハルコの高級羽毛布団へ左右から潜り込むと、今回の帝国冒険記をのんびり聞くことにした。





あとがき

ナナセさんが6章から放ったらかしにしていた帝国へようやく戻ってきました。

新しい紡ぎ手が二人もいるので章題を魔法収集としましたが、液体魔法はさっそく使えず諦めちゃいました。こんな調子で大丈夫なのでしょうか。

アルテ様の呪いに繋がる情報が集まるといいですね。


5月、それと6月のここまで、一気読みして下さった方が何名かいたおかげで、PV数が昨年と比べるとやたらと好調でした。当社比1・8倍。帰宅して、パソコン電源入れて、ブラウザ開いて、PV数がぐうーんんと増えてると、一日の疲れが全て吹き飛ぶくらい嬉しいものです。

また、こういった超長編は少しでも嫌になると続きなんか絶対読まないと思うので、最新話まで駆け抜けてもらえるということは、★評価なんかの何十倍何百倍もの自信に繋がります。最新話まで追いついて下さっている読者様には、いつもいつも、本当に感謝しています、ありがとうござます!

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