12の10 弟子の憂鬱



 ルナロッサです。


 女の子の姿ですけど男の子です。


 今はリザ師匠と一緒に、小人族が作った新しい剣に浮かび上がった光る文字に心を奪われているんだ。


「綺麗だなぁ・・・ところでリザ師匠、ルーン文字ってなんですか?」


「知らないわよ!なんか古代の文字ってエヴァンヌが言ってたわ!」


「ゴゴラさん、ブブルさん、これは何て書いてあるんですか?」


「ルナロッサ殿の方には“闇夜たる煌めきを”でしゅ」

「リザの方には“悠久なる終焉を”でしゅ」

「正反対の言葉を並べるといいらしいでしゅ」

「そうすると魔子が行き場をなくして行ったり来たりするらしいでしゅ」

「魔子が高速往復すると摩擦によって魔力が増大するらしいでしゅ」

「詳しいことは創造神様しかわからないでしゅ」


「むずいことよくわかんないけどかっこいいじゃない!子供先生が好きそうよね!」


「リザ師匠、ナナセお姉さまのことよくわかっていますね・・・」


「このつよつよ刀があればもう旅行は楽勝ね!」


「あれ?どこか行くんですか?」


 リザ師匠の話によると、記憶をなくしてしまったアルテ様の件で落ち込んでいるナナセお姉さまを連れて、王都からずいぶん北にあるポーの町という所まで現況調査に行くそうだ。そこには王国役人から引退したマセッタ女王陛下のご両親が隠居しているらしく、数日間のんびりしてくるように命令されたんだって。


「それで慌ててこの武器を受け取りに来たんですか。ナナセお姉さまって強盗に襲われやすい体質なんですけど、子供二人だけで旅行なんて大丈夫なんですか?ぼくもついていきたいです」


「ルナロッサに限らず、子供先生に依存している者では駄目だとおっしゃっていたわ。今の子供先生は今までのように誰かに頼られるんじゃなくて、誰かに頼ってのんびり過ごして欲しいからってマセッタ様にお願いされたのよ!まったく子供先生は手がかかるわね!」


「そっかぁ、ぼくでは駄目ですね・・・そう考えると、ナナセお姉さまの周りにはナナセお姉さまの強さに頼っている人ばかりです」


「よく『任せなさぁい!』とか言ってるからそうなっちゃったのよ!」


 だからと言って、リザ師匠に任せてしまっても大丈夫なのだろうか。ぼくは不安しか感じないけど、マセッタ女王陛下がそう言うなら従わないと。


「それじゃリザ師匠、明日も学園があるんですから、そろそろ王都へ帰らないと」


「そうね、小人族の二人は良い仕事したわね!」


「リザも小人使いが荒いでしゅ」

「創造神様や領主様に似てましゅ」


「感謝してあげてるんだからありがたく思いなさい!」


「リザ師匠、そんな言い方は無いじゃないですか・・・ゴゴラさん、ブブルさん、本当に素敵な刀をありがとうございました。師匠に代わってぼくから深くお礼します、大切に使いますね」


「ゆぱゆぱから十分な報酬を受け取ってましゅ、ふあぁー」

「今回の仕事は楽しかったので大丈夫でしゅ、ごしごし」

「ぼくたち身体が幼児なのでたくさん寝ないと動けないでしゅ・・・」

「今日はもう休みましゅ・・・」


「この刀でアンタたちの領主様を守ってあげるんだから!今日から安心して眠れるわね!」


 まあ、リザ師匠にしては上出来な言い方かな。本当はすごーく嬉しそうなのに、リザ師匠ってありがとうやごめんなさいを絶対に言わないんだ。なんでだろう?



 お姉さまの誕生日会が終わって屋敷に戻ってくると、リザ師匠が旅行の準備を始めた。ぼくたちはあまり寝ることが無いので、朝までゆっくりと支度をする。


 リザ師匠はぼくに淑女教育をすると言って強引に連れてきたけど、結局それらしい教えなんて何も受けていない。それどころか、ぼくがいい加減なリザ師匠の面倒を見ているような関係になってしまっている。じいやさんやアレクシスさんが色々なことを教えてくれるから、結果としてかっこいい紳士になるための良い勉強になってるけど。


「こんなにたくさん洋服いらないです。あとそんな食料や甘味菓子なんて持っていく必要ありませんよ、もっと荷物を減らして下さい」


「途中でお腹すいたらどうすんのよ!」


「ナナセお姉さまがその辺の果実を摘んできてくれますし、その辺の動物を捕まえて美味しいもの作ってくれますよ」


「子供先生ってそんなこともできんの!?」


「最初の頃は動物を狩るのはかわいそうになっちゃうとか言ってましたけど、ぼくが一年間寝てる間にロベルタさんから色々と教わったらしくて、むしろ野営は楽しみだって言ってました」


「たくましいわね・・・それにしてもお誕生会の子供先生のお料理、すごかったわ。味もそうだし、種類もそうだし、盛り付けなんか超綺麗だったし、なによりあの量をあれだけ手際よく出せるなんて、王国どころか世界一の天才料理人なんじゃないの?」


「ぼくは詳しくわかってませんけど、主さまが異世界の技術と知識だって言ってました。きっとその異世界は、王国よりも料理が進化したところなんだと思いますよ」


「あいかわらず子供先生はよくわからないわね!」


「詳しいことはナナセお姉さまから直接聞いて下さいよ、リザ師匠だったら何でも教えてもらえると思いますよ」


「そうよね!旅路はどうせ暇だから色々聞いてみるわ!」


 リザ師匠がリュックに入れたがるものにひたすら駄目出しする旅支度が終了し、次は庭に出て新しい武器の性能を確認することにした。小人族から刀を受け取って急いで戻ったらすでに学園へ行く時間だったし、その後はナナセお姉さまの誕生日会だったので本気で試し斬りをするのは初めてだ。


── シャキーン! ──


「「ぬぬぬぬぬん・・・」」


 二人して腰に装着した刀をさやから抜いて両手でしっかりと構え、ナナセお姉さまの真似をして魔子を集める。ルーン文字というものが鈍い輝きを放ちながら浮かび上がり、小人族の二人が言っていたように魔子がぶつかり合うことで魔力が増大している感覚が腕を通して頭の中まで伝わってくる。


「リザ師匠、さっそく薪割りをしてみましょう」


「薪割りじゃなく薪斬りよね!」


 ぼくは切り株に立てて置いた薪をスッパリと切断していく。危うく切り株まで切断しそうになるけど、途中までサックリ刃を入れて残りは割るような、普通の薪割り方法で問題なさそうだ。


「すごいですねぇこの刀、サクサクと刃が入っていきます。どうやら刀身が鋭利な被膜で包まれているみたいですね!」


「ちょっとルナロッサ!アタシには重すぎて狙った所にうまく刃を落とせないんだけど!?」


 リザ師匠は以前使っていた細身の軽い剣に慣れてしまっているのか、見た目の細さとは比べ物にならないくらいズシリとした重みのある刀を上手く操ることができていないようだった。


「薪に当たるまでは重力魔法を使って刀を軽くするんですよ。この刀なら斬れ味が良いからそのまま斬ってもいいんですけど、より強い力を加えるために、重力魔法を解除して刀の重さを利用するんです」


「そ、そんな器用なことできるわけないでしょ!あーんもう、上手く狙えないわ!」


「ぼくも最初の頃は、重たい鎌で草刈りしようとしたんですけど、鎌の重量に身体を振り回されちゃって全然上手くいきませんでしたから。慣れるまで練習が必要になると思います」


「それじゃ旅行中に子供先生を守れないじゃない!」


「今はまだナナセお姉さまの方が全然強いからそんな必要ないと思いますよ」


「なによそれ!それじゃアタシがざこい子みたいでカッコ悪いじゃない!」


 リザ師匠が重力魔法を使って刀を軽くするところをじっくりと観察してみると、全力全開でナナセお姉さま並の強大な魔法を発動させるか、もしくはまったく無意味なほどの微小な魔法しか発動しないか、なんとも両極端だった。


 刀そのものの振り方もそうだ。おそらく軽量な片手剣と盾を持ったスタイルで数十年、もしかしたら百年近く鍛錬を積んできたから、両手で一本の武器を扱うということに慣れていないんだ。


「リザ師匠はもう少し細かい魔法の操作が必要ですね、お姉さまは木製のコップから始めてましたし、僕も小さな宝石から始めたんですよ」


「今からそんな初心者用の練習するしかないの?」


「うーん、旅行中にも練習して欲しいし・・・そうだ、刀の方だけじゃなく、さやの方も使って練習してみたらどうですか?」


「さやなんか軽くしてどうすんのよ」


「軽くするんじゃなくて、さやの周囲に重力結界を発生させるんですよ。構えはゆぱゆぱさんみたいな感じで、さやを盾代わりに使うんです」


「こんな重たい刀を右手一本で扱えって言うの!?」


「そうです。リザ師匠はとてもじゃないけど両手剣を扱えるようになりそうもないんで、右手には軽くした刀、左手にはさやを媒体に発生させた結界盾です。それを頑張って維持することで重力魔法を安定させる練習を続けて下さい。」


「ムリよ!」


「四の五の言わずにやってください!お姉さまを守るんでしょ!」


「ひー!」


 リザ師匠、言ってることと行動がバラバラだ。ムリとか言いながら真剣な顔になって練習してる。


 これで少しはお姉さまのこと任せられるようになったのかな。





あとがき

7月7日の裏舞台はここまでです。

次話からナナセさん視点に戻ります。

リザちゃん頑張ってますね、微笑ましいメスガキ様です。

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