11の31 幻獣さん軍団



「銀髪の貴公子様に重力魔法の回路というものを開いてもらったんだから、これでアタシがゆぱゆぱより強い最強の剣士ね!」


「今のところ最強はアイシャ姫のままだと思うよ。ゆぱゆぱちゃんの強さも圧倒的だけどさ、それって神楽ちゃんあってのことだしさ、まだ剣のお稽古始めて数か月だしさ、やっぱ歴戦の経験が足りてないと思うんだよね。さっきアイシャ姫と話してみてさ、なんとなくわかったでしょ?」


「子供先生の言う通りね。だったらアイシャール様の次くらいでいいわ!」


「あの、お姉さま、ぼくも武器が必要です」


「あそっか、じゃお屋敷に寄り道しなきゃ。ビアンキ!あっちあっち!」


「ひひーん!」


 廃墟のお城からナゼルの町へ向かっていた三人乗りの私たちは、海上で進路変更してピステロ様のお屋敷へ向かった。ビアンキみんなで乗れるから便利すぎ。


「無いねぇ・・・」


「主さまが、どこかにしまったのかもしれませんね」


「まあ、あんな禍々しいの振り回しながら淑女の嗜みってのも悪くないとは思うけどさ、私が使ってるアルテ様の剣くらいのサイズにしてみたら?」


「そうですね、しばらく農作業をすることもなさそうですし」


「ルナ君と一緒に行く約束したままだったアブル村って覚えてる?そこで色々作ってた人たちがさ、今ナゼルの町に住んでるからさ、ルナ君の剣も作ってもらおうよ」


「はい、わかりました」



 ナゼルの町へ到着した頃には、すでに夜になっていた。ひとまずルナ君用の剣を発注しに意気揚々と地下室の工房へ向かう。小人族の二人にさらっとルナ君を紹介してから、さっそくお願いする。


「ねえねえゴゴラ君とブブル君、ルナ君が武器なくしちゃってさ、私の剣と同じくらいのサイズのやつでさ、なんかかっこいいの急いで作って欲しいんだよね」


「領主様は小人使いが荒いでしゅ」

「今はゆぱゆぱに頼まれたリザの剣で忙しいでしゅ」

「ワンボックス馬車や給水塔のお手伝いも大変でしゅ」

「獣人族から廃墟の城で使う建築道具の発注も来てましゅ」

「ビビナもナプレ市で重力エンジン作りが忙しそうでしゅ」

「ビビナは時計作りの方も大変そうでしゅ」

「領主様はなんだかリベルディア様に似てましゅ」


「どうもすみませんでしゅ・・・」


 ルナ君の新しい剣を発注したら、多忙そうな小人族の二人に怒られてしまった。創造神に似てるとか言われたくないけど何も言い返せない。


「ぼくはしばらく宝石で魔法を使いますから、小人族の人たちには急がなくても結構です」


「ゆぱゆぱに頼まれたリザの剣の素材が余りましゅ」

「ゆぱゆぱから十分すぎる金貨を預かってましゅ」

「それを使って一緒に作りましゅ」

「リザとルナロッサ殿には少し待ってもらいましゅ」

「待ってもらう分、期待してもらいたいでしゅ」


「ゴゴラさん、ブブルさん、忙しいみたいですし、本当にゆっくりでいいですからね、よろしくお願いします」


「ありがとうございましゅ」

「頑張ってしっかりした武器を作りましゅ」

「ルナロッサ殿は優しいでしゅ」

「領主様とは違いましゅ」


「ごめんなさいでしゅ・・・」


 どうやら話がついたようなので、適当に追加分の金貨をじゃらじゃらと渡してヘコヘコしながら工房を立ち去った。この武器は完成次第、王都へ届けてくれるそうだ。


 リザちゃんはゆぱゆぱちゃんとリアちゃんを探して合流すると言ってビアンキに乗ってどっか行ってしまったので、私とルナ君は各所へごあいさつ回りに向かった。


「おかみさん、久しぶりです」


「なんだいルナロッサ!一段と可愛らしくなって戻ってきたねぇ!なんか食べていくんだろ?」


「はい!ずっと眠っていたので食事をするのは一年ぶりです!」


「あっはっは!それで生きていられるなんて、あたしゃびっくりだよ!今晩は美味いもん食べさせてやるからな!そこで待っとき!」


 ルナ君がおかみさんの待てを忠実に守って微動だにしないので、リアンナ様とアリアちゃん、それとカルス、ハイネ、モレさんなんかの、ゼル村時代からの古株連中に声をかけに行く。せっかくだからルナ君おかえりなさいパーティにしよう。


 野営で私たちを襲ってきたコアン、グラン、ベルモ、それとサッシカイオの母親であるバルバレスカ先生を呼ぶかは少し迷ったけど、早かれ遅かれルナ君には紹介しなきゃならないので連れてきた。


「ルナおにいちゃん!おかえりなさい!」


「アリアちゃん!会いたかったよー!」


「あたしもーー!」


 テケテケと駆け寄るアリアちゃんを、ルナ君がヒョイと抱き上げてその場でぐるぐる回っている。なんだか微笑ましい。


「あれあれぇ??」


 アリアちゃんが頭の上にハテナマークをたくさん作ってる。そりゃそうだよね、ルナ君は自分から言いたくなさそうなので私が説明する。


「あのねアリアちゃん、ルナ君ね、ピステロ様の不思議なお部屋で眠ってたらね、女の子になっちゃったの。だからこれからはルナお姉ちゃんなのかな?」


「おにいちゃんは・・・おしまい?」


「そうそう!それそれ!」


「ルナおねえちゃんっ!」


「ちょっとお姉さまっ!子供に変なこと吹き込まないで下さいっ!ねえアリアちゃん、ぼく男の子のままだからね!お兄ちゃんのままだからね!」


「あたし、どっちでもすきだよ!」


 私は再会を楽しんでいる二人の邪魔をせず他の席へ移動した。


「ねえカルス、ゆぱゆぱちゃんとリアちゃんどこ行ったんだろ?誰か知ってる?」


「ああ、それでしたら馬の群生地へ向かうと言っていましたよ。あの青く輝く角の馬の仲間を連れてくるとか。リザって赤い子にも同じことを聞かれたんでそう伝えたら、白い角の馬ですぐに向かっちまいました」


「おお、ユニコーンさん増やすつもりなんだ!でもそれだとけっこう遠いから、戻ってくるの明日になっちゃうかな?」


 ユニコーンであるアズーリとビアンキは、王都での新生活にすっかり馴染んできた。アズーリとビアンキがそれを仲間に上手く説明してくれればユニコーン部隊が作れるかもしれない。まあ乗れるの生娘だけだから用途が限られる部隊だけど。


「そんじゃ今日はもう寝よっか。なんかあっちこっち移動してたから疲れちゃったよ」


「お姉さま、馬の群生地というのは遠いのですか?」


「うん、一山越えた先だから、ユニコーンさんでも往復で半日くらいかかっちゃうかな。リザちゃんたち、たぶん獣人族の里に泊まってくると思うよ」


「獣人族とはなんですか?建築の方々ですか?」


「えっとね・・・」


 結局、ルナ君とけっこう夜更かししてしまった。色々と説明しなきゃならない話が多すぎる。どうやって説明しても、誰かしら登場人物の説明が抜けてしまい、話が前後しまくってしまう。私は王国史の先生だけど、自分の歴史に関してはうまく語れないのがもどかしい。



 翌日、昼すぎくらいにゆぱゆぱちゃんとリアちゃんとリザちゃん、それと、小ぶりなサイズのユニコーンさんが四匹ほど着いてきていた。


「ゆぱゆぱちゃん、心配したじゃん」


「ごめんにゃさいにゃにょ」


「ナナセ先生、私が行こうと言い出したのです、ゆぱゆぱさんは悪くないのです。ごめんなさいです」


「まあ無事に戻ってきたからいいよ。それで、一緒に来てくれる仲間が増えたの?」


「みゅん!小さいの、えっと、四匹、きてくれたにょ!」


 どうやら三人乗りまでできるビアンキとアズーリは特別に立派な体躯のようで、他の四匹は一人乗り専用のサイズだ。角の色がそれぞれ個性を持っているようで、薄紫色だったりオレンジ色だったりと様々だ。私はいつも通り『ユニ・シリーズ』と呼ぶことにして、ユニ・ワンからユニ・フォーまでタグみたいなのを作って、名付けをしながら首に下げてあげたら喜んでいた。


「それじゃ、すぐ出発しますかぁ」


「待ちなさいよ子供先生、まだお土産を取りに行っていないわ」


「そうなんだ」


 リザちゃんがいそいそ食堂へ向かうと、お土産が入っている大きな袋を嬉しそうに抱えながら出てきた。どうやら昨日のうちに予約をしていたらしい。


「待たせたわね!」


「何買ったの?見せて見せて」


「男の人ってこういうの好きなんでしょ!」


 その袋の中にはナゼル特産骨付き牛肉のローストらしきものがガッツリと入っていた。いいねぇ、これはマンガで見た憧れのあの肉だ。


「子供先生の町で作った牛肉ってすごく美味しいじゃない。犬の餌にはもったいないけど、これならアタシのお土産にふさわしいわね!」


「あはは、たぶん犬さん尻尾振って喜ぶよ。それエマちゃんが頑張って美味しく育ててくれた牛だからさ、王都に帰ったら褒めてあげてね」


「そうね!エマニュエルにも感謝しなきゃならないわね!」


 私とルナ君がビアンキに二人乗り、リザちゃんとリアちゃんがアズーリに二人乗りした。ゆぱゆぱちゃんはさっそくユニ・ワンと仲良しになっていたようで、嬉しそうに一人乗りしている。さて、いよいよ出発進行、って言おうとしたら、リザちゃんが私より先に気合の入った掛け声を上げた。


「さあユニコーンたち!目指すは王都ヴァチカーナよ!疾風のごとく駆け抜けるその勇姿を、アタシの瞳に思う存分焼き付けなさい!」


 やられたぁ。ユニコーンさんたち、いつになくテンションアゲアゲだよ。リザちゃんにはこういう掛け声で一生勝てない気がする。


「「「「「「ひひぃーん!!!」」」」」」


 ルナ君とシンくんを起こして、ルナ君の剣を発注する旅、お疲れ様でした。

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