11の30 教育係
ここはナプレ温泉の女湯。
「がっくり・・・(弟くんにすら負けてる・・・)」
ルナ君を無理やり女湯へ連れ込み、死ぬほど恥ずかしがっているのを無視しながらその成長っぷりを確認した。妹ちゃんのアデレちゃんに負けるのはともかく、弟くんのルナ君にすら負けるだなんて、死にたいのはこっちの方だよ。
その後、いきなり無言でお湯をざぱーとかけてみたけど、男の子に戻るなんてことはなかった。さらに温度魔法を駆使したちょー冷たいお水もかけてみたけど、驚くと同時にすっごい怒られてしまった。くれぐれも負けた事への腹いせとか八つ当たりとは断じて違う。なんかまあ、中国の呪いの泉とかの創造神設定ではなさそうだ。
「・・・それでね、アデレちゃんがね」
「アデレちゃんという方は、確か学園で懲らしめた商人の娘ですか?」
「あれ?アデレちゃんに会ったこと無かったっけ」
「はい。お姉さまがマヨネーズを一緒に作っていたことくらいしか知りません。ぼくはその頃、王宮でリアンナ様とアリアちゃんの見習い使用人をやっていたので、直接の面識は無かったです」
「そっかぁ、じゃあ一緒に住みはじめる前に寝ちゃったんだね。ってことは、アイシャ姫、じゃなかった、ベールチアさんがその後どうなったかとかの話もしないとね」
「無事に囚えたのですか!さすがはお姉さまです!」
「よさないかルナ君」
この一年は色々なことがありすぎたので、ルナ君に聞いてもらうお話がたくさんありそうだ。このまま温泉に浸かりながら話してると止まらなくなってのぼせちゃうね。
「おう坊主!面白えヤツだな!がっはっは!」
「オレ、牛乳、アリガトナ!」
女湯からロビーみたいなところへ出てくると、男湯に放り込んでおいたシンくんが知らないおじさんと仲良しになってお風呂上がりの牛乳をおごってもらっていた。私がお礼を言おうと近づくと、膝をついて頭を下げられてしまった。
「ナナセ閣下でありやしたか!ご機嫌麗しゅう!」
「そんな、普通にして下さい。シンくんに優しくしてくれてありがとうございます。説明が難しいんですけど、まだ人の子になったばっかりで、言葉とか不自由なんで、ご迷惑おかけしちゃったかもしれません」
「ナナセ閣下のお仲間とはつゆ知らず!なあ坊主、温泉の入り方は覚えたか!」
「オウ!覚エタゼ!」
「この子、こう見えて神様なんですよ。温泉のマナーとか教えて下さったんですかね、ありがとうございました」
「ひええー!神でありやすか!さすがナナセ閣下のお仲間、もったいないお言葉でやす!」
ルナ君は私のちょっと後ろで静かに待機している。物怖じするタイプはあまり変わっていないようだ。一方、シンくんはコミュニケーション能力が高そうなので安心だ。昔から人懐っこい犬みたいな狼だったもんね。私は男湯に入って行けないし、こうやって知らない人が教えてくれたのは助かったよ。言葉遣いが乱暴で気になるけど、なんか見た目がやんちゃ坊主って感じだから、むしろこのままで良いかも。
「そんじゃルナ君とシンくん、ナプレ市に戻るけど、アイシャ姫は敵じゃないから、いきなり喧嘩とかしちゃ駄目だよ」
「お姉さま、ナプレ市とは何ですか?」
「ああ、あのね、町が立派になったから町から市に昇格したの。あとゼル村もナナセのナを付けてナゼルの町ってのに昇格したんだよ」
「さすがはお姉さまです!」
「あはは、とにかくアイシャ姫はもう悪魔じゃないから、二人とも絶対に攻撃しちゃ駄目だからね!」
「はい、わかりました」
「ワカタ」
サッシカイオが私たちを夜襲してきたとき、ルナ君はアイシャ姫に斬られてしまった。その時はシンくんとペリコが大活躍してアイシャ姫を撃退した。このまま黙って会わせちゃうと間違いなく再戦になるので、くれぐれも言いつけたつもりだ。
「せっかくだから砂浜の方を歩こっか」
ルナ君は元男の子だし、シンくんはそのまんま男の子だし、たぶんビアンキが乗せてくれないと思うので三人で手を繋いでのんびりお散歩しながらナプレ市へ戻った。この感じ、懐かしくて嬉しいな。
・
「ナナセさん、その馴れ馴れしいクソガキ共は何様でしょうか」
「んもぅ、そんなアデレちゃんみたいなこと言わないで下さい!」
ナプレ市でお出迎えしてくれたアイシャ姫が暗闇をまとってルナ君とシンくんを威嚇する。同時に二人も臨戦態勢に入ろうとしたけど、どうも調子が狂っているようだ。
「お姉さま、そういえばぼくの鎌、ありませんでした」
「ゴ主人、コノ体、戦ウ、ワカラナイ」
「ああ、そういえばあの鎌を持ってくるの忘れちゃったね。シンくんは人族の体に脳が慣れるまでは、戦うとか無理だと思うよ」
私はアイシャ姫に事の次第を説明すると、すぐに重力結界を解除してくれた。野営で戦ったルナ君とシンくんだったとはこれっぽっちも思っていなかったようだ。そりゃそうだ、見た目が違いすぎる。
・
「ちょっと子供先生!なんなのよこの子たち!マジかわじゃない!」
「でしょでしょ!えっとね、こっちの獣耳は神族のシンくんで普通の狼の姿だったんだけど寝て起きたらこうなっちゃってたんだよね。あとこっちはピステロ様と偉い神様のハーフ吸血鬼らしくて私の弟くんのルナ君なんだけど寝て起きたら男の子から女の子になっちゃってたんだよね」
「相変わらず子供先生の説明は雑すぎてさっぱり解らないんだけど!?撫でてみてもいい!?」
「あはは、やっぱ撫でたくなるよねぇ」
「マジ卍!」
「ちょ」
「る、ルナロッサです・・・」
「リザよ!なんか文句ある!?(なでなで)なんなのよこの銀黒の髪!アタシの赤髪の次くらいに綺麗ね!(クンクン)なんかいい匂いするし!」
「はわわ、お姉さまぁ・・・」
「ルナ君、リザちゃんの魅了に気をつけてねー」
「それどーすればいいんれすかぁ・・・」
「重力結界で防げるってピステロ様が言ってたよー」
「オレ、シンジ」
「リザよ!アタシ王都でざこ犬飼ってるから(もみもみ)犬の扱いは慣れてるんだから!」
「リザ、クスグ、タ、イ・・・(びくんびくん)」
「シンくん、リザちゃん舐めたり噛んだりマーキングしたりしちゃダメだよー」
「クゥーン・・・」
なんか二人ともリザちゃんと勝手に仲良しになってくれたので安心だ。ところで、私はリザちゃんとビアンキに二人乗りしてどこでも行けるけど、ルナ君とシンくんの移動手段が無い。この後ピステロ様に会いに海を渡らなきゃならないんだけど、どうしよっかね。
「とりあえずさ、ゆぱゆぱちゃんとリアちゃんが戻ってくるの待たなきゃならないからさ、今日はナプレ市に泊まろっか。ルナ君とシンくんはピステロ様にごあいさつしに行かなきゃだけど、海を渡れないから困ったね」
「お姉さま、リアンナ様とアリアちゃんがナゼルの町に住んでいるなら、会っておきたいです」
「ああそっか、じゃあ私たちがナゼルの町まで迎えに行く感じかな」
「ペリコはどこですか?」
「あのね、アルテ様がイナリちゃんの住処で寝てるからその見張り」
「イナリちゃんとはどなたですか?」
「えっとね・・・」
説明しなきゃならないことが多すぎる。ひとまずピステロ様にご報告へ向かうため私とリザちゃんはビアンキに乗って廃墟のお城へ向かい、ルナ君とシンくんには船で来てもらうことになった。
・
「おいナナセ、ルナロッサが眠りにつく際、育つなと念じたと言っておったな。女体となってしまったのは、その影響ではあるまいか。」
「えぇー、私が悪いんですかぁ?創造神が性別半分とかいう謎の性能を与えたからこうなっちゃったんじゃないですかぁ?」
「ルナロッサはナナセ特有の強い感情が絡みついた魔子を含む、あの美味そうな血を飲みながら眠りについたのであろう。その際ルナロッサの脳に、その強き想いが伝わたのかもしれぬぞ。まあ、悪いことでもあるまい。ルナロッサよ、これからはナナセの妹として精進するのである。」
「主さままでそんな・・・ぼく、主さまの後継者として立派な紳士になりたいのです」
「性別など関係あるまい。ナナセがそれを証明しておる。また、現在の王国女王は、女性でありながらひとかどの人物であるぞ、見習うと良かろう。」
「はい、わかりました・・・」
まあ確かに、マセッタ様がオルネライオ様を洗脳したなんていう前例もあるし、私が念じたことが女体化の原因だったとしても不思議ではない。なんかごめんルナ君。
「その狼の子供はイナリ殿と近しい生命体に育ったな。」
「はい。もしかしたら獣化とかできるかもしれないんで、学園の先生が落ち着いたらイナリちゃんに見てもらおうと思います。ピステロ様には何かわかりますか?」
「ふむ、獣化か・・・そうであるな、しばらく我に預けろ。」
「ご迷惑ではありませんか?お城の改築とか始まりますし」
「皇国の諜報員も夜間は寝ておる。我も狼の子供も夜間に寝ることなどない。時間はいくらでもあるので問題あるまい。」
「そっか、じゃあしばらくお任せします。シンくん、それでいい?」
「ゴ主人、ワカタ。オ腹、揉ミニキテ」
「あはは、改築にくる獣人族のことも気になるし、たまに顔を出すよ」
こうして、シンくんはしばらくピステロ様が面倒を見てくれることになった。もしかしたらユニコーンに乗れなかったのが悔しくて、どうにうかこうにかシンくんを獣化させて乗りたいのかも。
・
ルナ君をリアンナ様とアリアちゃんに会わせてあげるため、私たちはナゼルの町へ行かなければならない。ルナ君を恐る恐るビアンキに乗せてみたら、蹴飛ばされることもなかったので三人乗りで向かった。完全に女の子になっちゃったんだね。
「ねえねえ子供先生、ルナロッサはアタシに預けてよ」
「えー、なんで?」
「男の子だったのに女の子になっちゃったんでしょ?アタシがレディの嗜みを教えてあげるわ!」
「ぼく男の子ですっ!」
リザちゃんに預けたら悪い子になっちゃいそうだと思ったけど、アイシャ姫とかピステロ様にしてたお貴族様令嬢チックなごあいさつを思い出す。ふむ、良い案かも。
「まあ、私もルナ君は王都に連れて行こうと思ってたから、学園の授業に差し障りがない程度に好きにしていいよ。でも何でそう思うの?」
「銀髪の貴公子様の家族を教育できるだなんて、皇国に帰ったら自慢できるからよ!そんなこともわかんないの?子供先生は!」
「そ、そっか。じゃあルナ君のこと、素敵な淑女に育ててあげてね!」
「ぼぼ、ぼきゅ男の子でつってばぁー!!」
王都の生活、にぎやかになりそうだね。
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