10の17 アルテ様、ダメになる。



 ビビナちゃんが重力エンジンや強化ガラスの工場で「あれでしゅこれでしゅ」と指示を出し始めていたのでそのまま置いてきた。しばらく黙って作業してるとこを眺めていたけど、アブル村で人族と一緒に働いていた経験があるからだろうか、さらっと馴染んでリーダーらしく振る舞っていた。人族の職人たちも、ビビナちゃんの見た目が赤ちゃん人形であったとしても、高度な技術や知識があることに対して、きちんとリスペクトしているようで微笑ましい。細工職人のサトゥルなんか、目から鱗のような涙を垂らしてる。そんなにすごいんだ。


 来る時にビビナちゃんを背負っていたハル=ワンには、いつものように荷物持ちになってもらい、大量の爆裂種と温度魔法で冷凍したマカジキを運んでもらうことになった。


 あっという間にナゼルの町へ帰ってくると、すぐにゼノアさんの地下室へ向かった。フルートはゴブレットとおかえりなさいのイチャイチャをササッと済ませると、さっそくトマト作りを始めてくれた。わりとドライなのね。


「あのね、ゴゴラくんとブブルくん、ビビナちゃんはしばらくナプレ市の工場でアドバイザーみたいなお仕事してもらうことになったからよろしくね」


「了解でしゅ」

「ぼくたちこの地下室の改築が終わったら何をすればいいでしゅ?」


「えっとね、どっちか一人は給水塔っていう・・・獣人族のおトイレみたいなの再現したいから、水を高いところに貯めておく装置を作るお手伝いでミケロさんについてもらいたいかな」


「あのおトイレは知ってましゅ」

「問題なく再現可能だと思いましゅ」


「そっか、二人ともあの里にある滝のおトイレ知ってるんだね、助かるよ。んで、もう一人は工場で最新型の窓ガラス搭載馬車のお手伝いがあると思う。給水塔はちょっと時間かかりそうだから馬車の方が優先かなあ。ノイドさんたちの動物性ゴムすごいでしょ?あれうまく使って走行中の衝撃を吸収して欲しいんだよね」


「あの素材は驚きでしゅ!」

「色々なことに使えましゅ!」


「でしょでしょ、おかげで文明が何百年も進んだよ!」


「低い温度で熔解するので扱いやすいでしゅ!」

「透明なものはもしかしたらガラスの代わりになりましゅ!」


「おお!透明のアクリル板とかプラスチック板だね!」


「それが何だかわからないでしゅ」

「領主様はたまによくわからないでしゅ」


 まず何を作ってもらおう。下敷きとか欲しいな。柔らかいタイプならクリアファイルとか作れるかも。キャラメルの景品にして王都のコンビニで売り捌くか。



「ナナセ、遅かったじゃない、とても心配したのよ」


「いつもいつもすみません・・・」


 アイシャ姫といちゃつきながら貴賓室にお泊りしていたとは言いにくい。なんか前にもこんなことがあった記憶が。


「えっと、ピステロ様に幽霊城のこと相談されちゃって」


「霊が出るの?」


「夜な夜な幽霊が漁船とか脅してるみたいで。アルテ様は霊とか魂とか、そういう系の話を創造神から聞いてません?」


「わからないわ、生命体の魂は一度天界へ還り新たな肉体を得て地上へ戻るようですけれど、目で見て確認できるようなものではないわ」


「へえ、やっぱ魂って神様が管理してるんですか」


「創造神様は自動化されていると言っていたわ。ですから神が行えるとすれば、その魂の輪廻にちょっとしたイタズラするくらいしかできないと思うの」


「つまり、私ってば創造神にヘンなイタズラされたってことですかね」


「ナナセの魂は他の生命体と違って特別なのではないかしら。ごめんなさい、やっぱりわからないわ」


「本人から聞くしかないですねー。とりあえず、ナプレ市の漁師さんとか荷運びの人が困っちゃってるんで、その幽霊退治をしなきゃならないと思います」


「ナナセが何か悪いものに取り憑かれてしまったらどうしましょう。わたくしに祓うことなんてできるのかしら?」


「ちょっと、怖いこと言わないで下さいよ・・・」



 私は町役場に出勤して、今回のナプレ市出張であったことをミケロさんに報告しにきた。ミケロさんなら廃墟のこととか知ってるかもしれない。


「ミケロさん、王都から若者が三十人くらいナプレ市に到着してましたよ、レオナルドさんが集めて連れてきてくれたみたいで、引率の先生してくれてました」


「それでは新集落の工事を急がねばなりません。簡易な宿泊施設はすでに完成しております。男性獣人の方々がすでに何名か我々建築隊と共に働いてくれていますから、これから新設するお団子屋さんと学舎に関しても計画より早く進むでしょう」


「男性の獣人どうです?ちゃんと働いてくれてます?」


「最初は悪態つくような獣人もおりましたが、ナナセ様が監視に来るぞと言ったとたんにキビキビと働き出したそうです。今のところ共に働くことに関して懸念していたようなことは起きておりませんから、よほどのことがない限りナナセ様のお手をわずらわせることはございませんな」


「あはは、なんか安心しました。学生さんたちにはしばらくナプレ市とナゼルの町を見学してもらって、個々で希望する分野を申し出てもらいましょう、やりたくないお仕事させてもしょうがないですから。なんかバルバレスカ先生が張り切ってるし、ほとんど全部お任せしちゃってもいいかもしれませんね」


「おそらく役場での研修を希望する文官見習いの者も多くいると思います。そういった者はしばらく私が面倒を見ることにしましょう」


「仕事増やしちゃってすみません」


「その分、人手が増えるのですから問題ありませんよ。こちらの体制が落ち着けば、ブルネリオ様が滞在なさってるナプレ市の役場にも学生を分散できますから」


 新しく作るナゼル学園に関しては、ミケロさんとバルバレスカ先生にお任せしてしまえば安心そうだ。中には治癒魔法を使える人とかもいるようだけど、リアンナ先生もアルテ先生もイナリちゃん先生もいるからそのあたりの分野は王国のどの街よりも手厚い教育が受けられるはずだ。


「ところでミケロさん、イスカ島って知ってますか?」


「ナプレ市の港から船で鐘半分くらい西に進んだあたりの島ですな」


「なんか、あそこの東側にある廃墟に、最近幽霊が出るらしいんですよ。それで漁師さんが怖がっちゃって、暗いうちの漁に支障をきたしてるみたいです」


「幽霊ですか・・・そういったものに遭遇した経験などありませんから詳しくはわかりませんが、ピストゥレッロ様でしたらなんとかしてしまうのではありませんか?」


「それが、なんかピステロ様のことは怖がって出てこないみたいで、私が個人的に調査依頼を受けちゃったんです。地元の富豪が貴族と喧嘩してあそこに城を立て始めたって聞きましたけど、そのあたりの昔話ってなんか知ってます?」


「年寄りの口伝程度でしたら聞いたことがあります。ナプレの港町は、かつては王都よりも裕福な街だったとか。領主であるピストゥレッロ様が貴族時代に秩序ある港町作りをしていたのではないでしょうか。その富豪というのは漁で一財を築いたにも関わらず、その財を惜しみなく仲間と分け合うような実に漁師らしい好人物であったと聞いております。それ以上のことはわかりませんな」


「へえ、ピステロ様は十分な富を得たみたいなこと言ってましたけど、王都より裕福な街なんてすごいですねぇ。なんか、その富豪はピステロ様に楯突いたわけじゃなく、すべての王族貴族に反発したとか言ってたんで、これは私の推測ですけど、経済の仕組みや税制度がお貴族様最優先になっていて、クーデターみたいなの起こすつもりであの島に拠点を作ったんじゃないですかね」


「その後、実際に平民と貴族の戦争が勃発した歴史に繋がりますからね、当時の税制は決して褒められたものではなかったのでしょう」


「その戦争って、王都の貴族が獣人族を奴隷みたいに扱って、さらに出稼ぎにきていた獣人の家族を人質に取り始めたから、いよいよ我慢できなくなって獣人族がブチギレたことがきっかけで始まったらしいですよ。最初はそのことに同情してくれた人族と獣人族が手を組んでたみたいです」


「ナナセ様は王国歴史書に記載されていないことにまでたどり着いてしまわれるのですなぁ」


「まあ、詳しい話は獣人族の男性に聞いてみて下さい。食堂でお酒でも飲みながら話を聞けば、たぶん色々教えてくれますよ。さらに詳しい話を聞きたければ、ハルタク予約してもらってらやらやさんから直接聞くといいと思います。その戦争の当事者で生き残っているのはらやらやさんだけみたいなんで」


「そうですね、あの滝の集落へはまた視察に伺いたいと考えておりましたから、暇を見つけて行って参ります。ところで、今ナナセ様と話していてふと思ったのですが、貴族制度が崩壊した後、入れ替わるように商家が着々と力を付けていったのは、富豪であったその漁師が王国に反旗を翻したことが後の世に大きく影響を与えたのでしょうな」


「おー、なるほど・・・平民と貴族の戦争が起こったのは、獣人族の反乱だけが原因じゃなく、そういった複合的な要素があったからなんですね。あとでもうちょっと詳しくピステロ様にお話を聞いてみます、いつもいつも相談に乗ってもらってありがとうございます」


「いえいえ、王都でのほほんと過ごしていては絶対にできないような良い経験をさせてもらっています。ナナセ様と話をしていると、まるで世界中を冒険する物語に憧れていた少年の頃のような気持ちになります。感謝するのは私の方ですよ」


 結局、博識なミケロさんからもたいした情報は得られなかった。やっぱ幽霊に会うまで粘って廃墟のお城に通うしかなさそうだ。そのためにはベルおばあちゃんに連絡してこっち来てもらわなきゃならないので、カルスのお手伝いに向かったハルコを探してお願いしにきた。


「ねえねえハルコ、忙しいところごめんね。こないだのお城の捜索を続けるのにさ、王都にいるベルおばあちゃんとハルコとで役割を交代して欲しいんだけどいいかな。アデレちゃんたぶん空飛んで商店の営業周りとかしてるからさ、ペリコとかサギリとかレイヴじゃなくて、ハルコじゃないと手伝ってあげられないと思うの」


「アデレード、のせて、とぶ、すき。わかった、すぐいく」


「よかった。頼んだよー」


 カチカチに冷凍したマカジキの手土産とお手紙を持たせて、ハルコに王都まで飛んで行ってもらった。これで明日か明後日には捜索再開できるだろう。少し時間に余裕ができたので、私はとても大切な使命を遂行するため足早におうちへ帰ってきた。


「どうしたのナナセ、いつになく張り切っているじゃない」

「今から人をダメにするクッションを作りますっ!」

「ナナセ、それはどういったものなの?」

「アルテ様にむにゅっと埋まる感じです」

「それではわたくしがナナセをダメにしているみたいじゃない」

「はい、あれは私をダメにします」

「酷いわナナセ」


 この後、私の思惑通りアルテ様がダメになってくれたけど、そのダメになりっぷりについてはまた別のお話だ。





あとがき

近況ノートに画像をアップして、その近況ノートをすぐに消しても画像だけが残る……というシステムの穴みたいなものを利用して、本日のあとがきに画像を貼り付けています。

わざわざ消す必要もないのですが、後述する理由により、こんな遠くまで読みに来て下っている方々だけへの報告にしたいと思いまして。なんか、うまく説明できないんですけど、カッチリと読んで下さっている方々だけにクスリと笑ってもらいたい、みたいな感じなんですけど、伝わりますかね。

筆者をフォローしている方には通知があったのに、その近況ノートは速攻で消されている、みたいな不自然な状況になっているかと思いますが見逃して下さい。


https://cdn-static.kakuyomu.jp/image/R8BPHgjD


ネットでペリコ買いました。ぐわ。

100円ショップで売ってるクリスマス首飾りを装備しました。

それだけだと寂しいので海っぽい謎オブジェ買いました。

100円ショップで売ってる鉢植え素材とかで砂浜っぽく飾りました。

そのうち綺麗な貝殻とか増やしていこうと思います。


……少々不粋なお話になるのですが、実はこれ、カクヨムリワード(広告収入のやつ)が数千円ほど貯まったので、それを使用して購入しました。つまり、これは読者様から頂いたギフトのようなものということになります。正しい使い方できたのかな? と非常に満足しております、ありがとうございます。


ということで、ペリコには我が家の滝のおトイレの守り神になってもらいました!


Buon Natale!

よいクリスマスを!

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