10の7 記憶の欠片(其の六)



 あたしゼノア!九歳!


 最近は放課後に護衛さんの偉い人にビシビシ鍛えられている。いつもは学園の中庭でやってるんだけど、今日はお城の中にある護衛さんの詰め所ってところに入れてもらった。


「よし、今日の稽古はここまで!ゼノア、よく頑張ったな」


「ありがとうございましたぁ!ぜーぜー」


「小さな身体なのに、本当に感心しちまうよ」


「あたしみんなよりちっこいから、みんなよりたくさん頑張らないと!はーはー」


「その木刀は俺にも重すぎて扱えないのに・・・これが才能ってやつなのかな」


 あたしはいきなり渡された黒くて長い棒の武器を振り回せるようになるために、毎日頑張って身体を鍛えている。港のおうちから王都まで毎日走って往復してるし、ずっと重たい棒を持ち歩いてるから腕力もずいぶんついてきた。


「ただいまー!ぜぇはぁ」


「おかえりゼノア、今日も遅くまで王都にいたんだな」


「あのね、今日はね、護衛さんの詰め所ってとこでお稽古したんだよ!お城の中ってすごーく広くて綺麗で、あたし頑張ってお稽古続けて、学園卒業したら護衛さんになりたい!」


「そうかそうか、頑張ってるようでお父さん嬉しいぞ。それで、そろそろその剣を抜けるようになったのか?」


「抜くってなあに?」


「なんだ、ゼノアは聞いていないのか。その剣は特別な力が無いと抜けないらしいぞ。なんでもゼノアはその特別な力ってのが眠っているそうだ。しっかり握って左右に引っ張ってみなさい」


「うん、わかった」


 お父さんに言われたとおり、棒の途中にある切れ目みたいなところを左右に引っ張ってみたけど何も起こらなかった。


「無理だよぉ、すっごい力入れてみたけど抜けないや」


「まだ剣に認めてもらえていないのかもなぁ」


「えー、この棒って生きてるの?」


「お父さんに聞くな。わからん」


 あたしはこの日から、黒い棒に認めてもらうため、抱っこして一緒に眠ることにした。おやすみ棒ちゃん。



 あたしゼノア、十歳。


 今日は光曜日でお休みだからローゼリアちゃんとデート!


 あたしは少し遠くの山にピクニックに行きたかったんだけど、ローゼリアちゃんがリベルディアって人に「危ないから子供だけで王都から出たら駄目」って言われちゃったらしくて、学園の近くにある公園に遊びにきた。


「ローゼリアちゃん!お約束したおべんと持ってきたよ!」


「ゼノアさんが作って下さったのよね?楽しみです」


 あたしは腰にくくりつけている魚かごに手を突っ込み、おにぎりと甘い卵焼きと木のコップとを取り出す。逆の腰には徳利がくくりつけてあるので、二人で並んで芝生に座ってからコップにお茶をそそぐ。


「ゼノアさんの水筒やバッグはとても個性的ですよね。それは竹で編み込んであるのでしょうか?」


「えっと、これはね、学園に通うのにね、おうちの中に転がってた適当な入れ物がこれしかなかったの。うちはずっと漁師だからさ」


「漁に使うものなの?お魚を入れるバッグなの?」


「漁っていうより釣りかなぁ。あ、でもこれはお魚入れるのに使ったわけじゃないから、おべんと生臭くなってないから安心してね!」


「そんなこと考えてもいませんでした。では、おにぎり遠慮なくいただきますね、綺麗な三角形で素敵だわ、もぐもぐ・・・」


 今日のおにぎりはお母さんがお醤油とお砂糖で甘く煮てくれた海藻入りだ。卵焼きにもお砂糖いっぱい入れたから甘くて美味しいね。


「あたしもいただきまーす!ぱくぱく、おいしー!」


 ローゼリアちゃんが両方のほっぺたを手でおさえながら嬉しそうに食べている。動きがいちいち可愛くて見とれちゃう。


「ゼノアさん!とても美味しいわ!ほっぺがおっこちてしまいそうよ!ゼノアさんならきっと素敵なお嫁さんになれますね」


「と思うでしょ?あたしおにぎりと卵焼きしか作れないんだよねぇ。あ、あと魚を棒に刺して焼くだけでいいなら得意だよ!」


「そうなのですか?これほど美味しく作れるのであれば、他のお料理もきっと上手になるのではありませんか?」


「もうちょっと大人になったらね、お母さんが色々と教えてくれるって言ってたんだけどね、ほら、あたしさ、この黒い棒でたくさん練習して剣士にならなきゃいけなくなっちゃったからさ」


「そうなのですか、残念です。わたくしは孤児院育ちですし、お料理なんてさせてもらえませんでしたから」


「あ!でもでも、妹のリノアちゃんが大きくなったら、お母さん色々料理とか教えるって言ってたから、そしたらなんか作ってもらお!」


「うふふ、妹のリノアさんはまだ赤ん坊なのですよね。十年くらい待たなければなりませんけれども、とても楽しみです」


「あはは、それまでにあたし立派な剣士にならなきゃね!」


「うふふ」「あはは」


 芝生に並んで座り、頬を近づけて笑い合う。なんだか恋人同士みたいでドキドキしちゃう。そうこうしているうちにおべんとを食べ終わり、徳利に入れたお茶も飲み干しちゃったので、王都のお散歩に行くことにした。


「あたし、王都って学園とお城しか知らないんだ」


「わたくしも孤児院からお出かけしたことは、ほとんどありません」


「そうなんだー。ねえねえ、商業地区っていう、お店屋さんがいっぱいあるとこ行ってみようよ。学園のお友達が見習いで働いてるかもよ」


「そうですね、では西門から北門の方へ歩いてみましょうか」


 あたしは港と学園の往復で使っていた西門は知ってるけど、それ以外のところはよく知らなかった。ローゼリアちゃんと二人で手を繋ぎ、色々なお店屋さんが並んでいる道をてくてく歩いた。


「わぁー、きれいな色のお洋服とか売ってるね、あ!あっちで美味しそうなお肉売ってるー、いこいこっ!」


「ゼノアさーん、歩くのが速すぎるわー、ふぅふぅ」


「ああ、ごめんごめん、もうちょっとゆっくり歩くね」


 毎日走って往復してるあたしはみんなより歩くのが速い。お店屋さんの商品に夢中になってたら、知ないうちにローゼリアちゃんの手を離して置き去りにしちゃってたよ、ごめんね。


 あたしはお肉を焼いているお店のいい匂いに吸い寄せられていると、知らないおじさんが声をかけてきた。


「そこのお嬢ちゃん、肉が食べたいのかい。おじさんが買ってあげようか?ふひっ」


「ホントに!?たべるたべるー!あたし漁師の子だからお魚ばっかりなんだ」


「はぁはぁ、ゼノアさん、知らない人から食べ物を頂いてはダメよ」


「チッ」


 さっきまで優しそうに笑っていたおじさんの顔が変わった。


「黙って着いてくりゃいいもんをよぉ・・・」


「もしかしておじさん、悪い人なの?」


 あたしは背中にくくりつけてある棒ちゃんを外して構える。すると物陰に隠れていた二人目の知らないおじさんがローゼリアちゃんの背後から口を抑えて持ち上げた。


「ちょっとっ!あたしのローゼリアちゃんになにすんのーっ!」


「美少女二人・・・ぐふふっ、むふふっ・・・」


 なにこの人たち気持ち悪い。あたしはローゼリアちゃんを取り戻すため、棒ちゃんで二人目の知らないおじさんに殴りかかろうとすると、物陰のさらに奥から三人目の知らないおじさんが現れた。その三人目は短剣を持っていて、その剣先がローゼリアちゃんの首に向けられた。


 あたしの記憶があるのはここまでで、その後のことはよく覚えてないんだよね。


── シャキーン! ──


「うわあああ、なんだこの小娘!」

「木刀かと思ったら剣じゃねえか!」

「おいおい、なんかやべえ色してんぞ!」

「あれ?俺、力が入らなくなってきた・・・」

「なんか俺もだ・・・」


── ビシュッ ザクッ ザクッ ──

── ザクッ グサッ グサッ ──

── ドサッ ドサッ ドサッ ──


「ゼノアさん、ゼノアさんっ・・・ふらふら・・・ふにゃっ」



 目が覚めるとそこはお城の中の貴賓室ってところで、知らないおばさんが嬉しそうにあたしの頭を撫でていた。隣のベッドにはローゼリアちゃんが眠ってる。無事だったみたいでよかったよ。


「ここどこ?おばさんだれ?また悪い人なの?」


「お、おばさんじゃありませーん!」


「あ。思い出した。黒い棒くれた人だ!」


 後から聞いた話だと、このおば・・・とてもきれいな女の人がリベルディアって人らしくて、不老不死の魔女って呼ばれている宮廷魔道士なんだって。あたしが知らないおじさん三人を棒ちゃん抜いてメッタ斬りにしているところへ護衛の人と一緒にやってきて、死んじゃいそうになってた知らないおじさんたちに治癒魔法っていうのをかけてくれたらしい。


 うん。まったく思い出せないや。





あとがき

棒ちゃん、無事に抜けました。


さて、話が過去にすっ飛んだりして筆者もよくわからなくなっているので、主要な登場人物の年齢をまとめておこうと思います。過去に4の13・5でやったやつと似ていますが、今回はナナセさんとの年齢差&名前だけの、とても簡易なものにしておきます。


なお、現在のナナセさんは14歳なのでプラス14すると現在の年齢になります。もちろん年齢なんて把握していなくても問題ないようなお話を書くように心がけていますので、あくまでも参考資料ということで。


この作品は『過去を掘り起こす』みたいなものがテーマになっている部分があるので、書き始めた当初、年齢の設定についてはかなり慎重に行ったつもりですが、いきなり予告なしで書き換えたりしたらごめんなさい。もし間違っていたとしてもプラスマイナス1歳とかだと思います。


歳 登場人物名称 (補足)

00 七瀬


78 ブランカイオ (村長さんの父)

76 ネッビオルド (王都の商人)

70 ゼノア

70 ローゼリア

63 リノア (ゼノアの妹)

61 チェルバリオ (村長さん)

56 ヴァルガリオ (村長さんの弟)


51 ケンモッカ (ケネス)

50 セバスチャン (アレクシス)

50 アルレスカ=ステラ

48 ネプチュン (行商隊の偉い人)


34 ブルネリオ

34 バルバレスカ

34 マセッタ

34 レオゴメス (レオナルド)

30 シャルロット (レオナルド夫人)

28 ラフィール (ブルネリオの弟)


21 ロベルタ

20 アンドレッティ

20 ベールチア (アイシャール)

16 オルネライオ

07 サッシカイオ

07 リアンナ


-2 アデレード

-3 ソライオ (双子王子)

-3 ティナネーラ (双子王女)

-9 アリアニカ (戦闘力53万)

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