10の5 おさかにゃ



 ロベルタさんがバンバンジーのようなものを作り終え、私の方は金目鯛の下処理が終わった。さあ焼いていこう。


「それで、これがちょっとしたコツなんですけど、ウロコをわざと濡らして皮の部分だけ揚げ物用の油にそーっと漬けるんです。水分がブクブクー!ってなった刺激てウロコが立ち上がった状態になるんですよ」


「ほほう・・・始めから手鍋で炒めてはいけないのですか?」


「はい、他の魚料理を作るときみたいに、フライパンで皮面からソテーしちゃうとウロコが潰れて立たないんです。それでもまあパリパリして美味しいんですけど、これは見た目の問題なんです」


「難易度の高い料理ですね・・・」


 揚げ物用の鍋で皮だけ揚げるように火を通し、うまくウロコが立ち上がってくれたらすぐにフライパンで身を下にして焼き始める。このとき、油をすくって上からウロコの面にひっかけ続けるのがコツだ。バター焼きでバターをひっかけ続けるのと似てるね。


「素晴らしい、まるでウロコの花が咲き乱れているようです」


「あはは、ロベルタさんなかなか上手いこと言いますね。じゃあさっきの緑色のソースを温めてお皿に塗る感じで敷いて下さい。上からかけちゃうと、せっかくの皮とウロコのパリパリが台無しですから」


「なるほど、かしこまりました」


 そうこうしている間にハルコが窓からバサバサと帰宅した。ねもねもちゃんとみぷみぷちゃんの首根っこを左右の足の爪に一人づつ引っ掛けて運んできたので笑ってしまった。同じタイミングで目をゴシゴシこすりながらアルテ様と一緒にゆぱゆぱちゃんが起きてきた。アルテ様にしがみついていて羨ましい。


「ナナセ、つれてきた」

「ハルコありがとー、なんか運ぶ方も運ばれる方も慣れた感じだったねぇ」

「ねもねもおなかすいたー」

「いい匂いし!」

「ナナセが本気で作ったお料理は久しぶりだわ」

「やはり地上が一番でしゅ!」

「地下室はもういいでしゅ!」

「早く領主様の料理を食べたいでしゅ!」

「にゃにゃせおねいにゃん、ゆぱゆぱ、おきたにょ」

「大丈夫?フラフラしない?」

「えっと、いい、におい、おきたにょ」

「ガーリックバターって美味しそうな匂いするもんねー」

「おい姫!早くするじゃ!」

「ナナセ様、準備が整いました」


 もはや誰が喋っているのかよくわからない。まあ、たいした問題でもないだろう。


「まず前菜出してから、次にメインディッシュとか気取った出し方しようと思ってたんだけど、なんかそういう感じじゃなくなっちゃったから全部一緒に出すねー。鶏ササミのサラダと金目鯛のウロコ焼きでーす!足りなかったらパンいっぱい食べてねー!」


「「「いただきまーす!」」」

「のじゃ!」「ましゅ!」「ますし!」「にゃにょ!」


 この家には総勢十一人が食べられるテーブルなんて無い。そこで、アルテ様のひざの上にゆぱゆぱちゃんが乗り、イナリちゃんの肩にねもねもちゃんがよじ登り、比較的大きな子のみぷみぷちゃんまでロベルタさんのひざの上に恥ずかしそうに座っていた。小人族はイスの上に高さを調整する箱を置き、三人並んでちょこちょこんと座っていて置物みたいだ。ハルコは足の爪を器用に使って食べるのでひざの上に誰も乗せられず、少し残念そうな様子が面白い。


「ゆぱゆぱちゃんが喜ぶと思って焼いたんだよー、おさかにゃが一番好きなんでしょ?」


「おさかにゃ、しゅき!にゃにゃせおねいにゃん、だいしゅきぃ!」


 そう言うと、ゆぱゆぱちゃんがアルテ様のひざの上から私のひざの上に飛び移ってきた。やった!やったよ!久々にアルテ様に勝ったよ!


「もぐもぐ・・・ウロコがパリパリしてて美味しいねー!はいゆぱゆぱちゃん、あーん」


「あーん、もぎゅ、パリパリ・・・おいちいにょー!」


 なんだか食べにくいけど、にぎやかで楽しいね。



 大家族番組みたいな食事が終わって一息ついてから、アルテ様とイナリちゃんに神楽ちゃんを紹介することに挑戦してみた。みんなで一緒に刀の柄を握ってゆぱゆぱちゃんに抜いてもらおうとしたけど、それだとたぶん神様二人が気絶しちゃうので、さっきロベルタさんで成功した重力結界内に入れた状態で抜いてみようと思う。


「ぬぬぬん・・・駄目だぁ、アルテ様の光、邪魔ぁ・・・」


「ナナセにそんな言われ方をすると悲しくなってしまいます」


「あはは、ごめんごめん。アルテ様だけじゃなくてイナリちゃんの光も邪魔で重力魔法が使えないパターンあったんで気にしないで下さい」


 結局、部屋の中じゃ危ないのでお庭に出てから神楽ちゃんを抜くことになった。重力結界が使えないので、少しでもヤバそうならさやに戻す。


 ゆぱゆぱちゃんが柄とさやを握り、アルテ様とイナリちゃんと私で柄に手を添える。すぐに遠くへ逃げられるように背後の安全も確認もした。アルテ様は「わたくしでもお話できるのかしら」とか言いながら緩い感じで嬉しそうに手を添え、イナリちゃんに関しては「一度経験しておるから怖くないのじゃ!」とかいいつつもすでに逃げ腰だった。


「いくにゃ!」


── シャキーン! ──


 刀身を現した神楽ちゃんが鈍く輝きながら色々と吸い取る。すると、まだ何も会話していないうちにアルテ様がふにゃりとひざをついて倒れた。その様子を見たイナリちゃんがアルテ様を引きずりながら何メートルか背後に逃げた。私は神様二人が脱落したのを確認してから重力結界をまとった。


「【呼ばれて飛び出てじゃじゃーんのだ!】」


「ちょっと、それどこで覚えたの!?」


「【創造神様に「言え」と強要されていたのだ】」


「そ、そうなんだ・・・ねえ神楽ちゃん、この吸い込み弱めることってできないの?また神様が一人倒れちゃったよ」


「【さっき子分と一緒に頑張って戦ったから疲れてしまったのだ。これはうちにとって呼吸みたいなものだから弱めるのは難しいのだ。でもそこにいる神族は良質な魔子を提供してくれるので助かるのだ!感謝すると伝えて欲しいのだ!】」


 やっぱり戦闘の後はお腹がすくらしい。これじゃアルテ様を紹介できない。どうしよっかなと悩んでいると、数メートル先に退避しているイナリちゃんから通信が飛んできた。どうやら神楽ちゃんを握っている私の手を介して会話するようだ。前にも思ったことだけどイナリちゃんって工夫して魔法を使うの上手いよね。


「【わらわはイナリじゃ!そなたとゆぱゆぱの華麗な舞いは非常に見応えがあったのじゃ!素晴らしいものを見せてもらったのじゃ!】」


「【お褒めいただき光栄なのだ!よろしくなのだイナリ殿!】」


「なるほどー。イナリちゃんの通信なら私たちの会話に割り込んでくることができるんだねぇ。同じことアルテ様にも教えてあげてよ」


「【これはわらわも姫が相手でないとできないのじゃ。受け取る側の準備が必要なのじゃ。じゃからアルテミスと姫ならできるかもしれぬのじゃ。目を覚ましたら色々と試してみるのじゃ】」


「これできると色々便利だからお願いね。ところでさ、神楽ちゃんは創造神に作ってもらったんだよね?イナリちゃんとかノイドさんみたいに、この世界でなんかお仕事を与えられていたりしないの?」


「【前世があったような気がするのだが覚えていないのだ。気がついたら前のご主人がうちのことを振り回して悪人をメッタ斬りにしていたのだ。それよりも前の記憶はよくわからないのだ】」


「そっかぁ。神楽ちゃんすごい長いけどさ、ゼノアさんも私もちびっこいのにさ、なんでこんな長い刀の持ち主に選んだの?」


「【うちの刀身は三尺六寸五分なのだ。なぜご主人を選んだと聞かれても困るのだ。抜ける者がほとんどいないのだから、うちが二人の所有物になるのは当然のことなのだ】」


「それもそっか」


 三尺六寸五分ってなんか聞いたことあるね。アルテ様がずいぶん昔に「剣に選ばれる必要がある」とか言ってたのはこのことだったのかな。なんかもっとこう、岩に刺さっている伝説の聖剣をザシュッて抜いて天から一筋の光が!みたいなのに憧れてたけど違ったよ。


「のじゃ?」「みゅ・・・」「でしゅ?」「【のだ!】」

「のじゃ!」「にゃにょ!」「でしゅ」「【のだ?】」


 この後、ゆぱゆぱちゃんとイナリちゃんと小人族と神楽ちゃんがしばらくお話をしていた。さっきから庭で気絶しちゃったままのアルテ様をベッドに寝かせてあげなければならないので、ほどほどのところで神楽ちゃんにはさやへ戻ってもらった。


 気絶していても私の重力魔法を無効化してしまうアルテ様は、私には重す・・・ナイスバディすぎて運べないので、力持ちのロベルタさんに運んでもらった。気絶してぐんにゃりしているアルテ様をお姫様抱っこする戦闘メイド・・・うむ、なかなか絵になる光景だ。なんかムズムズする。


「アルテ様さ、神楽ちゃんに吸われまくってるけど大丈夫なのかなぁ」


「わらわも少し心配じゃから様子を見ておるのじゃ」


「ありがとイナリちゃん、頼んだよ」


 イナリちゃんがアルテ様を見ていてくれるようだし、神楽ちゃんもみんなに馴染んでくれたことだし、私もそろそろ町長らしい仕事を再開しなきゃね。





あとがき

獣は魚のウロコなんて気にせずむしゃむしゃ食べると思うので、なんかそういう食べ方する料理ないかなーと考えたところ、ウロコ焼きくらいしか思い浮かびませんでした。そもそもヨーロッパの人ってウロコどころか、あまり魚の皮を食べないと思うので、これは日本のレストランでしか食べられない日本風西洋料理なのでしょう。栄養価や味はともかく、バリバリに焼いてある魚の皮って食感が良くて香ばしいですよね。


さて、次話とその次はナナセさんたちの登場しないお話で、少々地味な展開なので投稿間隔を中二日にしてさっさと通り過ぎようと思います。お付き合いのほど、よろしくお願いします。

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