9の20 異種族交流
さっそく可愛い獣人の子分三人と仲良しになるため、私とイナリちゃんで遊びに出かける。ノイドさんはこの中では比較的大人なので、私たちのような子供と一緒に遊びに出かけると言った感じではなく、らやらやさんたちと一緒に暖かい目で見送ってくれた。
滝のある岩場みたいなところからさらに上まで登ると、けっこう広い湖になっていた。さらに山頂までは少し距離がありそうだけど、かなりの急勾配かつ高そうな木が深く茂っているので、身体能力の高い獣人たちでも登ることなどめったに無いらしい。
「にゃにゃせおねいにゃん、こっちこっちー!」
「おいゆぱゆぱー!速いのじゃー!わらわは速く走れないのじゃー!」
「ごめんにゃしゃいにゃにょー!」
そんなこんなで跳ね回るように先導する子供獣人になんとかついていき、いつも遊んでいるポイントまでようやくたどり着いた。そこは湖のほとりの岩場になっている場所で、すぐ近くに小さな小屋があった。
「おさかにゃ、つりゅにょ」
「へえ、小屋の中に色々と釣りグッズが置いてあるんだねぇ」
その釣り小屋の中には木の枝や蔦で作ったと思われる釣り竿やら網やら、あとは獲物を入れるためのタルなんかを置いとく倉庫のようだった。片隅には栽培している釣りの餌と思われる虫がウネウネしているキモいタルがあったけど、それは見なかったことにする。
岩場には丸太を組んで作ったようなイカダが繋がれていて、五人でそれに乗って湖の深いところまでちゃぷちゃぷと進んだ。
「おい姫、こんなちっこい釣り竿じゃとちっこい魚しか釣れないのじゃ。これは子供用の釣り竿なのじゃ?」
「海の釣りと違って、たぶんちっこい魚を狙って釣るんだと思うよ」
「ふむ、そうなのじゃな」
「ちいさいにょ、いっぱいつれりゅにょ」
「したのほうに、いっぱいいるよー」
「少しゆらゆらすると釣れるし」
私はウネウネ餌を釣り針に付けるなとどいう野蛮な行為ができないため、イカダ漕ぎ係と網係と釣った魚の管理係を率先して引き受けた。みんなのお姉ちゃんとして当然だよね。
「おいみぷみぷ、引いてるのじゃ」
「まだし。我慢し。」
「ふむ、そうなのじゃな」
子供用みたいな釣り竿には針がたくさんついていたので、いっぱいかかってから一気に引き上げるのだろうか。私は念のために網を片手に、みんなが釣り上げるのを待つ。
「おい!わらわの竿にもかかったのじゃ!上げていいのじゃ?」
「いにゃりおねいにゃん、まだみゅ」
「もうすこしー」
「我慢し」
しばらく我慢してから『いまにゃ!』っていうゆぱゆぱちゃんの掛け声とともに、みんなで釣り竿を引き上げる。するとそこには二~三匹づつのワカサギらしき魚が針にかかっていた。チマチマと魚を針から外すと、すぐに次のウネウネ餌をつけてまた湖に投入した。
「みんなすごいねぇ、どんどん釣れるじゃん」
「ちっこい魚でも釣れ続けると楽しいのじゃ!」
なんやかんやでタルいっぱいのワカサギが釣れたので、これはさっそく里に戻って私が調理することにしよう。
・
「すみません・・・また厨房をお借りします」
「領主様はいつでもご自由にお使い下さい」
ワカサギと言えばやっぱ天ぷらだよね。この厨房には粉はあるようだけど鶏卵がなかった。確かお酢だけでもいいんだよねと思い、なんだか適当な天ぷらのどろを作った。
「湖の小魚をそのように処理するのですか」
「はい、揚げちゃえば関係ないかもしれませんけど、私は何となくお魚の内臓を食べるのに抵抗があるんですよ。さっき釣り用の餌を見ちゃったからなおのこと」
「私たち獣人は手先が器用な者は限られていますから、このような繊細な調理はしたことがありませんでした。是非とも教えて下さい」
「ここの下アゴのとこをつかんで、こうやって裂いてから引っ張る感じで内臓を取り出せるんです。もし失敗しちゃってもお腹の部分を優しく包丁で切ってほじくり出せばいいと思いますよ」
「なるほど・・・私たちの指先ではなかなか難しいですね・・・」
さっき滝のおトイレを案内してくれたウサミミ女性獣人は里のお料理担当なので、色々とお話を聞きながらワカサギの掃除を手伝ってくれた。この山で採れる魚でごちそうなのは、やっぱりサーモンだかマスだかの身がピンク色のやつだと言っていた。
「この里ではるぴるぴが採るのが上手いです」
「ああなるほど、クマさんの習性ですね。野生のクマもそのピンク魚を殴ったり咥えたりして採るの上手いんですよ」
そうこうしているうちに大量にあったワカサギの掃除が終わったので揚げ物を始める。
この里にある油は希少品らしかったけど、数日以内に必ず差し入れで大量に持ってくる約束をしてからたっぷりと使わせてもらった。聖戦のときにビビって過剰に準備した高品質食用油の火炎瓶が役立ってよかったよ。
「贅沢な調理方法ですね」
「こんな山奥の里じゃ油は貴重品ですよねぇ」
「そうでもありませんよ、この山は木の実が豊富ですから。ただ絞る作業が大変なので、必要以上に用意したりしないだけですね」
「なるほど。人族みたいにたくさん作って売るってわけでもないですもんねぇ。あ、これそろそろいいかな、揚げたてが美味しいんですよ」
ひとまず私とイナリちゃんと子分三人とウサミミさんが味見する分として六匹ほど揚げてみた。みんなで一匹づつ食べてみる。
「素晴らしい!このようにサクサクとした食感になるのですね!」
「おいしいにょー!」
「こんなふうになるんだー!」
「みぷみぷこれ気に入ったし!」
「姫の作る料理は何でも美味しいのじゃ」
「美味しいねぇ、やっぱ新鮮だからかな?塩なんていらないね」
考えてみたら釣れたてホヤホヤのさっきまで生きていたような魚を天ぷらとかフリットにしたことなんてなかった。自分たちで頑張って釣ってきたっていうのも美味しく感じさせている要因かもしれない。
「これさ、大人の獣人に食べさせるの惜しいね・・・みんなでここで全部食べちゃおっか・・・」
「おい姫、悪人の顔になっておるのじゃ」
「にゃにゃせおねいにゃん、みんにゃに、わけりゅー」
私の心はすっかり汚れてしまったようだ。ごめんなさい。
「冗談だよ冗談!あはは。じゃあ大量生産するよぉー!」
一つの鍋へ大量にワカサギを投入すると上手く揚がってくれないので、もう一つ鍋を用意してウサミミさんと一緒にワカサギの天ぷらを大量生産した。当然ウサミミさんは天ぷらなんて調理法は知らなかったので、魚だけじゃなくて野菜で作っても美味しいということを教えてあげたら痛く感動されて、さっそく食材庫から天ぷらに良さそうな山菜やキノコを大量に持ってきた。
この里に住んでいる獣人は何十人も居るようで、そのままひたすら天ぷらを生産し続け、やたら広い食堂のような所のテーブルに今日の夜ご飯としてパンやご飯と一緒に並べ終わった。
「獣人のみなさーん!ご飯ができましたよー!」
「こっ、これは・・・なんと贅沢な食事であろうか」
「ワカサギと野菜の天ぷらだかフリットだかの盛り合わせですっ!ご飯の人はお塩を付けて食べて下さい、パンの人はマヨネーズを付けても合うと思います。さあみんなで食べましょう!いっただきまーす!さくさく、もぐもぐ。おいちー!」
「「「これはうまいっ!」」」
人族の私が獣人の里に心から受け入れてもらった瞬間のようだ。やっぱ美味しい食事は人を幸せにするよね。種族を越えて。
・
「・・・なんかこの寝室すごいですね、国王陛下の部屋みたい」
「こちらはリベルディア様がいらっしゃったとき専用のお部屋です」
「へえ、自分だけブルジョアルーム使ってたんですかぁ」
この部屋はリベルディアがいつ遊びに来てもいいように特別綺麗に保っていたようで、その様子から獣人族の真面目さや几帳面さが垣間見える。それに比べると王国の民は神様への敬意とか信仰が薄い、特に私。
「清潔にしていないとめっぽう叱られますから」
「いい事ですね、こういうのって誰かが怒るとかそんな理由で良いと思うんですよね、綺麗であるという結果に価値があるんです。人族も見習わなきゃって思いましたよ」
この日はリベルディア専用の滝のせせらぎがほどよく聞こえてくるヒーリングルームのような特別室で、イナリちゃんと子分三人で動物の赤ちゃんのように、ひとつのかたまりになってぐっすり眠った。
獣になった気分。
あとがき
獣人族が住んでいる滝は、エンジェルフォールみたいなかっちょいい崖のちっこい版をイメージしながら書きました。あの崖に穴掘って住んでるとしたら、なかなか人族では見つけることはできそうにありません。
すごいですよねエンジェルフォール、一生に一度くらい旅してみたい場所の一つですが、たぶん無理なので作品内に出して満足しようと思います><
さて、次話ようやくナゼルの町へ帰ります。
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