9の21 里の繁殖事情



 翌日、可愛い子分三人のお母さんにごあいさつにやってきた。


 驚くことにゆぱゆぱちゃんのお母さんはカバさん獣人だった。


「・・・ということで、ナゼルの町で文字や計算のお勉強をしてもらうのと、なんか新しい仕事があったらお手伝いしてもらおうと思っています。お母様方は子供たちを連れて行かれちゃって寂しくないですか?」


「あたしたちはこの里そのものが大きな家族みたいなもんだからねぇ、誰の子とかそういった意識はしていないんだよ。あたしはあくまでもゆぱゆぱを産んだだけさ」


「そうなんですね。それはお父様も同じ考えなんですか?」


「父親が誰かなんて神様にしかわかんないよ、あっはっはっは!」


「な、なんですかそれ・・・」


 よくよく話を聞いてみると、獣人族には繁殖期のようなものがあり、それが例の鎮魂祭とリンクしているそうだ。その期間は誰とでも繁殖行為を行うそうで、父親が誰かなんてわかるはずがないと大笑いしていた。そんな乱れた繁殖行為をしているにも関わらず、子供が生まれるのは里全体で年に一人くらいのペースらしく、同じくらいのペースで事故や病気で亡くなる獣人がいるので、ここ数十年は増えもせず減りもせず里の人口は安定しているらしい。


「人族の家族形態とはずいぶん違いますねぇ・・・」


「あたしらは少数だからねぇ、大昔は同族同種の相手とツガイになって過ごしたりもしていたらしいけど、いつしか血が濃くならないよう同族同種同士での繁殖行為は禁止になっちまったんだよ。それどころか相手を選ぶなんて贅沢なこと言ってられないほど子供に恵まれなくなっちまってるからねぇ、逆に色々な異種との組み合わせを試した方がいいのさ」


「ああそっか、そうでしたね。っていうか、ゆぱゆぱちゃんのお母様の元になっている動物はカバっぽいですけど、なんで猫っぽい子供が生まれたんですか?そっから父親が推測できないんですか?」


「リベルディア様の説明だと、先祖返りとかって言ってたかいね。古の血の記憶が生まれる子らに容姿を思い起こさせるとかなんとかって言ってたけど、あたしにゃ難しくてわからんよ」


「なるほど・・・なんだか勉強になりました」


 創造神、知能の低い獣人族を相手にかっこつけてわざわざ難しそうな説明をしたんじゃないかな、なんかわかる気がするのが悔しい。まあ、それでこの里が上手くいってるなら問題ない。さすが異種族は不思議なことだらけだ。



 その日の昼頃に可愛い子分三人を引き連れて獣人の里を出発し、ようやくナゼルの町へ到着したときにはすでに夜だった。荷物が減ったノイドさんがイナリちゃんを乗せて走ってくれたので、これでもずいぶん早く帰ってきた方だ。


「ただいまー!アルテ様ごめんね、また遅くなっちゃった。子供の獣人が人族研修みたいな感じでナゼルの町に住むことになったんですよ」


「心配したのよナナセ、ゆぱゆぱさんの集落はそんなに遠い場所だったの?」


「山までは近いんですけど、滝のところまでぐねぐね道を登るのがけっこう大変で、二泊三日の強行旅行になっちゃいました。でも、今度からは空を飛んでいくから大丈夫ですよ」


「ありゅてみしゅ、ただいま、にゃにょ」

「ねもねもだよー!」

「みぷみぷです」


「うふふ、可愛らしいお友達が増えたのね」


 最近は私が無断で遅くなってもアルテ様が心配して泣いちゃうなんてことがなくなったので一安心だ。むしろ手をワキワキさせて三人組の耳や尻尾をモミモミしたそうな様子だったのでしばらく預けよう。


 さっそくエマちゃんとアンジェちゃんに、新しく大人の獣人が何人かお手伝いに来てくれるから何か仕事を割り振っておいてとお願いした。自分が学園に通うことになるから、働き手が増えるのは助かると喜んでもらえた。獣人のお仕事はいくらでもありそうだから安心だね。


 その後すぐに役場へ顔を出し、ミケロさんに色々と報告をする。アルテ様とバルバレスカはすでに退勤させた後で、一人で黙々と残業をしていた。私が好き勝手しているから忙しいんだね、ごめんなさい。


「ミケロさん、獣人が建築作業の手伝いをしてくれそうです」


「は、獣人ですと?人族を嫌っていると聞いていますが」


「詳しく話すと長くなるんで簡単に説明するとですね、男女で人族に対する認識にずれがあるようで、女性獣人はわりと私たちに友好的なんですけど、ミケロさんに預けようと思っている建築のお仕事ができそうな男性獣人は、貴族との戦争の歴史で人族に酷い扱いを受けた苦い経験を持っている人から教育を受けた影響で、人族に対しての忌避感が残っているみたいです」


「獣人は身体能力が高いと聞いているので、野営地の工事を手伝ってもらえるのは助かりますが、それでは非常に扱いにくそうですね・・・」


「慣れるまでしばらくは私も現場監督しますから安心して下さい」


「いくらナナセ様とはいえ、そのような獣人を従わせるのは難しいのでは?」


「たぶん大丈夫です、男性獣人の中では一番強そうな偉い人と喧嘩して勝ちましたから。その偉い人の若い衆みたいなのが来ると思うんで、文句なんて一言たりとも言わせませんよ!」


「・・・。」


 野営地にはすでに多くの木材や鋼材が運ばれ、すでに作業員が寝泊まりできるような掘っ建て小屋までもが完成しているらしい。設計図を渡して数日しかたってないのにすごいね。


「じゃあ、そこに男性獣人に住んでもらいましょうか。獣人の里ってけっこう文化的な暮らしをしていたんで、それなりに良い家具を揃えてあげないと文句言うかもしれません」


「ほほう、具体的にどのような生活をしていたのでしょうか?」


「あー、えっとぉ、王族みたいっていうかぁ、滝のおトイレとかぁ・・・なんか説明が面倒なんで一緒に見に行きますか。物作りが上手な小人族ってのがいて、アブル村の地下にこもって色々と作ってるみたいです。あそこの村に腕の良い職人がたくさんいるのは、その小人族と共存共栄しているかららしいですよ。あ、そうだ、たぶん空飛んでいけばすぐだと思うんで、その後アブル村にも行ってみませんか?」


「・・・ナナセ様と話をしていると、どこか遠く未来の国に住んでいるような気がしてしまいますな。いいでしょう、その日はアルテさんとバルバレスカ様に役所仕事はお任せして、来週にでも視察に参りましょう」


 私はタクシー代わりのハルコとペリコを予約してからお家へ戻った。タクシーっていうよりレンタカーかな。あ、そういえば神都アスィーナのハルタク事業って順調なのかな。すっかり忘れてた。



「ありゃ、寝ちゃってるんですねぇ、なんか可愛い・・・」


「そうなの、慣れない場所に来たから疲れてしまったのかしら」


 子供獣人三人組はアルテ様にしがみついたままスヤスヤと眠っていた。アルテ様も愛おしそうに暖かい光を浴びせている。私もそこに混ざってアルテ様にしがみついて眠るにはまだ時間が早いので、トボトボと一人で食堂へ向かった。


「おやナナセ様、今日は一人なのかい?」


「はい、アルテ様を子供獣人に取られちゃって。おすすめ一人前だけお願いします」


「わかったよ!ちょっと待ってな!」


 運ばれてきた今日のおすすめは平たい魚のバター焼きと、王宮で食べていたような柔らかいパンの食べ放題だった。おやっさんの料理が進化しまくっていて驚く。


「さっそく王都のコース仕立てに入りそうなメニューを作ってくれてるんですねぇ。前からこんな美味しい魚料理なんて作ってましたっけ?」


「なんだい、覚えていないのかい?これはナナセ様が建築隊にサーモンを使って出してたやつだよ。パンは王都の学園で働いていた連中が詳しいからね、こだわって毎日早朝から焼いてくれてるんだ」


「百点満点です!大満足です!」


 贅沢料理である舌平目のムニエルらしきものを食べ終わってお茶を飲みながら、近くに座っていたお年寄りに話しかける。このミミルおばあちゃんの年齢は百歳近く、ゼル村の生い立ちから知ってる生き字引のような人なのでちょうどよかった。


「ねえねえミミルおばあちゃん、獣人族の女の人に聞いたんですけど、ゼノアさんって私みたいに大きな剣を背負っていたんですか?」


「おお、おお、懐かしい話だねぇ、ナナセちゃんの剣よりも少し長かったかねぇ、なにやら黒光りしている立派な剣を大切に使ってたさ。ゼノアちゃんの若い頃は身体を鍛えるとか言うて大きなくわをずーっと背負りおってねぇ、暇さえありゃあ耕しては農地を拡大しておったさ。村の郊外へ探索にお出かけのときだけは、その剣をこさえとったかねぇ。今でもチェル君村長のお宅にあるんじゃないかい?」


「そうなんですね!今度ちょっと見に行ってみよっかな」


「なんでもゼノアちゃん以外には扱えない剣だったそうだよ。他のもんじゃ剣をさやから抜くことすらできなかったとか」


「すごーい、まさしく妖刀って感じですねぇ。私にも抜けないかなぁ」


「どうだろうねぇ、ナナセちゃんはゼノアちゃんの若い頃によく似とるから、剣が勘違いしてくれるかもしれんよ、ほっほっほ」


 それ、たぶん創造神武器だよね。





あとがき

ハルピュイアもそうでしたけど、謎の生命体は繁殖に苦労してますね。


さて、お盆休みと思われる期間の8月12日(本日分)、8月14日、8月16日と、1日おきで更新しようと思います。

今年の夏さんは梅雨を蹴飛ばして本気出してるみたいなので、かなりの猛暑です。熱中症などご注意下さい。

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