9の18 ビッグ・ボス



「ナゼル町長ナナセと申しますっ!よろしくお願いしますっ!」


「ありゃあ、ナゼルってえのはゼル村のことかい?新しい領主様だったんだねえ、あたいはるぴるぴだよ」


 強そうな女性獣人集団に若干緊張しながら、背筋を伸ばしていつもよりハキハキとごあいさつをさせていただいた。ゼノアさんと似てるから勘違いされちゃってたみたいだね。


「あたいら人族の見分けがあんまりつかないんだ、すまなかったよ」


「私も同種の獣人族の方々の見分けはつかないと思いますっ!」


「あっはっは!そりゃそうだね!あたいらは人族と交流なんてほとんどないからね、みんな同じに見えちまうんだ。しっかしまあ、領主ナナセ様は護衛侍女ゼノア様にそっくりだよ。背格好だけじゃないよ、背中に剣をこさえていたり、他の人族とは違った独特の雰囲気があるからねぇ」


「たぶんゼノアさんとは同郷の出身なので、髪の色や目の色が同じなんです。あと剣を背負うっていうのは、私たち背が小さいから他に装備できる場所がないんです・・・」


「そうかいそうかい、護衛侍女ゼノア様は立派な剣をたいそう大切にしていたねぇ、確か・・・妖刀ナントカって名前まで付けてたっけね」


「なにそれ!かっこいい!」


 るぴるぴさんは女性クマさん獣人だ。圧倒的な存在感と肝っ玉母さん的な話し方が好印象な人だった。それにしてもゼノアさんが使ってた剣ってのは気になるね、ナゼルの町に戻ったら昔のこと知ってそうなお年寄りに話を聞いてみよっか。


「護衛侍女ゼノア様にはもう季節百くらいはお会いしてないからねぇ、元気でやってるのかい?」


「何十年も前にお亡くなりになったそうなので、私はお会いしたことがないんです」


「ありゃぁ、そうだったんかいね、寂しいねぇ。その昔、あたいらに新しい農作業を教えてくれたのは護衛侍女ゼノア様だったんだよ」


「へえ、そうだったんですね」


 人族との交流が一切ないこの里にたどり着いた唯一の人族がゼノアさんだったようで、男性獣人たちが嫌がるという理由で、住居の中にまで遊びに来たことはなかったらしい。いつも里の外で会っておしゃべりしたり、狩りや農作業を教えてもらったり、お互いが持ち寄った食料を交換したりと、いい感じの交流をしていたそうだ。


「ゼル村に遊びにきたこと無いんですか?」


「さすがに人族の村へお邪魔するわけにゃいかないよ、あたいらが良くとも人族の方が怖がっちまったら迷惑かけるからね」


「そんなこと無いと思うんですけどねぇ」


「リベルディア様が「辞めておきなさい」っておっしゃってたしね」


「それシカトでいいと思います」


 リベルディアについて否定的なことを言ったら怪訝な顔をされてしまった。するとすかさず、らやらやさんが私やイナリちゃんやアルテ様について説明してくれて、ついでに私に投げ飛ばされてしまったことも恥ずかしそうに報告した。その結果、どうやら私は神の使いの予言者みたいな認識で確定されてしまったようだ。


「らやらやを投げ飛ばしちまうなんてすごいねぇ、そんな小さな身体のどこにそんな力があるんだい!あたいとも一戦交えるかい?」


「あはは、るぴるぴさん、かなり強そうなんで遠慮しておきます。らやらやさんにはちょっとだけ魔法を使ってズルして勝ったんですよ」


 ちょっとどころじゃなく全力全開の重力魔法だったけど。


「そうかいそうかい、魔法ってのは便利なんだねえ!まあ、領主ナナセ様はリベルディア様のお考えが理解できるってんなら、あたいらも安心してお付き合いできるよ!」


「ご近所というには少し遠いですけど、このあたりもどうやら私の領地みたいなんで、これからは仲良く交流しましょうよ。差し当たって、蜘蛛型の魔物を絶滅させてしまった代替品として鶏肉を融通しようと思っているんですけど・・・らやらやさんには通貨を持っていないし、人族と共に働くのは難しいと言われてしまって・・・」


 ここでるぴるぴさんがらやらやさんをギロリと睨みつけた。


「あんた、まだそんなこと言ってんのかい!どうせ里の外で仕事をすんのはあたいらなんだから、余計な口を挟むんじゃないよ!」


「すんまへん」


「領主ナナセ様よ、あたいらは人族とは違って女が外へ働きに出るんだ。農作業だけじゃなく、何か新しい仕事を与えてくれるんだったら、喜んで働かせてもらうよ。あたいらは生きる知恵に乏しいんだ、色々と教えてもらえるなら何だってするさ!」


「素晴らしい!」


「ただねぇ、人族みたいな手先を器用に使う仕事はできないよ」


 獣人族の手はゴリラっぽい人以外、ずんぐりとした丸っこい感じの人が多い。サイっぽい獣人やゾウさん獣人にいたっては指というよりも長い蹄だ。


「まあ、しばらくは力仕事とか農作業になっちゃって申し訳ないですけど。ナゼルの町は広大な農地がありますから、作業する場所はいくらでもあります」


「申し訳ないなんてことはないよ!力仕事なら任せておきな!」


「ありがとうございます!」


「あたいら年寄りは食料を分けてもらえるんだったらそれで十分だよ。ただ、子供たちには人族のような教育をして欲しいと思うんだ。リベルディア様もお見えにならなくなっちまったし、あたいらじゃたいしたことを教えてやれないからねぇ、そんなことお願いしてもいいかい?」


「リベルディアって先生みたいなことしてたんですかぁ。もちろん、そういうのは孤児院やってるアルテ様やリアンナ様が優しく教えてくれるから任せて下さい。確かに、ゆぱゆぱちゃんは言葉を話すのが苦手な感じでしたねぇ・・・」


「今はにゃとかみゅとか好きなように元になった種族の癖で話してっけどね。もう少し育ったらそういった言葉遣いは捨てさせるんだよ」


「それを すてるなんて とんでもない!」


「そっ、そうなのかいね・・・」


 私は身を乗り出してゆぱ語の捨てさせ阻止をしてから、住んでもらうところや、お仕事の割り振りについて考えた。


「そうですねぇ・・・そうだ、ナプレ市とナゼルの町の真ん中くらいに新しく集落を作るんですよ、なので、そこの建築作業をしてくれる人と、あとは農作業のお手伝いをしてくれる人に分かれてもらおうと思います」


「建物を作るのかい、それだったら女よりも男どもの方がいいんじゃないかい?この住居の管理も男どもがやってるからね」


「それはとてもありがたいですけど、男性獣人は里から出たがらないんじゃないですか?」


「あたいが黙らせるよ(ギロリンヌ)」


「「「・・・。」」」


 やっぱりこの里にとってらやらやさんは名ばかり店長で、真のボスはるぴるぴさんのようだ。


「それじゃ、具体的に里に残る人とナゼルの町へお仕事に来てくれる人の人選は、らやらやさんとるぴるぴさんにお任せしますね。あ、でもゆぱゆぱちゃんだけは、必ず私が預かりたいです」


「ゆぱゆぱなんて、まだ何もできやしないんじゃないのかい?」


「必ず私が預かりたいです」


「言葉なんかの教育をしてくれるのかい?」


「必ず私が預かりたいです」


「そ、そうかい。だったら他の子供たちも何人か連れて行っておくれよ」


「喜んで連れ去りますっ!」


 そう言うと、ビッグボスの御前で静かにしていた子供獣人たちが私に群がってきた!きたー!


「にゃにゃせおねいにゃーん!ゆぱゆぱ、えっと、がんばりゅ!」

「ねもねももつれててー!(むにゅ)」

「みぷみぷもつれてくし(むにゅ)」


「あっはっは!その子らは仲良し三人組なんだ、まとめて連れて行ってやってくれるかい?」


「ももも、もちろんですぅっ!」


「ほらあんたたち!領主様ってのはあたいらの王様みたいなもんだからね!しっかり言うこと聞くんだよ!わかったかい!?」


「ゆぱゆぱ、きくにょ!(むぎゅり)」

「きくきくー!わかったー!(よじよじ)」

「みぷみぷ、ちゃんと聞くし(きゅっ)」


 どうしよう子供獣人たちにしがみつかれたりよじ登られたり、なんだか大変なことになってしまった。よぉーし、領主様ちょっと頑張っちゃおっかなっ。


「私はなるっ!獣人王にっ!(どんっ)」


 謎の効果音を出すため机をドンと叩く。


「おい、姫は獣人じゃないからこやつらの王にはなれないのじゃ」


「イナリちゃん、そんな身も蓋もないこと言わないでよ・・・」


「どちらかと言えばわらわの方が獣人王っぽいのじゃ!」


「イナリちゃんは獣神様でしょ」


「じゃったらそれでいいのじゃ!とにかく崇めるのじゃ!」


「ゆぱゆぱ、いにゃりおねいにゃんも、しゅきー!」

「イナリさま!あがめるてなぁにー!?」

「イナリ様、ナナセお姉ちゃん、よろしくし!」


「わらわが厳しくしつけてやるのじゃ!」


 久々に見たイナリちゃんの無い胸を張ったエッヘンのポーズが可愛い。その姿を見た子供獣人たちがさっそく真似しているのが気になる。イナリちゃんのしつけで大丈夫だろうか。


 なにはともあれ、私とイナリちゃんに可愛い子分がたくさんできた。嬉しい。





登場獣人紹介

らやらや …クマさん獣人 里の長 推定200歳以上

るぴるぴ …クマさん獣人 里の母 裏番長

ゆぱゆぱ …猫型獣人 7歳くらい

ねもねも …犬型獣人 8歳くらい

みぷみぷ …鹿型獣人 もう少し年上

その他 …ウサギ型、ゴリラ型、馬型、狼型、サイ型、ゾウ型、カバ型など多種多様な模様、ゲレゲレは居ない。


変な名前シリーズ、ゆぱゆぱちゃん以外はあまり覚える必要ないかもしれません。



さて、8月は夏休みの季節なので恒例の連続更新です。

最近、他の方の作品ばかり読んでいたこともあり、ストックが少し心もとないです。去年は頑張って中1日の更新にしましたが、今年は8月4日から9月1日までの期間、中3日で行こうと思います。すみません。


ちなみに次の第十章、現時点で10の9までの3万字程度しか書けていません。筆者はストックが10万字を切ると不安で泣きそうになるので、しばらくヨムはお休みにして、カクに専念しようと思います……頑張ります。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る