9の4 ペリコとお散歩
大いに盛り上がったバルバレスカ歓迎の宴は無事に終了し、私は食堂のお片付けを手伝ってからのんびり帰宅した。なんとなくバルバレスカの様子を見ていたけど、どうやらみんなに受け入れられたようなので一安心だね。
「ただいまぁー」
「おかえりなさいませぇっ」
家に帰ってくると、珍しく酔ったロベルタさんがご機嫌で自分が寝る準備をしていた。
「あれ、ロベルタさんがお酒飲んでるのって珍しいですね」
「ナナセ様はわたくし以上に戦闘に長けておりますからぁ、護衛としての気が少し緩んでしまいましたぁ、申し訳ございませんんん」
「謝ることなんて何一つないですよ、しばらく王国は平和だと思いますし、王都に帰ったらまた厳しい教育係の護衛侍女に戻らなきゃならないわけですし、ナゼルの町にいる今のうちに羽を伸ばして下さい」
「ありがたいお言葉でございますぅ」
ルンルンしているロベルタさんが寝室へ入るのを確認してから、さあ私も寝ようと自分の部屋へ行くと、ペリコとハルコが私のベッドを巣にしていた。しかたがないのでハルコの超高級羽毛布団に「おじゃまします」とか言いながら潜り込む。
「ねえねえ、なんかペリコってさ、体も少し大きくなったし、飛ぶのも速くなったし、着実に成長してるよねー」
「ぐわー」
「ペリコ、かぜに、のって、とんでた、ハルコと、いっしょ」
「え?どゆこと?」
「はね、かぜ、つくって、のせてた」
「それって風魔法を使っちゃってるってこと?」
「ぐわー!ぐわー!」
するとペリコが誇らしげに羽根を広げ、ふわりと上昇気流のようなものを発生させた。ハルコがホバリング飛行するような人が浮いちゃうほどの強いものではないけど、そこには確かに風が吹いていた。
「すごい!ペリコまた新スキル獲得しちゃったの!?」
「ハルコと、イナリと、おうとで、いつも、とんでたから、ペリコ、まねした、たぶん」
「ぐぇー」
どうやらペリコはハルコが飛んでいる方法を真似して、風を起こす魔法を自力で習得したっぽい。たとえ微弱な上昇気流であったとしても、元々けっこう速いその飛行を助けるには十分すぎる効果があるのだろう。アイシャ姫に特攻したときも七色に光っちゃたりしてたし、ペリコはたぶん全属性ペリカンだ。神鳥すぎる。
「なんかすごいたくましいねぇ、もしかして重力魔法とか温度魔法も練習すれば使えるようになるのかなぁ?それとも飛ぶことに特化してるのかなぁ?いいこいいこ」
「ぐわぐわはぐはぐ」
ペリコは新しい魔法が使えるようになることななんて興味がないようで、私がちっこい頭を光るなでなでしてあげたら嬉しそうに光るはぐはぐを返してくれた。そんなとこはぐったらくすぐったいよ。
・
── カコン・カコン・・・ カンカンカンっカンカンカンカーン!! ──
朝、ヘンテコなリズムで鳴り響く神殿の鐘の音で目を覚ます。私は敵襲かと思って飛び起きると、慌てて神殿までやってきた。するとそこには大きな踏み台っぽい木箱を一生懸命運んでいるアリアちゃんの姿があった。
「もしかしてアリアちゃんが早朝の鐘を鳴らしてくれたの?」
「うん、おかあさまいないから、あたしがやったの!うんしょ、うんしょ」
「アリアちゃん偉いねえ、踏み台はお姉ちゃんが片付けてあげるよ」
早朝の鐘の回数は十回だ。とにかく十回鳴らせばいいと思っていたようで、実にアリアちゃんらしい元気な連打になっちゃったようだ。まあ、この町の住人が頑張ってアリアちゃんが鳴らしてくれた鐘の音に文句を言うなんて思えないので気にしなくていいだろう。
おうちに帰ってくると、ロベルタさんが朝食の準備に取り掛かっていた。何かのスープを作っているその匂いは、とても懐かしいものだった。なんだっけこれ・・・
「ねえロベルタさん、これってもしかして味噌汁では?」
「大豆を発酵させた練り物と聞いております。リノア様が年末年始のご旅行にいらした際に醤油屋へ授けていたものが完成し、このようにスープにして用意すると聞いたので挑戦してみました」
「素晴らしい!これぞナゼルの町の朝食ですよ!」
さすがのロベルタさんも味噌汁の作り方なんて知らないので、私はちょっと味見をしてから足りないものを足す。
「本当は干した魚介系のコンソメで作るのが基本なんですけど、もうここまで作っちゃったし、今日は豚汁で行きましょう」
「是非とも教えて下さいまし」
ロベルタさんが作ったのはお湯に味噌を溶かしただけのものだったので、別の鍋で薄切りにしたイノシシバラ肉を炒め、他にも適当な根菜類を刻んでぽいぽい投入した。後から色々と入れちゃったのでたくさん浮いてくる灰汁を丁寧にすくい、豚汁に近づけていく。
「最後に焙煎セサミオイルを垂らすのですか?」
「はい、あとすったショウガを少々・・・はい完成です。これはおかずとスープを兼ねた完全食です。いくらでも白いご飯が食べられますよ」
「不思議な香りがしますね、これは食欲をそそります」
朝から豚汁定食をばくばく食べた私は、食後に紅茶を飲みながら王都であった色々なことをロベルタさんに報告した。何も知らずにソラ君とティナちゃんの護衛侍女に戻るわけにもいかないので、けっこう細かいことまで詳しく説明しておいた。なんだかんだ言っても、やっぱりナゼルの町は王都から離れた田舎なので情報が遅い。
「なるほど、昨晩のバルバレスカ様は以前と比べ、ずいぶん優しげな表情をなさっていました。もう悪魔化はしないのですか?」
「あれが本来のバルバレスカさんなんだと思いますよ、本当は真面目で優しい家族想いのお母さんなんです。アリアちゃんさえいれば悪魔化からはどんどん遠のいていくと思いますし、町役場のお仕事を始めれば王宮に閉じ込められて何もすることがなかったせいで、憎しみだけに向いていた目先がずいぶん変わると思います」
「ナナセ様はまるで名医のようですね」
「ありがとうございます。人体の構造とかよくわかんないまま治癒魔法を使ってますけど、もし名医だと言ってもらえるなら精神科医って感じですかね。悪魔化の原因は精神的な要因がほとんどですから」
だいたいの事務的な報告が終わり、一緒に朝食のお片付けをしようとしたらロベルタさんに断固阻止されてしまったのでお任せする。侍女がいるって素晴らしい。
バルバレスカはミケロさんにお任せしたし、ハルピープルチームはナプレ市までアルテ様とイナリちゃんとリアンナ様を迎えに行くそうなので、私はペリコに乗ってお出かけすることにした。ちょっと気になってる場所があるんだよね。
・
「ペリコ、このあたりからゆっくり飛んでくれる?」
「ぐわっ」
私がやってきたのはいつもの野営だ。前々から思っていたことだけど、上から見るか下から見るかでその場所の印象は大きく変わってしまう。ここは林っぽくなっている丘と、綺麗な水が流れている大きめの川があるので、集落を作るのには非常に向いている。
「私、ここに街道沿いのおだんご屋さん作りたいんだよねー」
「ぐわ?」
「そんでね、なんか赤い布かけてある椅子を店頭に置いてね、おだんご屋さんの可愛い娘が元気に接客すんの。ここを通過する旅人がお茶とおだんごと可愛い娘で疲れを癒やすの」
「ぐゎ・・・」
ペリコにはあまりウケが良くなかったようだけど、ナプレ市とナゼルの町の中間にあるこの場所は、今後間違いなく重要な流通経路となる。私はそのままペリコにゆっくりと飛んでもらい、木の板にだいたいの地図を書いていく。これがこの異世界初の航空写真の原型となるはずだ。
「ペリコ、ちょっと北の方へ飛んでみよっか。なんかね、ナゼルの町からアブル村方面の内陸の道って魔獣が出るから危ないらしいんだけどね、ずっと通れないんじゃナゼルの町がいつまでたっても陸の孤島みたいない感じになっちゃうからなんとかしたいんだよね」
「ぐわっ!ぐわーっ!」
「じゃあペリコ、全力全開で飛んでみよっか!」
ペリコが任せろ!と言ってくれたような気がしたので、私はハルコに乗る時と同じように、ごく薄い重力結界を発生させる。フォースフィールド的な流線型の結界に包まれたペリコと私は、すごい勢いでアブル村方面へ突き進んだ。
「ペリコ!ストップ!ストップ!あそこになんかいっぱいいる」
私は目が悪いので飛行中は眼鏡に頼った生命体探知みたいな視界で魔獣を探索していた。本気で見ようとすると魔子不足になって危険なので、ふんわりぼんやりと探るような感じで地上を見ていると、小さな林の中に、なんとなく赤っぽい危険な反応をたくさん見つけた。
ペリコも生物的に危険を察知したようで、あまり地上に近づかず、なんかいっぱいいるあたりの上空をゆっくりと旋回するように様子をうかがっている。降りたら危ないかな?
「あそこ魔獣の巣なのかなぁ、けっこうナゼルの町から近いねぇ・・・すぐ飛んで逃げられるように準備してれば降りても大丈夫かな?」
「ぐわっ!ぐわ、ぐわ、ぐわっ!?」
どうやらペリコは降りたくないようで、まるで「ナナセ!危ないのは駄目なのよ?」と言われているような気がした。けど、どうしても気になるから無理して降りてもらった。
「じゃあペリコ、私のすぐ後ろついてきてね、危なそうなら飛び乗るからさ、すぐに上空まで飛び上がる準備しておいてね」
「ぐわ・・・ぺたぺた」
私だってずいぶん重力魔法を使った戦闘に慣れてきたし、魔獣一匹くらいだったらなんとかなるよね!
あとがき
ナナセさん、それフラグです。
ゴールデンウィーク中1日更新はここまでです。おかげさまで新規のフォロワー様やPVをたくさん頂きました、ありがとうございます。
またしばらく中5日更新になりますのでご了承下さい。
さあ、ようやく次話から異世界ファンタジーっぷりが一気に加速しますよ!
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