7の30 会議が終わると
「ありがとうございますナナセさん・・・取り乱しそうになりました」
「お姉さま、先ほどあたくしを包んだ光より強かったですの・・・」
「あはは、なんかこれ強弱の調節ができないんだよねー」
アイシャ姫は事件当時のことを語りながら色々と思い出してしまい、震えながら床に座り込んでしまった。私はアイシャ姫が血迷ってグサグサしたりしないように優しく抱きしめながら暖かい光で包む。アデレちゃんが複雑な表情をしながらやきもち焼いてくれているのがちょっと嬉しい。しばらくしてからアイシャ姫がようやく落ち着いてくれたことを確認すると、一緒に立ち上がって背筋を伸ばし、周りを見回してからアイシャ姫に説明を続けるようお願いした。
ここから先のお話はたいしたものではなかった。王都で無償奉仕の刑をないがしろにしていたサッシカイオが逃亡を図り、道中で「ナナセを襲撃しろ」という命令を受けたがあえなく撃退され、南端の港町から私との約束どおり無人島へ行こうとしたところで決裂したので、その後はそれぞれが単独行動になった、という説明だった。
「だいたいのお話は終わりました。特にアイシャール姫のサッシカイオ逃亡幇助や私への襲撃に関しては難しい裏話もないと思いますし、すでにナゼルの町で無償奉仕をしているコアントル、グランマン、ベルモッティの三人から十分な事情聴取が済んでいるのでこれ以上の説明は不要かと思います。おそらく脱獄の手助けをしたのはバルバレスカであり、サッシカイオは言われるがままに王都を抜け出したのではないかと推測されます。また、バルバレスカとレオゴメスは似たような方法でタル=クリスの脱獄逃亡の手助けをしたことも推測されます」
「そうですね、この議事を元にバルバレスカ、レオゴメス、アイシャール様、三者の処罰に関して検討します。できるかぎり早期の解決を目指しておりますが、ナナセとアデレードはなんとしてでもレオゴメスから必要な自供を取るよう命令します。また、それとは別に、ナナセにはバルバレスカを悪魔化から救っていただきたいと思います。そのようなことは可能ですか?」
「やってみないとわかりませんが、光の紡ぎ手の神様がいればなんとかなるかもしれません。おそらくバルバレスカは私の声を聞くだけで興奮して悪魔化するかもしれないので、アイシャール姫にやったのと同じ方法は難しいと思います。少々お時間をいただけますか?」
「わかりました、悪魔化が解消しなければバルバレスカとは対話にならないと思います。ナナセにしかできない仕事です、是非ともよろしくお願いします」
「こちらこそ、国王陛下には容疑者への寛大な措置の検討をよろしくお願いします」
こうして長く続いた会議は終了し、アイシャ姫はアルメオさんに地下牢へ連れて行かれてしまった。結局、私はまだ直接きちんと話を聞けていないセバスさんが、アルレスカ=ステラ様とローゼリアさんの両方とも恋人だった過去があり、バルバレスカとレオゴメス、それぞれの血の繋がった本当の父親であろうことには触れなかった。ブルネリオ王様に変な風に解釈されてセバスさんが責め立てられてしまうのも困るし、その話を聞くときはケンモッカ先生と一緒にしようって約束したしね。
そのブルネリオ王様は、どうやらマセッタ様と二人で話があるらしく、全員を追い出してから二人で部屋に残って話し込んでいたようだ。
王城を出るとすでに日も暮れてしまっていたので、レオゴメスの事情聴取は明日のお昼にでも行うことにして、私とアデレちゃんとベルおばあちゃんでコンビニの建物へ帰ってきた。
「ペリコ、ハルコ、なんか遅くなっちゃったよ、ごめんね。お寿司屋さんで揚げ物のお弁当を買ってきたから、みんなで食べよ」
「ぐわぐわっ、はぐはぐ」
「ナナセ、おかえり、おなかすいた」
この日は結局、今までの人生で一番頭を使ったんじゃないかっていうくらい激しい疲労に見舞われ、お弁当を半分くらいしか食べられず、ハルコの高級羽毛布団に潜り込んでぐっすりと眠ってしまった。
・
── カーン・カーン・カーン ──
「ぐわっ、ぐわーっ、ぐえぇーっ」
朝、久しぶりに神殿の鐘とペリコの可愛いさえずりで目を覚ますと、アデレちゃんとベルおばあちゃんの姿がなかった。
「あれー、二人どこ行ったんだろ?ハルコ知ってる?」
「ハルコ、ナナセと、ねてる、だから、しらない」
「久しぶりの王都だし早朝のお散歩でも行ったのかなぁ・・・じゃ私は久しぶりにハルコに乗って朝ご飯でも買いに行きますかぁ」
「ナナセ、のる、うれしい、はやくいく」
「あはは、ずっとペリコに乗ってたもんねー。それじゃあぁーー・・・」
「いーぐるわん、ていくおふ!」
「ぐわっ!」
コンビニの建物は調理できる場所がショボいので、久しぶりに学園の近くのパニーニ屋さんとクレープ屋さんがあるところへハルコに乗って飛んでいった。目の前の芝生の公園にバサバサと降り立つと、みち行く人がすごい驚いた顔で見ていた。でも私の姿を確認すると「あー、ナナセか」みたいな感じで日常へと戻っていった。
「あはは、やっぱハルコは魔物だと思われちゃうねぇ」
「ハルコ、もう、わるいこと、しない、よ」
「うんうん、信じてるよ」
パニーニとクレープを何個か買って、さっそく芝生の上でちぎってみんなで一口づつ食べてから残りはおみやげで持って帰ってきた。すると、アデレちゃんとベルおばあちゃんもコンビニの建物に帰ってきていたようで、そこにはセバスさんも一緒に来ていた。
セバスさんは、いつものビシッとした感じからほど遠く、年相応のおじいちゃんといった雰囲気で、なんとも力なく椅子にちいさくなって座っていた。すでにアデレちゃんが事情聴取的なことをしちゃったのだろうか?なんだか二人とも元気がない。
「ただいまー、朝ご飯買ってきたよー」
「お姉さま・・・おかえりなさいですの・・・」
セバスさんには聞かなきゃならないことが山ほどあるけど、こんなに生気を抜かれたようなおじいちゃんにズケズケと昔の話を聞くわけにはいかないよね・・・困ったな、アデレちゃん何話したんだろ。
「セバスさんお久しぶりです、色々と事情があって王宮の部屋に帰宅できなかったんです、ごめんなさい。どこまでセバスさんがその事情を知っているのかわかりませんが、ずいぶんとお疲れみたいですけど誰かになんか嫌なこととか言われちゃったんですか?」
「ナナセ様・・・ナナセ様・・・私は合わせる顔がござりませぬ・・・」
「お姉さま、実は昨晩、あたくしお風呂だけ入らせてもらおうと思い、ベル様と一緒に王宮のお姉さまのお部屋へ戻ったのですけれど、そこに国王陛下とマセッタ様とケンモッカおじい様がいらしていましたの」
「ありゃ、じゃあ昨日の会議の内容はほとんど聞いてるってことかな」
「あたくしは国王陛下のお邪魔にならないよう、すぐにこちらに戻ろうとしたのですけれど、マセッタ様に同席するよう言われてしまい、結局、朝までずっとお話をしていましたの・・・」
「えー、じゃあみんな寝てないの?」
「鐘一つ分くらいは眠りましたわ。国王陛下とマセッタ様も各自の部屋へ戻られるとおっしゃっていましたの」
これはブルネリオ王様に先手を取られてしまったのかな?いやいや、マセッタ様が一緒だったなら私が不利になるようなことは話してないかな?でもなんか、根掘り葉掘り聞き出せる感じじゃないなぁ。
「セバスさん、なんか元気がなさすぎるんで私が治癒魔法をかけてあげますね、いつもみたいに毅然としたセバスさんに戻って下さい」
「かたじけない・・・」
なんだか言葉遣いまでおじいちゃんチックになってしまったセバスさんの横に座って手を優しく握ると、暖かい光でふわりと包んであげる。するとアデレちゃんもセバスさんの逆側に座り、手を握って何かを念じ始めた。
「アレクおじい様・・・元気だして下さいますの・・・」
「アデレちゃん、アレクおじい様って呼ぶことにしたのっ?」
「あたくしには素敵なおじい様が二人もいてお得ですの・・・」
いつものキレは無いが前向きなアデレちゃんは、どうやら昨晩セバスさんのことが本物のおじい様であると確定するような会話がなされたようで、正真正銘の孫としてセバスさんに寄り添った。
すると、ちっちゃな光がアデレちゃんの手に発生する。
その優しい光はセバスさんの手から吸い込まれ、逆の手を握っている私にまで暖かさが伝わってきて、とても優しい気持ちになった。
「わぁ、アデレちゃんも私たちの光が使えるようになっちゃったねぇ。なんだか私まで穏やかな気持ちになってきたよ・・・」
「なんと、なんと暖かい・・・ナナセ様、アデレード様、こんな老いぼれに神のような慈悲を下さり感謝の念に耐えませぬ・・・」
両サイドからセバスさんを暖かい光で包んでいると、ベルおばあちゃんがどこからともなくほわほわと飛んでやってきた。
「ナナセもアデレードもアレクシスが本当に大切なんじゃのぉ、二人ともすごい量の魔子が感情に絡みついて、まるで魔子が喜んで踊っているように反応しておるのじゃ。アレクシスや、こんな可愛い娘っ子二人に、ここまでされても元気を出さないようじゃ年長者として、何より男としての面目が立たないのじゃよ」
私には魔子が見えない。剣や手に集まってくるような感覚はなんとなくわかるけど、魔法を放った先までは感じ取れない。ベルおばあちゃんはそういうのわかるから教えてくれたのだろうか。
もしかしたら、いつもと魔法の効果は一緒なのに、ショボくれたセバスさんを元気づけるために言ってくれてるのかもしれない。
なんかありがと、ベルおばあちゃん。
「ベル様、そのとおりでございます。こんなにも可憐な少女二人が、多くの民のために頑張っておられるのに、私は・・・」
「そうじゃのぉ、この二人だけではないのじゃ。ケネスもブルネリオもマセッタも、みなアレクシスのことを心底心配しておったのじゃ。わしゃおぬしが羨ましいのじゃよ」
ここでようやく、肩を落としてしょぼくれていたせバスさんがゆっくりと顔を上げ、私の方を向いてくれた。
「ナナセ様・・・ナナセ様はすでにすべてお見通しかと思いますが、私の口から申し上げようと思いまする」
かなり重たい話になりそうだ。
あとがき
マセッタ様のあっけらかんとした雰囲気から一転して、しばらく真面目なお話になってしまいそうです。
セバスさん、根が真面目なので思いつめちゃってます。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます