6の10 色々おさらい



※このお話は過去の前国王暗殺事件をひたすら振り返りながら確認する内容になっています。アニメの総集編みたいな感じだと思って読んで頂けると嬉しいです。



「もう大丈夫、なんか急にわーってなっちゃいました」


「ナナセもまだまだ子供なのじゃよ。あまり抱え込むでないぞえ」


「うん・・・」


 私は一人で抱え込んでいたのだろうか?ブルネリオ王様の依頼とはいえ、他人に相談できないことが増えてきて、このままではパンクしてしまうのだろうか?


「私、信用できる人が周りにいっぱいいるのにさ、これは言っちゃいけないとか、これは自分で解決するとか、そういうのがどんどん増えてるのに、誰にも相談とかできなくなってきちゃったんだよね」


「アルテミスに何でも相談するべきではないかのぉ?」


「ううん、アルテ様は聞いてくれるだけだよ。それにね、色々と話すとね、心配しすぎて泣いちゃうから言えないの」


「確かにそうじゃのぉ・・・アルテミスも子供みないなところがあるのじゃ。わしもこの世界のことは何も知らぬ子供みたいなものじゃが、ナナセが楽になるなら話してみなされ。わしゃ心配したとしても泣いちゃったりはせんのじゃよ」


「そうだね・・・ありがとうベルおばあちゃん。なんか安心したら落ち着いてきたから、飛びながら話そっか」


 私はベルおばあちゃんにヴァルガリオ前国王暗殺事件の話を頭の中でゆっくりと整理しながら話す。途中でアデレちゃんが家出したり、タル&マス=クリス事件があったり、お寿司屋さん作りに没頭したり、最後はバルバレスカとレオゴメス逮捕があったりと、集中して考えている暇がなったことに気付いた。


「まず、狩りに遊びに行っていたヴァルガリオ前国王と宮廷魔道士の二人を殺害した犯人は黒尽くめの三人組だったの。一人はサッシカイオ専属の護衛兵だったみたいで、その場でアンドレさんに斬り倒されちゃったから証言とか聞けてないの。残りのうちの一人はアンドレさんの背後で魔子を動かしていたみたいでね、それに気を取られて最初の一歩が遅れたんだって」


「なるほどのぉ、アンドレッティほどの剣の達人の気を引くとは、なかなか上手いことをしたもんじゃのぉ」


「うん。それでそのスキをついてヴァルガリオ前国王はやられちゃったんだけど、結局二人の黒尽くめに逃げられちゃったんだって。私はベールチアさんっていうアンドレさんと同じくらいの実力の、すっごい強いサッシカイオの護衛侍女を疑ったんだけどね、なんかサッシカイオと一緒に王宮にいたっていう目撃証言があるの」


「ベールチアとやらの実力はアデレードから話を聞いておるし、アルテミスからはナナセと一緒に襲撃されたことがあるという話を聞いておるぞえ。重力魔法で二本の大きな剣を振り回すとかなんとか。アデレードが目指しておる戦い方なんじゃろ?」


「そうそう。なんかね、アレデちゃんも同じ剣の道場に通ってたんだって。当時は王国最強の護衛侍女って言われていて、アデレちゃんくらいの歳の子はみんなベールチアさんに憧れてるみたい」


「なるほどのぉ、ベールチアが魔子を操作した犯人のようにも感じるがの。王宮でサッシカイオとやらと一緒にいたのを目撃した者が嘘を言っておるのではないか?」


「おお!盲点でした。その目撃情報自体を信用せずに疑わなきゃいけないんだね・・・探偵失格だなぁ、私」


「アンドレッティのスキを突くなぞ、そうそうできることではないのじゃよ、今のナナセでもできんじゃろ。そうなると相手は限られてくるのじゃ。後で当時の関係者に聞いてみるといいのじゃよ」


「そうだね、そうします。それで、ここから先がブルネリオ王様との内緒話を含むから誰にも言わないで欲しいんだけど、サッシカイオってブルネリオ王様の本当の子供じゃないらしいんだ。バルバレスカと“他の誰か”との間に生まれた子らしくて、そんなこと王国民に知られるわけにいかないから黙ってるみたいなの」


「ほうほう、ナナセはそれを言えずに一人で悩んでおったのじゃな」


「うん。その話を聞いた時に、ブルネリオ王様に“他の誰か”を見つけてくれっていう個人的な依頼を受けたんだけどね、ブルネリオ王様は直接名前こそ挙げなかったけどサッシカイオの本当の父親はたぶんレオゴメスだと思うの」


「バルバレスカとレオゴメスはどうしてそこまで仲が良いのかのぉ」


「それアデレちゃんにも聞いたことがあるんだけどね、同じ時期に商人の繋がりがあったり、学園にも一緒に通ってたっぽいんだよね。アデレード商会が嫌がらせを受けたり、アデレちゃんが家出しちゃったりしたのは、たぶん私がベルおばあちゃんの歓迎食事会のあとにバルバレスカをボロッカス言ったからだと思う」


「あの時のバルバレスカの態度は誰の目から見ても悪かったのじゃ」


「あはは、そう言ってもらえると助かるよ。他にサッシカイオの父親が違うって知ってるっぽい人はオルネライオ様と、あとは確かめたわけじゃないけどマセッタ様だけだと思う。それでね、前国王暗殺事件はバルバレスカが裏で糸を引いてるんじゃないかって思ってるみたいでね、オルネライオ様よりもサッシカイオの方を可愛がっていて、なんとか皇太子にしようとしてたみたいなんだよね」


「それでは王様を殺してしもうたら、オルネライオが新しい国王になってしまうじゃろ?無意味なのじゃよ」


「慣例に従うと、オルネライオ様はまだ若かったから他の年配の王族に繋ぎの王様をやってもらって、その後に正式にオルネライオ様に継がせようとしたみたい。でも結局、ヴァルガリオ前国王の長男のブルネリオ様が継いだの。なんかね、王国は年功序列とか継承順位とかじゃなくて、実力主義みたいな感じで次の王様が決まるんだって。悪いこととは思わないけど、それが余計に事態をややこしくしてるんだよねぇ・・・実力主義は正しいシステムとも思うけどさ、なんかの間違いでサッシカイオが王様になっちゃってたらって考えると・・・」


「なるほどの、その繋ぎの王様候補がゼル村の村長なのじゃな」


「そうそう、結局チェルバリオ村長さんはそんな気がまったく無かったから実現しなかったんだけどね。それで、サッシカイオに王位を継がせたいバルバレスカが殺すべき相手は、ヴァルガリオ前国王じゃなくてライバルのオルネライオ様にするべきだったんじゃないかなって思うんだけど、もしそれをしちゃったら絶対にサッシカイオが疑われるからできなかったって言ってた。それほどオルネライオ様とサッシカイオの後継者争いは王国民中でも有名な話だったんだって」


「そりゃオルネライオは曲がりなりにもバルバレスカの生んだ子なのじゃろ。いくらバルバレスカがおかしな娘であっても、そこまではせんのじゃ。それにしても腑に落ちんのぉ、なぜバルバレスカはヴァルガリオとやらを殺したのじゃ?これでは誰も得をしておらんのじゃよ」


「それは次期国王候補でも何でもなかった旦那さんを国王にしたかったからじゃないかって言われてるの。実際に王妃殿下という身分を手に入れて王宮で好き放題やってたみたいだしね」


「ふーむ、それだけで危険を犯してまで一国の王様を殺すかのぉ?個人的な恨みもあったかもしれんのじゃよ」


「・・・確かにそうだよね、なんか動機が弱いって思ってたんだけど、まだ気付けていない情報があるかもしれないや。例えば・・・例えば・・・えっと・・・」


 私はバルバレスカが個人的な恨みを持つ原因を考えた。もしかしたら本当はレオゴメスと結婚したかったけど、愛し合う二人は引き離されて、ブルネリオ王様と無理やり結婚させられたのだろうか?


「そういえばブルネリオ王様が『お互いが望んで結ばれたわけではありません』って言ってたっけ。商人の娘だったバルバレスカが政略結婚みたいな感じで、当時行商隊だったブルネリオ王様に嫁いで行ったとか・・・」


「それを根に持っていたという線はありえるのぉ。母親のアルレスカ=ステラとやらから譲り受けた食器を割られたくらいで死刑にすると騒ぐような娘じゃろ?積年の恨みを晴らしたのかもしれんのじゃ」


「恨みかぁ・・・そういえばセバスさんが前にイグラシアン皇国の人は仲間意識が強くて他を嫌うって言ってたなぁ。考えてみたらタル=クリスも自分の奥さんを命がけでかばおうとしていたし。もしかしたら、そういう血気盛んで殺伐とした国民性みたいなのもあるかもね」


「王都に戻ったらイグラシアン皇国についてもっと詳しく調べるのじゃよ。ひとまずセバスチャンに詳しく聞くといいのぉ。ありゃナナセもアデレードも本物の孫のように可愛がっておるし、年代的にアルレスカ=ステラとやらのことも知っているかもしれんのじゃ」


「確かに。一番聞きやすいのはセバスさんだもんね」


「わしもできる限り協力するのじゃよ。まずはアデレードを危険から遠ざけることじゃな。それと、もし王都で不安定になってしもうたら、ナゼルの町まですっ飛んできてナナセとアルテミスに預けるのじゃよ」


「うん、ベルおばあちゃんの危険察知ソナーに期待してるよっ!」


 のんびりと空を飛び、優しく相槌を打ちながら聞いてくれるベルおばあちゃんに色々と話すことで、私の頭の中でぐちゃぐちゃになっていた情報を整理することができた。いいアドバイスもたくさん貰えたし、王都に戻ってからは捜査がちょっと進展するかな?



 かれこれ六時間くらい飛んだだろうか?途中でのんびりとした休憩を二回もしてしまったので、すでに辺りは暗くなってきた。上空から見た景色とガリアリーノさんの海図を見比べると、おそらく目的地までの半分以上は進めたと思う。あいかわらず海岸線に沿って進んでいるのでだいぶ遠回りかもしれないが、内陸を突っ切って進むと万が一魔子が薄い所に突入してしまったときに逃げ場がなくなるかもしれないのでこれでいいだろう。


「ここなら綺麗な川があるから野営できそうだね」


「そうじゃのぉ。それにしても、ここに来るまで町が一つもなかったのじゃよ。小さな国というより、人が住んでおらん国じゃな」


「だよねー、この国に光の紡ぎ手なんて本当に住んでるのかなぁ?ベルおばあちゃんの住んでた山頂カルデラ湖よりも、さらに秘境だったら簡単には見つけられないよね」


「わしゃそういう風に見ておらんから、たぶん見つかるじゃろ」


「あはは、なんか安心感がすごいです」


 私はさっそく食事の準備にかかる。お気に入りのダッジオーブンに、フランジェリカさんから分けてもらった、とうもろこしの粉にふくらませる粉を入れてパンを作る。おかずが無いので砂糖を多めに入れて、菓子パンみたいになることを願う。


「ありゃー、水入れすぎちゃったかな。これじゃベチョベチョだから別にもう一つ作ってみよう」


「ナナセが料理を失敗するなんぞ珍しいのじゃ」


「いやあ、こういう作り方が謎な料理って実は何度も失敗してるんだよね。私がいた前の世界では分量とかちょっと調べればすぐわかったから、誰も覚えようとしないんだ」


「じゃが、甘い香りがしてきて美味しそうなのじゃよ」


「食べられないってことはないと思うからもう少し待っててね」


 私たちはとうもろこしパンを発酵させている間に果実を拾うために近くの林へ向かうと、そこは人が入り込んでいないせいか色々な果実を取り放題だった。必要な分だけ摘み取り、アンジェちゃんから教えてもらった「ありがとうございましたー!」を元気に叫んでから戻った。


 とうもろこしパンは結局、先に出来たのはポレンタみたいなやつで、次に出来たのはカレーのナンみたいなやつだった。残念。

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