6の9 海外旅行



 二人の結婚式を行うべく、さっそく持参した羊皮紙と、ソラ君とティナちゃんから貰った万年筆を取り出して婚姻証明書を作る。私は字があまり上手くないので、慎重に丁寧に、ゆっくりと心を込めて書いた。その紙にガリアリーノさんとフランジェリカさんにサインを書いてもらい、一番下に私の名前を書いて完成だ。


 そしてリアンナ様から預かっていたロザリオを首から外して手に持ち二人に問いかける。まさかこんな形でロザリオを使うとは夢にも思っていなかったけど、なんか牧師さんっぽく格好ついて良かった。


「ガリアリーノとフランジェリカは、いい時も悪い時も、富める時も貧しい時も、健康な時も病気の時も、共に歩み、死が二人に訪れるまで愛を誓い合うことを、婚姻の契約のもとに誓いますか?」


「「誓います!」」


「それでは誓いの口づけを・・・」


 二人は、とても幸せそうな顔でキッスをした。


「私からも祝福の光を贈りたいと思いますっ!お二人の愛が永遠に続くことを祈ってっ!」


 私は背中の剣をおもむろに抜き、全力全開で魔子を集めて『えいっ!』と振り抜く。巨大な暖かい光が発生し、驚くほどの祝福の輝きが新郎新婦を包み込んだ。なんだか手順とかお作法を間違っているような気もするが、ここにいる誰も正しいやり方を知らないのでしょうがない。これはナナセ流の結婚式だ。


「ああ、なんと暖かい光だ・・・ナナセ様は神の使いなのでしょうか?」


「あはは、どうなんでしょ?」


「とにかくおめでたいのじゃよ!あらためて乾杯なのじゃよ!」


「そうですね、じゃあ二人の門出を祝してカンパーイ!」


「「「カンパーイ!」」」「ぐわーっ!」


 私はこの時、生まれて初めてお酒をチビッと飲んだ。


 その後はしばらく二人の馴れ初めや、この港にやってきてからのことを話していた。フランジェリカさんの言っていたように、出会った頃の新鮮な気持ちになってこれからの人生を過ごしていこうと語り合う二人を、私とベルおばあちゃんは暖かく見守っていた。


 なんだかんだですごく盛り上がり、夜もずいぶんと更けてしまったので、私はよく手入れされた客人用のお部屋で眠りについた。



「おはようございますナナセ様、ベル様。昨晩は本当にありがとうございました。朝食の用意ができておりますので、どうぞ応接室へいらして下さい」


「フランジェリカさんおはようございます、新婚初夜はどうでしたか?もしかして私たちが泊まっていたからお邪魔でしたか?」


「そっ、そのようなことは・・・あの・・・その・・・」


「冗談ですよっ」


「ほっほっほ、最近ナナセは急におませさんになったのぉ」


「あはは、誰の影響でしょ。でも本当に、次にこの港に遊びに来るときはお二人のお子さんが見れることを楽しみにしていますよっ!」


「ナナセ様のご期待に添えるように、その・・・頑張りますっ!」


 フランジェリカさんとガリアリーノさんは、どちらかと言うとフランジェリカさんの方が積極的そうなので是非とも頑張ってほしい。


「昨晩はとても楽しい夕食となりました。客人などめったに来ない港ですし、王国の現状など知り得ることがなかったので大変有意義に過ごすことができました。それに、俺とフランジェリカを結びつけて下さってありがとうございます、心から感謝しております」


「私も有意義なお話を聞けたので、モルレウ港に立ち寄って良かったです、ありがとうございます。なんかこういのって旅の醍醐味ですね」


 私は朝食をごちそうになり、いよいよ出発の時間になった。二人とは別に、港の住民も何人かお見送りに来てくれた。


「それじゃそろそろ出発しますね」


「俺も時間ができたら、必ずナプレ市とナゼルの町へ旅してみたいと思います。なにせ二十年以上、この土地とグレイス神国の往復しかしていませんから。ナナセ様、またぜひお会いしましょう!」


「新婚旅行ですねっ!ぜひ遊びに来て下さい、歓迎しますよ。あと国王陛下と話すことがあったら、この港を放置しないでもっと優遇するように言っておきます」


「なにからなにまですみません、道中くれぐれもお気をつけ下さい」


「それじゃ神都アスィーナまで行ってきまぁーす!」


「お幸せになのじゃよ!」「ぐわーっ!」


 ガリアリーノさんがだいたいの海図を作ってくれたので、最短距離とまでは行かないが迷うことなく目的地まで行けそうだ。ベルおばあちゃんと私とペリコは、いよいよ東方の大陸グレイス神国を目指して勢いよく飛び立った。さらば王国半島!



「わぁー、上空からだと向こう側の大陸がはっきり見えるねぇー」


 海を渡るのは生まれて初めての経験だ。前世も含めて初めての海外旅行に心を躍らせながら東方の大陸を目指す。


「そんなに遠くもないのじゃな」


「でも、海岸線にたどり着いてからが長い旅になると思うよ」


「陸地がないところを飛ぶのは不安じゃからな」


「ですよね、もし魔子不足になりそうになったらペリコに飛び移るね。あ、でも魔子が足りなくて重力魔法をうまく使えないかな・・・」


「でもまあ海岸までたどり着けば、あとはのんびりと旅を楽しめるのじゃよ。それに海には安定した量の魔子が流れているようじゃから、たぶん大丈夫じゃな」


「怖いのは岩場と砂漠だっけ?」


「行ったことがないのでわからんが、おそらく乾いた地は危険じゃな」


 そんな話をしながらようやく海岸にたどり着いた。海外初上陸に心を踊らせながら砂浜にゆっくり着地すると、かねてから言いたかったセリフの出番だ。


「これわっ!一人の人間にとっては小さな一歩だがっ!人類にとってはっ!偉大な飛躍であるっ!」


「ナナセは大げさじゃのぉ」


「ベルおばあちゃんのおかげですよ、私を海外まで連れて来てくれてありがとっ!」


 砂浜から少し内陸側へ移動して休憩する。モルレウ港からは二~三時間ほど飛んだだろうか?お昼ご飯にはまだ早いのでお茶だけ飲むことにした。ペリコは砂浜で遊んでいるのでほおっておこう。


「私の料理は水をいっぱい使うのが多いから、海岸線ギリギリよりも少し内陸側を飛んで、水の綺麗そうな川とか探したいですね」


「水が綺麗かどうかわかるのかえ?」


「はい、そこは私の眼鏡の出番ですからね。あと一度沸騰させればたぶん大丈夫ですけど」


 私が眼鏡でぬぬぬと見てきた中で、一番危険なのは金属だ。これは沸騰させても残るし、体内に残留したら公害病みたいなのになってしまうかもしれないので注意が必要だ。


 私たちは温かいお茶を一口飲んでホッと一息つくと、ベルおばあちゃんに相談しておきたかったことを伝える。


「ねえベルおばあちゃん、相談があるんだけどね、これはアルテ様にも言ってない内緒のことなんだけどね、アデレちゃんのことなの」


「なんじゃ、王城でブルネリオに呼びたされた後に内緒って言っておった時の話かえ?アルテミスに内緒のことなんぞ光栄じゃのぉ、じゃがわしゃ知ってることが少なすぎるので力になれんのじゃよ。どれ、長くなりそうじゃから飛びながら話すとするかのぉ」


「あはは、あの件は誰かの名誉を傷つけることになると思うので内緒のままです。じゃあ飛びながら話しましょうか」


 私はペリコを呼び戻し、ベルおばあちゃんを赤ちゃん抱っこで装着し、神都アスィーナとやらへ向けて再び飛び上がった。


「それで、ブルネリオ王様のことじゃなくて、シャルロットさんとアデレちゃんのことなんだけどね」


「アデレードの母親じゃな」


「そうなんですけど、実は違うらしいんですよ・・・なんかレオゴメスとは夫婦の関係なんてほとんどなかったらしくて、アデレちゃんはある日突然、レオゴメスがどこかから連れてきた子なんですって。だからお母さんが誰だがわからないし、髪の色が同じだからレオゴメスがお父さんだろうって言ってたけど、それもどうなのか・・・」


「そうじゃのぉ・・・父親はレオゴメスで間違いないのぉ、あの二人の感じはよく似ておる。じゃがシャルロットとアデレードは全然感じが違うのじゃ」


「そっかぁ、ベルおばあちゃんには、そんな風にわかっちゃうんだね。それでね、アデレちゃんもシャルロットさんも、お互い大切な親子だって思い合ってるから血が繋がっていなくても大丈夫だと思うんだけどね、今回のバルバレスカとレオゴメスの一件を調べてるとね、本当のお母さんとかわかっちゃうかもしれないじゃない?」


「確かにバルバレスカと無関係とは思えんのぉ」


「でしょ?だからさ、その事をアデレちゃんが知ったらさ、ショック受けるんじゃないかな?って心配してるの。今はナゼルの町でアルテ様もずっと一緒だからいいんだけど、アデレちゃんが王都に帰っちゃったらまた一人ぼっちになっちゃうでしょ?もしその時に、お母さんが違う人だって知っちゃったらすごく不安定になると思うからさ、だからずっと一緒にいるベルおばあちゃんに助けてもらいたくて」


「父親のレオゴメスと絶縁状態になっておるし、一人娘のアデレードが唯一血の繋がった家族と信じておる母親が実は違うと知ってしもうたらと思うと・・・確かに不憫じゃのぉ」


「うん・・・二刀流も、温度魔法も、学園のお勉強も、あとアデレード商会のことも、あんなに頑張っててね、なのにね、私が現れてレオゴメスと喧嘩しちゃったからね、えぐえぐ、変な風になっちゃったのかもしれないしね、それにシャルロットさんあんなに素敵なお母さんなのにね、血が繋がってないなんてね、えぐえぐ・・・」


「ナナセ落ち着くのじゃ。落ち着く魔法を自分にかけられないのかえ?一度降りるのじゃよ」


「私の光魔法はね、自分にかかんないみたいなの。えぐえぐ」


 アデレちゃんのことをお願いするつもりが、泣き出してしまった私をベルおばあちゃんがなぐさめる展開になってしまった。

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