5の23 逮捕劇(後編)
私はバルバレスカとレオゴメスを並べ、ベルおばあちゃんに目隠しをして後ろを向いてもらう。もともと目が見えてないのであまり意味がないが、なんとなくその方がそれっぽいからだ。
「じゃあ二人で左右どちらか好きな方に移動して下さい」
「こんなの子供騙しですわよ!馬鹿にしているのかしら!」
文句を言いながらも二人はコソコソと相談した後に左右を決めた。
「ベルおばあちゃん、どっちに誰がいる?」
「わしから見て右がバルバレスカじゃのぉ」
当たり前だがベルおばあちゃんがしっかり位置を当てる。
「そんなの信じられるかっ。何かサインでも決めていたんだろう、国王陛下!このような茶番は辞めさせて下さい!」
「ベル様とナナセ、人数を増やして続けなさい。」
ブルネリオ王様の言うとおり、今度は十人くらい並べてみる。ベルおばあちゃんにはどこからともなく運ばれてきた木の箱を被せられた。
「右からブルネリオ、護衛、バルバレスカ、護衛、ナナセ・・・」
ブルネリオ王様が呆れた口調でベルおばあちゃんを制止する。
「もう十分ですね。レオゴメス、昨晩お寿司屋さん近辺の武器屋の地下へ三人で集合し、バルバレスカに変装させた何者かを王城に侵入させ、タル=クリスの逃亡の手引きをさせたことを認めますか?」
「認められるわけないじゃありませんかっ!バルバレスカ様は仮にも王妃ですぞ、そのように王国に害をなす理由が全くありません。それに武器屋へ集合してたと言われましても、こういった件は現行犯逮捕が原則ではありませんかっ!」
「そうですわ!アタクシ達には動機がなくってよ!」
確かに動機がよくわからないままだが、あまりにも苦しい言い訳をしているレオゴメスにだんだんイライラしてきた。
「だいたい国王陛下はなぜこの小娘の言葉を信用されるのですか!古くからの付き合いがある私の言葉よりも、こんなチェルバリオ様を騙して成り上がったような小娘を重用する理由がわかりません!」
「サッシカイオだってこの小娘がいなければおかしくなることなどありませんでしたわ!ブルネリオ、このアタクシの言葉と小娘の言葉のどちらが信用できるか冷静になって考えなさい!」
「私は常に冷静ですよ、取り乱しておられるのはあなた方です。あなた方お二人よりもナナセの言葉の方がはるかに信用できることはこの場にいる全員が思っていることですよ。」
「恩を仇で返すというのかっ!この私がいなければこの国の商・・・」
見苦しいにもほどがあるので私は一歩前に出て口を挟む。
「レオゴメス、さすがに見苦・・・」
「みっとも恥ずかしいっ!いい加減になさいますのっ!」
── バチーン! ──
私が一歩前に出てレオゴメスの前に立とうとしたその横からアデレちゃんが身体をグイっと割り込ませ、思いっきりビンタをした。その場にいた全員が目を見開き、あんぐりと口を開ける。もちろん私もだ。
「ヘンリー商会のやっていることなどアデレード商会の邪魔だけですわ!これ以上娘であるあたくしに恥をかかせないで下さいますの!いいえ、あたくしはもうあなたの娘などと思っておりませんわ!」
── バッチーン!! ──
怒鳴りつけるアデレちゃんの逆の手から、おかわりもう一杯が炸裂した。全員がその光景に言葉を失い、ただ驚いた顔をしているが一番驚いているのはレオゴメスのようだった。これで観念したかな?と思いチラリと横を見ると、バルバレスカの目が赤く濁り、噛みしめた唇からは血が流れ出し「フーッ!フーッ!」と獣のような呼吸をしていた。
非常にヤバい、これは悪魔化の兆候だ!
「小娘どもがぁあ!アデレードぉお!おまえなどぉお!レオゴメスの子などとゎあぁ!!認めぬのどぅをぁあああ!!!」
まず木の箱の中に閉じ込められているベルおばあちゃんが何か危険を察知して声を上げた。
「ナナセ!危険なのじゃ!」
そして私は気絶させるべく剣に電撃をまとわせてバルバレスカの方に急いで回り込もうとするが、イスが邪魔して遠回りになる。
「アデレちゃん離れてっ!」
「そうはさせませんのっ!そりゃあっ!」
── スッパーン!!! ──
私が電撃剣をえいっ!と振るより早く、軽快にステップしたアデレちゃん渾身のハイキックがバルバレスカのアゴを綺麗に打ち抜いた。バルバレスカはその場に膝からガクリと落ちたが、アデレちゃんは追撃を加えようとさらに飛び掛かる。
「アデレちゃんもう十分だよ!落ち着いてっ!」
興奮状態になっているアデレちゃんを止めるべく駆け寄って肩を抱き、暖かい光で包み込むと少し落ち着きを取り戻してくれた。
「ナナセや!まだ危険なのじゃよ!」
「ぬおおー!ご覚悟おおおおおっ!」
「えっ?えっ?」
・・・剣での戦闘には圧倒的に重力魔法が向いている。体を軽くできるし結界で剣の攻撃を多少は逸らすこともできる。効果範囲内に入れば抑えつけることも逆さ釣りにすることもできる。しかし私はアデレちゃんを落ち着かせるために光魔法に集中していたこともあり、すぐ目の前の護衛が私たちに向かって剣を振りかぶっていることに気づいた時にはもう遅かった。慌てて魔法を切り替えて防御の対応することなどできず全身に緊張が走り、私はその場で何もできずに固まってしまった。もう駄目だ、斬られちゃう、アデレちゃんを守らなきゃ、このままアデレちゃんを抱きしめていれば私だけが・・・
── ザシュっ! ──
「ナナセ様っ!ぐあああっ!!・・・ナナセ、さ、ま・・・」
アデレちゃんをかばっている私を、さらにかばうようにアルメオさんが護衛の攻撃に身体を割り込ませ身を挺して守ってくれた。何かの温度魔法を使いつつ私を背後から抱きしめるアルメオさんの暖かさを感じたと同時に背中がざっくりと切り裂かれ、大量の血が床に流れ出した。
「いやあああああ!!アルメオさんーーー!!!」
私はすぐにアデレちゃんを包んでいる光魔法を解除し、怒りに任せた重力結界全開で髪を逆立てながら飛び上がり、アルメオさんを斬った護衛の剣を持っている方の腕を豆腐のようにさっくりと切断した。腕がボトリとその場に落ちると同時に手放された剣を遠くへ蹴飛ばす。
さらに、床でうずくまって腕を抑えている護衛を重力魔法で空中に逆さづりにすると、レオゴメスに向かってえいやあっ!と放り投げた。
「あんたたちっ!覚悟しなさいっ!」
次は気絶したままのバルバレスカを持ち上げレオゴメスと護衛のところへ放り投げてから自分の重力魔法を解除し、周りで恐れおののいている文官や侍女数名を蹴飛ばしで遠ざけ、折り重なっている罪人三人に向かって渾身の電撃魔法をお見舞いして気絶させ、周りにいる護衛たちに向かって王族然とした態度で剣を掲げて命令する。
「そこの護衛!ぼさっとしてないで早く捕縛しなさい!バルバレスカは悪魔化する可能性があるので縄だけでなく針金で巻き付けなさい!」
「「ははっ!」」
この場所にはアンドレおじさんもいないし、ボルボルト先生もまだ来ていないし、アルメオさんは斬られて倒れている。ブルネリオ王様は最重要護衛対象なのですでに離れた場所に退避しているし、なにより元行商隊の人がこういった場面に慣れているとは思えない。ここは私が仕切って良い場面と言えるはずなので引き続き指示を出す。
「そっちの護衛はベルおばあちゃんを箱から出して!そっちの護衛はバルバレスカ関係の護衛と侍女を全員一か所に集めて捕縛監視!」
「「「はっ!ナナセ閣下っ!」」」
その他の侍女や文官はガクブルしながら遠くに離れていった。いつしかセバスさんが言っていたように、ブルネリオ王様の側近が戦いやすいように重要護衛対象から距離を取ったのだろう。あまり賛成できない行為だが、とりあえず最悪の危機は回避できたかな?
私は他にも一通り指示を出すとアルメオさんに駆け寄り、必死で治癒魔法をかける。私をかばって斬られたその背中の傷はかなり深くえぐられ骨まで達しており、意識が朦朧としているようだった。
「アルメオさんっ!アルメオさんっ!!えいっ!えいっ!なんで血が止まらないのっ!?えいっ!えいっ!」
「ナナセ様・・・ご無事で・・・なにより・・・です・・・」
「しゃべらないでっ!アルメオさんっ!私が助けてあげるからっ!必ずっ!必ずっ!えいっ!えいっ!」
私の稚拙な治癒魔法ではアルメオさんの深くえぐられた傷をふさぎ切れないようなので、治癒魔法をあきらめて暖かい光で全力で包むことにする。なぜ私はもっと治癒魔法を練習しておかなかったのだろうか?土を育てるのなんてどうでもいいから、もっと人体の構造とかを勉強しておけばよかったのに。そうすれば村長さんだってもっと長生きできたかもしれない。ルナ君が斬られた時だって、たくさん血が出ちゃってたのに何もしてあげられなかった。
色々な想いが交錯し、暖かい光が暴走する。私は涙をにじませながら血まみれのアルメオさんを強く抱きしめ続ける。謁見の間が光にあふれ、周りが何も見えなくなるくらいに私とアルメオさんが輝く。
「ごめんなさいアルメオさん、ひっく、私これ以上のことができないの・・・ひっく」
「・・・ナナセ様・・・オレ・・・生まれ変わったら・・・ナナセ様の・・・」
強烈な光を浴びて一度目を覚ましたアルメオさんがまた気を失う。なんかフラグっぽいセリフが聞こえたが絶対に回収させたくない。
「ナナセも落ち着くのじゃ、傷はふさがったようじゃよ」
「でもっ!でもっ!なんかまた気絶しちゃったしっ!ひっく、血がこんなにたくさん出ちゃったしっ!ひっく」
「ふむむん・・・これは毒かもしれんのぉ。困ったのぉ・・・」
「ひっく、あの剣には毒が・・・って、それならいいお薬持ってますっ!」
眼鏡にむぐぐと力を入れてアルメオさんを凝視する。ベルおばあちゃんの言った通り、なんかよくわからない菌が入ってしまっているようで治癒魔法をかければかけるほど菌が元気になってしまうかもしれない。私はゴブレット用に買った抗生物質と思われる薬をバスケットから取り出しアルメオさんの口に押し込むが、気を失っているので当然飲んでくれない。この世界には注射器なんてなさそうだし、なんとか口から飲み込ませなければならないんだけど・・・
私は腰にかけたひょうたんの紅茶をくぴりと口に含み、アルメオさんの首を優しく抱き起こし、口移しでゆっくりゆっくり飲ませることにした。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます