3の10 お説教




「ナナセ様はお優しいのですね、あの二人を庇われているのでしょうけれども、これはセバス様の最後の仕事でございます、どうぞ見守っていて下さいまし」


 そっか、私の住居にセバスさんとロベルタさんが来るし、ティナちゃんとソラ君も学園に通い始めるから何かを教えるのはこれで最後になるかもしれないんだ。


「そっか、そうですよね。お邪魔はしないよう気を付けます」


 この住居、いや、屋敷はとても立派だ。庭付き二階建ての建物で、ぱっと見たかぎり一階に部屋が二つと厨房らしきところ、二階に六つくらいのドアがある。私とルナ君とセバスさんとロベルタさんが住むとしても、かなり部屋が余りそうだ。


 ロベルタさんについて行くと、セバスさんは二階の端の部屋で二人に向かって何をしていたか聞いていた。


「それでナナセ様からクレープをご馳走して頂いたと?」


「はいっ、私は一度お断りしたのですが、実際に食べて毒見をしてもらったのと、私たちが食べなければお連れの狼に食べさせてしまうと言われたので頂きました」


「そうですか・・・お味はいかがでしたか?」


「あのね!みんなで芝生の上で食べたら、すごーく美味しかったんだよ!シンくんも一緒に喜んで食べてたんだ!」


「シンくんとはナナセ様の愛玩動物の狼ですね?そのような危険な獣には近づかないように教えたはずです。」


 一緒にお説教されに来たつもりが、シンくんを危険な獣と言われてしまったことに我慢できず口をはさんでしまう。


「しっシンくんは危険なんかじゃありませんっ!」


「ナナセ様もいらっしゃったのですか、これは失礼いたしました。しかしこの二人は仮にも王族です、絶対に何か危険があってはならないにもかかわらず、護衛もなく街へ出かけたのです。」


「そうですね、口をはさんでしまってごめんなさいです」


 私はティナちゃんとソラ君の横に並び、一緒になってこうべを垂れる。お風呂に行かず私についてきたルナ君もなぜか一緒に並んでこうべを垂れている。


「二人がクレープをご馳走になったのはわかりました。その後はどうしたのですか?」


「はいっ、学園と神殿を案内した後、商業地区へ行ってアクセサリ屋さんで買い物をしました。私が今している髪留めと、ソライオがしているブレスレットはナナセとお揃いなんです」


「二人はお金を持っていたのですか?まさか王族であることを笠に、アクセサリ屋に商品を譲らせたわけではありませんね?」


「いえ・・・こちらもナナセに買って頂きました・・・」


「ナナセ様はこのような宝石入りのアクセサリをいくつも買えるほどの大金を持ち歩いていらっしゃるのですか?危険では?」


「あっあの・・・ごめんなさい。お金はシンくんに持たせているので、私が持つよりは安全です。それにシンくんは実は獣ではなく神族でなおかつ私の眷属なんです。言葉を理解してくれるし、私の命を何度も守ってくれています。あまり他の方には言ってほしくありませんが・・・」


 こんなこと言っていいのかわからなかったが、セバスさんの中でシンくんの株が低いことがどうしても我慢できなかった。それにこれから一緒に住むわけだし、べつに知られてもいいよね。


「なんと・・・ナナセ様は不思議な方だと国王陛下から伺っておりましたが、そのような特別な愛玩動物なのであれば信用できるかもしれません。大変失礼いたしました。」


「シンくんはすごく頭がいいし優しいんだよ!僕を乗せて西の門まで護衛を呼びに行ったときも、僕が落ちないように気をつけて走ってくれていたんだ!」


「ソライオはまだ馬にも上手く乗れないのに、シンくん様には上手く乗れたと?わかりました・・・次は護衛から報告を受けましたが、強盗に襲われたという話ですが。」


「はい、アクセサリ屋を出てから何件かお店を回り、日も落ちてきたので王宮への帰り道で三人組の強盗に囲まれてしまいました」


「当たり前です!大人でもそうそう買えないようなアクセサリを子供三人が買って身につけてお店から出てくれば狙われるに決まっています!そんなこともわからないのですかっ!!」


「「「ヒッ、ごめんなさい・・・」」」


 おっしゃる通りだ。ただでさえ私は眼鏡のガラスが高級品なのでアルテ様にさらわれる可能性があると言われていた。少しばかり魔法で戦えるようになったからと言って、気を抜いていたかもしれない。ましてや王子様と王女様を連れていたのだ。王宮につくまで宝石を隠していた方が良かっただろう。


「セバスさん、それは私の判断が甘かったことが原因だと思います、この二人を責めないで下さい。私が二人の立場を知っていたにもかかわらず、お揃いのアクセサリを付けていることに浮かれて考えが及びませんでした。ごめんなさい・・・」


「・・・ナナセ様、とてもよくできた謝罪のお言葉でございます。そのようなお考えができるのであれば、そうなる前に軽率な行動をとらぬよう考えて頂きたいとは思いますが、結果としてナナセ様がティナネーラとソライオを強盗から守って下さったのですよね?それに関してはお礼申し上げます。」


「はい、実は私、強盗に襲われるのは今回で三回目でして・・・もう慣れていると言うかなんというか・・・」


 私がナプレの港町で三人衆に襲われたことや、サッシカイオご一行の襲撃を受けた時のことを詳細に説明した。


「ナナセ、ベールチア様から逃げたのではなくて撃退したのですか?でもさきほどの戦いを見てたら納得できますよね・・・」


 あそっか、ティナちゃんはベールチアさんに憧れていて、この話はなるべくごまかすつもりだったんだっけ。忘れてた。


「ベールチア様と互角に剣を交えたという話は国王陛下から聞いておりましたが、大人の罪人三人に囲まれても毎回毎回突破して捕縛してしまう子供はこの王国中を探してもナナセ様だけなのでは。本当に驚かされますね貴女には。」


「い、いえ、仲間が一緒に戦ってくれたからです。今日もシンくんがナイフを持った男の動きを完全に止めてくれたから、私は他の二人と安心して対峙することができたんです。私一人では何もできないです・・・」


「ともあれ三人とも怪我もなく無事だったのは何よりです。ナナセ様にお守り頂いたことには感謝いたします。しかしティナネーラとソライオは、私とロベルタが国王陛下に呼ばれている隙に王宮から抜け出したのは見過ごすわけには行きません。わかっていますね?」


「「はい・・・」」


 なるほど、きっと私の住居に行くよう命令をされている隙をついて逃げ出したんだね。やっぱり私が原因な気がしてきた。


「ティナネーラとソライオは来週から学園に通うのです。私とロベルタは今日からナナセ様の身の回りのお世話をするよう国王陛下からご指示を頂いています。あなた方に付いて色々なことを教えて差し上げられるのも今日までだったのですよ。最後のあなた方の行動は、私にはとても残念で寂しく感じてしまうのは理解してもらえますか?」


「今日までだなんて思わなかったのです。ごめんなさい・・・」


「ロベルタも何か言う事はありますか?」


「はいセバス様、ありがとうございます。ティナネーラ、貴女はやんちゃなソライオをとても大切に思い、これから先、場合によっては国王になるかもしれない彼を守って差し上げようと努力している姿をわたくしはずっと見てまいりました。今日のような軽率な行動をとるような子だとは思っていなかったので非常に残念です」


「はい、今後は気を付けます・・・」


「ソライオ、貴方は国王になるかもしれない立場にあることは理解していますね?」


「はい」


「国王は城を抜け出したりクレープを買い食いしたりしません。わたくしたちの教育が厳しかったこともあるかもしれませんが、これからは学園という“外の世界”へ王族としての立場を持って通わなければなりません。周りの人から常に“見られている”という意識を持って下さい。貴方のその明るさは国民をひきつけ、国民を幸せにすることができます。そのことを忘れないで下さい」


「はい、今後は意識を高く持って行動します・・・」


 そうだよね、次の王様はどんな人だろう?ってみんな興味津々でソラ君を見てるよね。いくら伊達眼鏡とか村人の服で変装していたとしても、買い食いはまずかったのかな。それに、この先はオルネライオ様と比べられたりしてしまうと思うと少し可哀想だ。サッシカイオはそれでおかしくなっちゃったんだもんね。


「それとナナセ様。」


「はっ、はひ!」


 ヤバい、私も重たいお言葉を頂戴するのかしら・・・


「二人のお友達になって下さってありがとうございます。王宮内で窮屈な生活を強いられていた二人です、きっと今日はとても充実した時間を過ごせたのでしょう。これから学園に通われても、今日と同じよう、お友達として接してあげて下さいまし」


「もちろんですっ!二人は私にとっても王都で初めてできた大切なお友達ですっ!」


 ロベルタさんはうんうんとうなずきながら、先ほどまでの険しい表情は消え、とても優しい顔になった。良かった。


 こっぴどく叱られるという感じではなかったので安心していたら、セバスさんが険しい顔で口を開いた。


「ティナネーラとソライオ、この際なのでナナセ様もです。この国では罪を犯したら必ず償うのが決めごとです。三人には明日朝から昼まで文字の書き取りを、夕方から夜まで算術の問題を三日間続けてやって頂きます。わかりましたか?」


「「「はい、わかりました・・・」」」


 この後すぐに解散し、ルナ君と順番でお風呂に入り、用意されていたシチューを食べ、私はベッドに倒れ込んだ。


 こうして、とてもとても長い王都での一日目が終わった。

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