2の28 いつもの野営で反撃




「ルナ君は私たち三人とも闇で隠すことはできる?」


「アルテ様とお姉さまは光子がたくさんまとわりついているので難しいと思います、ごめんなさい」


「わかった、最悪の場合はルナ君一人でナプレの港町まで急いで戻って、ピステロ様に助けを求めてね」


「わかりました。でもそうならないように頑張ります」


 これ以上は時間がもったいないのでさっそく作戦を開始する。私たち戦闘要員はナナセカンパニー号から新しく買った方の馬車に乗り移り、カルスはいつでもゼル村に向けて出発できる準備をする。


「ナナセちゃん、絶対絶対ゼル村に帰ってきてよぉ」


「大丈夫だよアンジェちゃん、サッシカイオなんて全然怖くないからっ!」


 半泣きのアンジェちゃんの背中をさすって安心させると、さっそくルナ君に出撃を伝える。ルナ君は体に闇をまとわせ、敵がいると思われる方向に走っていった。ただでさえ目が悪い私はすでにルナ君の姿を確認できないけど、そろそろ着いたかなぁ?と思う頃に剣を光らせ馬車から飛び出した。


「カルスっ!行ってっ!」


「へい姐さん!ご無事で!」


 移民たちを乗せた馬車がすごい速度で走っていくのを確認しながら罪人三人に向かって歩き出す。できるだけゆっくりと、できるだけ時間を稼ぐように、できるだけ自分に注意を引くように、光る剣をゆらゆらと揺らしながら進む。


 まだ敵の姿は見えないけど、適当な方向に声を上げる。


「私はゼル村の剣士ナナセです!今から脱獄逃亡容疑のあなたたちを捕えます!怪我をしたくなければおとなしく武器を捨てて私の前に投降しなさいっ!」


 敵は自分たちが脱獄したサッシカイオ一団だとバレていないと思ったのだろう、私の挑発に乗ってざわっと声を上げる。明らかに草むらの方向に三人いる。よし。


「サッシカイオ指名手配犯、あなたは私たちに一度敗れたにも関わらず、またも負けるためにやってきたんですね!あなたは弱すぎて相手になりませんけど、その度胸だけは認めてあげましょう!さあ一緒にいる侍女とともに投降しなさぁーいっ!」


「なっ!」


 あいつバカだ。せっかく暗闇を利用して隠れているのに声を上げて居場所を知らせてくれた。やっぱり罪人三人とは別の場所で待機しているようだ、これなら作戦どおり上手くいくかな。


 それにしてもベールチアの方はさすがに声を上げてくれないところを見ると、しっかり訓練された護衛なのだろう。たぶんサッシカイオを護衛するために林の方にいると思うけど、バカな上司と部下に囲まれて若干同情してしまう。


 私は草むらにいる悪党三人が目視できる場所までくると、フェイントで気づかないフリしてサッシカイオがいる林の方向にゆっくりと足を進める。弓の罪人は少し後方ですでに矢を構えているのでわかりやすく目立っていた。


「指名手配罪人元町長サッシカイオ駄目王子っ!早く出てきなさぁーいっ!」


 大声で挑発しながら林の方向に走り出す、と思いきや、剣の光を消してから急旋回し弓の罪人に向かう。弓の罪人が気づいて慌てて構えている矢を放ったようだけど、すでに私との距離は大きく縮まり、矢はどこか遠くへ飛んでいった。


「うりゃあっ!」


 斬りかかるふりをした私は、弓の罪人の足元にあった野球のボールくらいの石を全力で空中に飛び上がらせる。かなり接近しているのでこのくらいの石なら剣で操作が可能だ。


「えいっ!」


── ヒュンっ!・・・チーン ──


「うぎゃあああああっ!」


 石がすごい速度で地面から飛び上がり、弓の罪人に見事にヒットした。なにやらとてつもなく当たってはいけない場所に当たったようで、悶絶しながら地面に倒れ込んだ。


 すかさず作戦通り弓の弦を切断すると、倒れ込んでいる罪人の肩を仰向けになるように思い切り蹴とばしてから上に飛び乗り、首に剣の先を突き付けてがっつりと脅す。


「もし護身用のナイフを持っているなら遠くに投げ捨てなさい。抵抗すればあなたの頭と体がお別れをして二度と会うことはなくなります。残りの二人!今相手してあげるから待ってなさいっ!」


 首を斬るなんて怖い事するつもりはまったく無いけど、できるだけ相手が怖がりそうな言い方をする。弓の罪人はヒィと言いながらサバイバルナイフのようなものを腰から抜いて投げ捨てた。それを確認してから弓の罪人の靴に向かって重力魔法をかけると、二メートルくらい上まで持ち上がる。これは私自身にかけて怖い体験をした逆さ吊り魔法だ。


「ひいいいい!助けへええええ!」


「おい大丈夫かっ!うわあああ!あいつ浮いてるぞっ!」


 次は大きめのハンマーを持った残りの罪人二人が相手だ。弓の罪人を盾にするように私の前方に配置しながらゆっくりと近づく。ハンマー罪人は逆さ宙吊りの仲間を見たことでかなり怯んだようで、おそらく戦意は喪失しているだろう。私はさらに脅しをかけるように、大きな声ではなくあえて小さな声と丁寧な言葉で語りかける。


「あなた方はなぜ武器を構えているのですか?私は武器を捨てて投降するように申し上げたはずですが、聞こえていなかったのでしょうか?仕方がありませんね、命が惜しくないようなので相手して差し上げましょう。準備はよろしいですか?」


「なな、何なんだ!子供のくせにっ!」


 相手は近接戦闘武器なので、弓の罪人が盾になっていて殴りかかってこれない。私は腰のひょうたんからくぴっと水を口に含み、剣から魔法の力を抜いて弓の罪人を地面に落下させると同時に二人に斬りかかる。


── ドサッ!ボキッ! ──


「ぐがっ・・・」


 あ、やばい、なんか弓の罪人の打ちどころが悪く、骨が折れたっぽい音が聞こえた。けど、すでに残り二人を仕留めるために動いてしまっているので後回しだ。


「ぶぶぶーーーっ!」


「なっ!なんだっ!毒霧攻撃かっ!?」


 少々お行儀が悪いけど、口に含んだ水を二人に吹きかけると同時に剣に光をまとわせ、久しぶりの静電気魔法を発生させる。剣の先にビリビリと電気が集まり、いつでも放出可能な状態となる。


「オルネライオ様に変わってお仕置きよ!えいっ!」


── ビビビリバリっ! ──


「ごあああぼばばばあぶくぶくぶく・・・」


 剣から勢いよく飛び出した電撃が夜の闇を切り裂いていくようでかっこいい。まずは二人の鉄のハンマー部分に伝わり、その後地面に吸い込まれるように鈍い光を放って消えて行った。バドワたち三人衆をやっつけた時と同じように泡を吹いてその場に倒れ、ビクビクと痙攣している。よし、大成功だ。


「アルテ様っ!三人を捕縛してっ!」


 私はわざと大きな声でアルテ様を呼び、三人の撃破に成功したことをルナ君とサッシカイオに知らせる。ルナ君はそれを合図にサッシカイオを宙吊りにしたのだろう、「うわああ」という声が聞こえた。


「アルテ様、一人上から落としちゃって骨折してるかもしれないから、捕縛して最低限の治癒をしておいてください。先に治療すると起きちゃうから、絶対に順番を間違っちゃ駄目ですよ!」


「わかったわ、でもたいへんよナナセ、ロープが足りないわ」


 あらら、困ったな。なんか替わりになるもの替わりになるもの・・・ああそうだ!あったあった!


「だったら鶏ケージ用の針金を使いましょう、あれを両手の親指だけぐるぐる巻きにすれば動けなくなると思います。足は靴を脱がせて逃げにくいようにしてから、やはり親指だけしっかり巻き付けて下さい!」


「ナナセは機転が利くのね、その後はどうするの?」


「もちろんルナ君の援護に向かいますっ!」


 泡吹いて倒れている罪人三人の捕縛をアルテ様に任せると、すぐにルナ君のもとへ走った。すでにここからでも宙吊りになっているサッシカイオの様子が見えるし、「おろせー」と叫んでいる声も聞こえる。ルナ君は防具らしい防具をつけていないので重力魔法をかけている今、もしベールチアに斬りかかられたら危ないだろう。自然と足は急ぎ、剣を握る両手に力が入る。


「さあサッシカイオ!もう観念しなさい!」


「ふざけるなっ!すべてお前のせいだっ!お前さえいなければっ!降ろせーっ!降ろせーっ!」


 空中で駄々っ子のように無様に暴れるサッシカイオを黙らせるため剣の先にビリビリを集めながら、私はゆっくりと近づいた。

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