2の20 港町へ出張準備




 ナプレの港町の工場へ鶏ケージ用の金網になる針金の発注をしてからそろそろ一か月だ。今日はアルテ様とルナ君と一緒に着々と旅の準備を進めている。


 まずは工場に色々頼んであるものから取りに行く。


「アルテ様ずいぶんチヨコに乗るの慣れてきたんですね、首輪つけて掴まればけっこう速く走れるんじゃないんですか?」


「ええ、チヨコもエマさんを乗せて毎日歩く練習をしているそうなのよ。わたくしもダイエットを頑張ってチヨコの負担にならないようにしているわ」


 確かにアルテ様は少し引き締まった身体になっている。最近は、いつのまにか買い揃えた私と同じような村娘っぽい服装をしている上に、大きな弓を背中に引っ掛けているので神殿の巫女感はまったくない。女神様これでいいのかな?とも思うけど、本人がとても嬉しそうにチヨコを撫でながら乗っているので問題ないのかな。


「なんか弓がすごく似合いますねぇ、月の女神様って感じ」


「うふふ、わたくしも少しは創造神様に認めてもらえるかしら?」


 馬車に装着した竹スプリングの加工が思いのほか上手く行ったようで、親方はアルテ様の竹の杖を弓に生まれ変わらせた。ルナ君いわく「お姉さまの剣みたいに、この弓も魔子であふれています!」という状態らしい。たぶん杖をずっと持って歩いていたから、アルテ様の神々しいオーラが移ったのではないかと思われる。


「おう!待ってたぜナナセちゃん、竹のバネはいいだろう?あれだけ大きな馬車だってえのに、しっかり支えてるからな。あと球っころも馬車二台分だけできてるぞ、今回持って行くか?」


「親方ありがとうございます、これで快適な馬車の旅ができます。あとベアリングはもちろん持って行きますよ、もし高く売れたら報酬を追加でお支払いしますね」


 ベアリングは高く売るつもりだけど、高すぎても誰も買わないので難しいところだ。私に上手く交渉ができるのだろうか?また行商隊のプルトの時みたいに子供だからといって舐められちゃうだろうか?


 引き続きお母さんにお願いしていたシンくん用の革製品を受け取りに工場の奥へ入っていく。


「待ってたよ、全部鹿の革で作ったからね、軽くて丈夫な自信作だよ。あと例のヘラジカ革で作ったクッションもできているよ、とりあえず二つ分の羊毛しか手に入らなかったけど」


 シンくんの新しいベルトは使役犬というか盲導犬っぽい感じで短い取っ手が付いていて、胸の部分はお財布入れになっていた。ペリコとチヨコにも手綱みたいなものをお願いしておいたけど、これは私が作ったチョーカーアクセサリの部分に掴むための縄が取付けられていた。どれも非常に軽くて伸縮性があり、肌触りも優しいので少しくらい強く引いても負担はかけないだろう。


 ヘラジカクッションは座布団くらいの厚さのものを操舵席に二つ置いた。荷台の長椅子の分は行商隊のネプチュンさんが南の島で羊毛を大量仕入れしてきてくれてからなので、まだ作れないそうだ。


「シンくん、ペリコ、チヨコ、良かったね!気に入ってくれた?」


「がうっ!」「ぐわっ!」「きゅぴー!」


 それじゃさっそく走ってみましょうと言うことで、牧場まで三人で競争してみた。結果は空を飛んでいったペリコとルナ君の圧勝となったけど、チヨコとシンくんは全く同じ速度で並んで走っていた。勝ち負けを付けたくなかったのかな?なんか仲良しね、この子たち。


「エマちゃん、キャラメルできてるー?」


「ナナセちゃんー、とっても美味しいのができてるよー」


 結局キャラメル作りはエマちゃんに完全に任せてしまった。失敗の原因はバターの品質が問題だったようで、かなり多めに投入したら上手くいった。きっと私が日本で使っていたバターは非常に高品質なものだったのだろう。そういえば有塩とか無塩バターってあったよねと思い出し、塩を入れたら味も硬さも安定してくれた。理由はよくわからないけど結果オーライだね。


「ナナセ、このキャンディはしっとりとしていてとても美味しいわ、また食べすぎてしまわないように気を付けましょう」


「さすがですお姉さま!こんなに美味しいお菓子を開発していたのですね!」


「これ何度も失敗したんだよー、ナッツ混ぜてパンに塗って食べたやつあったでしょ?実はあれ失敗作だったんだよね・・・」


 このキャラメルは製品として売り出すには少し問題が発生した。包む紙がなかったのだ。最初は葉っぱに包んだりしてみたら青臭くなってしまい、それならばと乾かした葉っぱで包んだらベトベトくっついてしまった。私は雑貨屋さんと食材屋さんに相談しながら激しく悩んでいると、その答えはなんと薬草屋さんにあった。


「これが苦い薬草を包んで飲むときに使うやつだよ」


「これオブラートじゃないですかっ!買います!めっちゃ買います!」


「まいどありぃ」


 オブラートを大量に購入し、適当な大きさにカットして包むと非常に高級感のあるお菓子に生まれ変わってくれた。そういえばと思い眼鏡でぬぬぬとオブラートを解析するとコーンスターチで作ってあるようだったけど、どうやって固めるのかまったくわからないので要検討になってしまった。今度暇なときに実験して大量生産しよう。



「村長さん、港町で何か買ってきてほしいものはありますか?」


「仕入れはすべてカルスバルグに任せておるのぉ」


「姐さん、村長さんの分も、他の商店の分もすべてばっちりまとめてありやす、ご安心下さい」


 なんかだカルスがやたらと有能だ。この調子なら王都の行商隊に入れるんじゃないかな?いやいや、私が絶対手放さないんだけどね。


「あとなんか忘れてることなかったっけー?」


「わたくしの準備は終わっています」


「あっ、そうだお姉さま、アンジェさんが今の時期は暇なので港町行ってみたいって言ってましたよ」


「そうなんだ、でも家族の許可が必要だろうねー」


 アンジェちゃんとエマちゃんはまだ十歳だ。いきなり外泊はまずいだろう。そう言う私もまだ十三歳なんだけどね。私はアンジェちゃんの両親の許可を貰いに、夕方になってからお宅訪問した。


「・・・というわけで、菜園も畑も今は落ち着いているので、アンジェちゃんと一緒にナプレの港町に行ってもいいですか?何も問題がなければ一泊して戻ってきます。アルテ様とルナ君とカルスが同行します」


「ナナセちゃんたちと一緒なら全く心配ないよ、なかなか行く機会もないだろうしね、こちらからお願いしたいくらいさ」


「やったぁ!ナナセちゃん、あたしを港町に連れていってくれるぅ?」


「やったねアンジェちゃん!一緒に港町行こっ!」



 夕ご飯は旅の前日なので家で色々作ったり片づけたりするのが面倒なので、みんなで食堂に行くことにした。するとそこには見覚えあるイケメンの人がたくさんの護衛を引き連れて座っていた。


「ナナセさん、お久しぶりですね」


「あれっ?オルネライオ様お久しぶりです。お珍しいですね、どうかなさったのですか?」


「ええ、少しチェルバリオ様にお話がありまして」


 ナプレの港町の一件で判決を下されたとき以来なので、かれこれ三か月ぶりくらいだろうか?相変わらずかっこいい王子様だ。


「ゼル村で何かあったのですか?」


「ナナセさんには先にお話しても良いですね。弟・・・サッシカイオが無償奉仕の刑から逃げ出しました。現在も行方不明で、我々を含め王国の役人が手分けして探しているところなのです。ナナセさんやアルテさん、ルナロッサさんに対して個人的な恨みがあると思いますから、注意をしてほしいとチェルバリオ様にお願いしてきたところなのです」


 ・・・あいつ逃げたのかよっ!

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