2の6 年明けの連休
「明けましておめでとうございます!」
「お姉さま、今年もよろしくお願いします!」
この星は一年が三百六十日だ。地球と同じになるように創造神が作ったそうなので五日ほど足りない。その分は六月と七月の間で約二日間、十二月と一月の間で約三日間、太陽の位置合わせをして暦を調整しているらしい。つまり今日から三日間が連休となる。
普段は信仰などまったくない村の住人たちだが、新年だけは神殿に祀られている女神像にお祈りをするらしい。この村の場合は主に豊作を願って祈るらしいけど、毎日祈ってるような人はほとんどいない。
日本人がまったく信仰がなくてもクリスマスに限ってキリスト様の誕生日を盛大にお祝いするような感覚かな?なんにしてもこの星の文化だ、私もそれにならってルナ君と三人衆を引き連れて神殿にやってきた。アルテ様は完全に神殿の人なので神父さんの助手をしている。
「新しい年を迎えられたことに感謝を!」
「感謝を!」
「天の恵みにより命を繋げることに感謝を!」
「感謝を!」
神父さんの言葉に復唱しながら、女神像に向かって感謝の祈りをささげるシステムのようだ。この神殿は狭く、同じことを何度か繰り返し、村人全員がお祈りをするようになっているらしい。私たちも列に並んで中の様子を伺う。アルテ様はどうやら寄付金や品物を受け取る係のようだ。どうしよう、私、何も持ってきていないや。
「ぼくが金貨を持ってきているので、お姉さまが代表して寄付して下さい」
「おおルナ君、気が利くね、ありがとう。あとで必ず返すからね」
「このお金はお姉さまが自由に使って下さい、ぼくは使い方があまりよくわからないので」
そうだった、アルテ様とルナ君の金銭感覚はヤバいんだった。私は「じゃあ預かっておくね」と言ってルナ君の財布をそのまま受け取る。うわっ!かなり入ってる、ピステロ様が路銀にと言って渡したらしいけど、子供が持ち歩くような金額ではない。あとできちんと枚数を数えておかなきゃね。
「この村で生活できるのも女神様のおかげです。こちらは感謝の気持ちを込めた寄付でございます」
私たちの順番になったので前の人たちの真似して寄付をした。私とルナ君と三人衆の分で純金貨五枚(五十万円相当)を渡すと神父さんが一瞬恐縮してから、「あなた方には神のより厚いご加護があるでしょう」と言っていた。金額によって厚くなる加護なんて信用できないけど、私はもうアルテミス女神様の加護を十分に受けているから必要ないかもね。
・
「村長さん、今年もよろしくお願いします」
「おお、ナナセや、待っておったぞ、こちらこそよろしく頼むのぉ」
神殿を出た私たちは村長さんに新年のごあいさつに来ると、そこにも軽く列ができていた。忙しそうなのでさっさと帰ろうと思ったら引き止められ、「応接室で少し待っておれ」と言われた。また食事をせがまれるのだろうか?
「待たせてしもうたのぉ。それでのぉ、カルスバルグの話なんじゃが、連休明けに一度港町に行ってもらおうかと思っておるのじゃ。もう少しすると雪が降る日もあるからのぉ、ナナセとルナロッサも一緒に行ってほしいのじゃよ」
私は鉄の塊をインゴットにしてもらう大切な仕事がある。鉄の塊はルナ君がいないと運ぶのが厳しいので、当然一緒に来てもらう。
「私も港町に用があるんです、お断りする理由はありません!」
「そうかそうか、助かるのぉ。それでのぉ、港町の町長にお願いごとをしてきて欲しいんじゃ」
「そういう理由で私とルナ君なんですね、もちろんお引き受けします。難しいことですか?」
「それがのぉ・・・」
村長さんの説明によると、この村は非常に裕福だそうだ。自給自足はほぼ完ぺきに行えており、今年は農作物も豊作で、狩りの獲物も安定して供給されているので儲かって儲かってしょうがないとの事だ。
「裕福に越したことないじゃないですか、何が問題なんですか?私はこの村をもっともっと発展させるつもりでいますけど・・・」
「裕福すぎて儲かった分を税として持ってかれてしまうんじゃよ、せっかく頑張っておる村人に還元できずに王国に納めるのはしゃくじゃろう?」
「税金対策ですね!わかります。」
「ふぉっふぉっふぉ、ナナセは若いのに大人の事情がよくわかるのぉ、やはり変わった子じゃな」
その後の村長さんの話をまとめると、儲かった分をすべて公共事業に使ってしまい、王国に納税はできるだけしたくないと考えているそうだ。道路や建物を増やし、移民をどんどん受け入れ、この村の中で儲かった分をこの村の中でどんどん消費し、より住みやすい村にするつもりらしい。
「それでピステロ様には何をお願いするのですか?移民と言っても、あの港町もきっと今は人が足りないくらい活気が戻っていると思いますよ」
「わしが欲しいのは“土木”や“建築”系の神命を持つもの一人だけじゃよ。街づくりとなると“製造”だけでは小さなことしかできんし、追い付かんのじゃ」
「あー、ヴァイオ君とこの工場、すごく忙しそうでしたもんね。わかりました、そういう人材がいたら移住してもらうか、何か月かお借りするような形でいいですか?」
「相変わらず話が早いのぉ、あとはその場の状況でナナセの判断に任せるとするかの、信頼しておるぞぃ」
相手が第二王子のような王族だったら迷わず断っていたけど、ピステロ様はきっと助けてくれるに違いない。村のためにも頑張ろう。
「そうだ村長さん、港町の孤児院の子供たち、アルテ様にすごく懐いていたんですよ。もしピステロ様が許して孤児たちもそれを希望したら、この村に連れてきちゃってもいいですか?」
「ナナセに任せるよの、村に子供が増えるのは良い事じゃ」
・
「それじゃあナナセカンパニー号、発進!目標ナプレの港町!」
「ナナセ、危ないのは駄目なのよー!」
「姐さん!お気をつけて!」
連休が終わり、私は大量の米と米酒を積み込んだ馬車で港町へと出発した。特産品の米と酒はお金に替え、王国へ納める資金となる重要任務だ。他の荷物は例の鉄塊と今シーズン最後のトマトジュース、それとは別にエマちゃんのチーズとアンジェちゃんのドライフルーツをお弁当のような箱に詰めた。ピステロ様は赤い飲み物が好きだから、たぶん赤い葡萄酒のおつまみとして喜んでくれるだろう。
「姐さん!この馬車に付けたベアリングってのはすげえですね、馬が全くストレスを感じずに荷車を引いてやすですよ」
「でしょー?工場の親方が気合入れて作ってくれたんたよ、これなら休憩なしで港町まで行けるよね」
「この速度なら、すぐ着いっちまうと思いますよ!」
親方は丁寧に鉄の球を作ってくれた。純粋な“球体”にするのが大変らしく、さらにそれを大量に作るのにずいぶん時間をかけてくれた。とても完成度が高かったので料金は言われた額の倍を支払い、大量生産して王都の商人に高額で売りつけようと焚きつけておいた。
ベアリングの完成度が素晴らしすぎて馬が止まれない可能性があったので、この馬車には通常の車輪に木材を擦りつけるブレーキの他に補助ブレーキを装着した。地面に木の棒を擦りつけるような単純なものだけど、止まれないと馬が危ないので必須装備だ。
馬車は人が歩くよりもだいぶ早い速度で進めるようになった。この調子なら夕方の鐘より前に到着できるだろう。以前の馬車の旅は途中の野営で一泊していたのだ、大躍進である。ついでに私が馬に治癒魔法をかけてあげるので、翌日も元気に出発できる。
・
「ついたー。なんかナプレの港町、人が増えてない?」
「町ん中の道も馬車が走りやすくなってやすですます」
ナプレの港町はたった数か月で驚くべき進化を遂げていた。まずはいつもの宿を取りに向かったら、なんと満室だった。仕方ないのでピステロ様を訪ねて牢屋でいいから泊めてくれとお願いをした。
「わざわざ宿を使う必要などなかろう。地下牢でも応接室でも好きに使え、話は明日でいいよの?」
「ピステロ様助かります、こんなに港町がにぎわっているなんて思いませんでしたよ」
「新年であるからの、出稼ぎから帰省しておる民や連休と絡めて王都の観光客がずいぶん来ておるようである。」
なるほど、確かに船で安全に来られるナプレの港町は王都からの観光地にちょうどいいかもしれないね。
「それとの、南の山で温泉が出ての、あっとういう間に王都に噂が伝わったようである。我の屋敷への道すがらで新たな商売を始めたので其方らも行ってみるとよいぞ。」
おおお!久々のお風呂に入れる!私はこの世界に来てからお風呂は数回しか入っていない。それもかまどでお湯を何度も何度もわかし、大きなタルでちゃぷちゃぷと水遊びするようなものだった。それでもずいぶんと満足したのだから、温泉なんて入ったら完全に気持ちが緩んでしまうだろう。是非とも入りたい。
「行きます!すぐに行きます!カルス、ルナ君、準備はいい?」
「へい姐さん!いつでも出発できまさぁ!」
ルナ君は男湯と女湯どちらに入ればいいかわからないので行かないそうだ。お姉ちゃんと一緒に入る?と言ったら白い肌を首まで真っ赤にして怒ってしまった。
ルナ君になら見られてもいいのに。
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