2の3 虹色のアクセサリ




 今日はルナ君と一緒にネックレス作りをしている。ルナ君には丈夫そうな糸を何重にも三編みしてもらい、首から下げる部分を何本か作ってもらうことにした。


「このとんがった工具で貝に穴を開ければいいかな?このあたりにこれを当ててー、金づちでー、それトントントンっ!トントントンっ!けっこう固いね、あそっれトントントンっ!」


── パキッ ──


「ぎゃあああああ!割れちゃったあああ!」


「おっお姉さまっ!どうしたんですかあっ!どうしよう!どうしよう!」


 この綺麗な貝はけっこう固く、なかなか穴があいてくれなかったのでどんどん力を込めて叩いていたらパッカリと割れてしまった。


「ルナくぅーん、割れちゃったぁー」


「はわわ、おねえたまぼくどすればいいですかっ!」


 私よりもルナ君の方が動揺してしまったよ。


「わっわざとよ!勘違いしないでね!これでペンダントを三つ作れるようにしたんだからっ!」


 苦しい言い訳だけど実際に割れた破片を見てみると、一つは三日月のような形、もう一つはハートのような形に加工できそうだ。思い切ってもう一枚の貝も同じ方法で割ってしまい貝の欠片は四つになった。次は借りてきた細工道具の中から粗目のヤスリを出し、丁寧に周りを削って形を整える。さらに細かい目のヤスリで野菜の面取りのような感じで触感をやわらかくする。服にひっかかったりすると嫌だもんね。


 さて次は穴だ。今度は慎重に尖った道具をキリのように回転させながら少しづつ少しづつ穴をあけていく。私だって学習してる。


「コリコリ、コリコリ、コリコリ、コリコリ、コリコリ。よし穴が開いた!」


「さすがはお姉さまですっ!」


「よさないかルナ君」


 私はなぜ男言葉になってしまったかわからないけど、反射的にそう言わなければならないような気がした。きっと地球時代の記憶が邪魔したんだろう。とにかくこれでお姉ちゃんの威厳が保てたに違いない。


「ただいま、あらナナセ、何か作っているの?」


「おかえりなさいアルテ様、浅瀬で拾った貝でペンダントを作っているんですよ、まだできてないけどアルテ様の分も必ず作るからね」


「あのときの虹色に輝く貝よね、とても楽しみだわ」


 アルテ様が帰ってきたので作業を中断して、みんなで食堂に向かった。するとすでに仕事を終えた三人衆がエールを飲んでおり、食事は頼まず待っていてくれたようだ。


「姐さん、南の山で変わったキノコを見つけたんすよ、なんか美味そうな香りがするんすけど、これ喰えますかね?」


「ハイネ!これマツタケだよ!しかもこんなにいっぱいあるじゃないの!あンたお手柄だよ!」


 思わず興奮して姐さん言葉になってしまった。松茸のように見せかけた毒キノコだと日本人の私は確実に引っかかるので、眼鏡でぬぬんと凝視して安全を確認してから厨房に飛び込んだ。


「おやっさん!お米をちょっと分けて下さい!このキノコを使って炊き込みご飯作りたいですっ!おやっさんの分も作ります!」


「勝手にしな」


 おやっさんから大変こころよいご許可を頂いたので大量のマツタケごはんを作り、みんなで一緒に秋の味覚を思う存分楽しんだ。



 今日も朝から作りかけのネックレスをチマチマと削り、ついに完成させることができた。ペリコの分だけは飛び回ったときに邪魔にならないよう革製のベルトにした。見た目は腕時計のようで、ちょうど首にフィットするような長さにした。私のチョーカーに少し似ていて嬉しい。


 アルテ様の分にはアルファベットで“A”、ルナ君は“L”、ペリコは“P”、私の分はNではなく数字で“7”を刻み込んだところで作業は完了だ。シンくんには財布を持たせる袋をくくりつけてあるので、これ以上ゴテゴテと装備するのは邪魔になるから作っていない。今度なにか別のものを作ってあげようね。


 さっそく神殿にいるアルテ様にネックレスを手渡しに行くと、今日は赤ちゃんと孤児の世話をしているようだった。孤児とは言っても地球の物語の世界に出てくるような悲壮な印象はなく、不慮の事故で両親を失ってしまったまだ小さな兄弟を村人全員で面倒を見ている感じらしい。どうやらアルテ様はナプレの港町で孤児院の子供たちに懐かれたことに味をしめ、ゼル村に戻ってからも積極的に子供たちの面倒を見ているみたいだ。なんかわかりやすいね。


「アルテ様、アクセサリができたので、さっそく付けてあげますね!」


 アルテ様が服を少しずらして私にうなじを向ける。透き通るような綺麗な肌が眩しくてドキドキしてしまう。なんというか、こう、全裸よりも妖艶な感じだったので、ネットで見ても全く理解できなかった着エロという分野に目覚めてしまいそうだ。


「まあ可愛い!ナナセとお揃いなのね、うれしいわ!うふふん♪」


「おんぎゃぁー!」


「あらあら、お腹がすいたのね」


 アルテ様はあらあら言いながら泣き出した赤ちゃんに牛乳をあげている。常に服の中に牛乳をしのばせ人肌にしているそうで、服の中から牛乳の入った布製の水筒を取り出す姿を見て、またもやドキドキしてしまった。さっきのうなじといい、なんだか妖艶完成度が高い。


 そんなこんなで可愛い赤ちゃんとアルテ様を微笑ましく眺めていると、両親を亡くしてしまった兄弟とやらがこちらに駆け寄ってきた。


「リュウです!こんにちは!」「ケンです!こんにちは!」

「「うわぁー、綺麗な細工だねー」」


 この二人は日本なら幼稚園に入る年頃の子供に見える。早くに両親を亡くした影響か、見た目よりもずいぶんとしっかりした自己紹介をしながらアルテ様の胸元で揺れるアクセサリに目を輝かせていた。その純粋な視線には、私のようなよこしまな気持ちはきっと含まれていない。


「ナナセです、二人は男の子なのにアクセサリが好きなの?これ私が作ったんだよ、貝殻が虹色に輝いてて綺麗でしょ?」


「すごいねナナセお姉ちゃん、すごーくうまく加工してある」


 あらまあ!お姉ちゃんですって!ここは人生の先輩としてビシッと良いとこ見せなければならない。どうやら二人は丁寧に周りを削って小さな穴をあけ、うまく輪を通してあることに着目しているようだ。時間をかけてチマチマやったことを褒められると嬉しい。お姉ちゃんの威厳を保つためにも、最初は失敗して貝を割っちゃったことは黙っておこう。


 話を聞いていると、二人の神命は“製造”のようだ。両親が亡くなったのは両親が経営していた工場での事故らしく、幼かった二人には全く記憶がないらしい。この村の工場はヴァイオ君の家と、この子たちの両親と二つあったのに、事故で閉鎖してしまったので今はヴァイオ君の家の工場だけになってしまったそうだ。そっか、だから親方は忙しくてしょうがないんだ。


「製造だったらヴァイオ君と一緒だね、将来は工場で働きたいの?」


「「うん、ぼくたち立派な職人になるんだ」」


「もう少し大きくなったら親方のお手伝いができるようになるし、それまでアルテ様から文字の読み書きや計算をきちっと教わるのよ、お姉ちゃんも応援しているし、期待してるからねっ」


「「アルテ先生すごい優しいから頑張れるよ!」」


「さあリュウさんとケンさん、今日も足し算のお勉強を続けましょうか」


「おっ、お姉ちゃんは計算とかも得意なんだよ!わからないことがあったら何でも聞いてねっ!」


「「うんっ!ナナセお姉ちゃんありがとう!」」


 相変わらず神殿のアルテ様は心配ないね。私は私でお姉ちゃんぶったことができたのでとても満足だ。



「ナナセちゃんー、ペリコなら今日も鶏さんのとこに来てるよー」


 ペリコは放し飼い柵の主だ。いつもの指定席に鎮座し毛づくろいをしていて、鶏たちは周りを取り囲むように静かに座っていた。


「ペリコおいでー、ほら、チョーカー作ったんだよ、私のやつと首に巻く形がお揃いで、飾りの部分はルナ君の三日月とお揃いなんだよ」


「ぐわぐわぐわっ!ぐわぐわぐわっ!はぐはぐ」


 ペリコにチョーカーを付けてあげると、羽をばっさばさしながら私の肩や頭の上に乗ったり、顔や首を大きなくちばしで甘噛みしてきて可愛いかった。これは気に入ってもらえたってことかな?



「ナナセちゃん、ルナ君すごいねぇ、こんなに広い範囲をほとんど一人で草刈りしてぇ、そのまま全部耕しちゃったんだよぉ」


 菜園に来ると、とんでもない範囲の土が掘り起こされ、もういつでも種まきしても良さそうな状態になっていた。しかも完璧な直線で美しい。私はルナ君を褒めてあげながら、さっそく赤いマフラーをはずして完成したネックレスをかけてあげる。ルナ君は顔を真っ赤にして目をつむって直立不動だ。そんなに緊張しなくてもいいのに。


「さっきペリコにもチョーカーあげてきたんだよ、ルナ君とお揃いの三日月型にしたんだ。私とアルテ様はハート型でお揃いなの」


「おお、姉さま!とっても嬉しいです!ぼく大切にしますね!」


 ルナ君がネックレスをとても大切そうに両手で握って嬉しそうな顔をしてくれた。喜んでもらえて私も嬉しいよ。


「そんじゃ、ちょっくら大豆畑の方の土も起こしておきますかぁ」


「三人で一緒にやろぉ!競争だよぉ!」


 ・・・競争はアンジェちゃんの圧勝に終わった。農家の子、恐るべし。

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