第二章 村娘ナナセの街づくり

2の1 村長の計らいと三人衆




「姐さん!ゼル村が見えてきやしましたですます!」


「やっとみんなで帰ってこれたねぇ」


「あそこがお姉さまの住んでいる村なんですね!」


 ナプレの港町での町長襲撃の一件でアルテ様とルナ君が一か月無償奉仕の刑になってしまったけど、無事に刑期を終えてようやくゼル村に帰ってきた。ちょうど季節の変わり目だったこともあり、出発したときはまだ温暖な気候だったのに、今日は若干寒い。


「アルテ様が神殿で作ってくれたマフラーとても暖かいです。大事に使いますね」


「ありがとうナナセ、わたくしにできることはとても少ないので、喜んでもらえると、とても嬉しいわ」


 アルテ様はルナ君と私と三人お揃いのマフラーを作ってくれた。色は私が決めていいと言われたので、緑がアルテ様、赤がルナ君、私が黄色の信号機カラーにしてもらった。


 まずは村長さんにただいまのごあいさつに行かなければならないので、倉庫の家には寄らずそのまま村長さんの屋敷へと向かった。


「よく戻ったのうナナセ、ずいぶんと荷物と仲間が増えておるようじゃが・・・」


「バドワイゼルです!」

「ハイネッキンです!」

「カルスバルグです!」


「あはは、村で買えないようなものを選んでいたらどんどん増えちゃって。あとこの三人衆は港町に残れって言ったんですけど、勝手について来ちゃったんです。ゼル村に住んでもらってもいいですよね?」


「「「姐さんには、どこまでもついていきやす!」」」


「ふぉっふぉっふぉ、ナナセは相変わらず変わっておるのぉ、三人は倉庫の家に住んでもらいなさい、ナナセたちはアンドレッティの家に住めばよかろう。あの家はけっこう広いからのぉ」


「アンドレさんに許可とらないでいいんですか?」


「本人が言っておったのじゃ、気にするこたぁ無い」


 アンドレおじさんは村長さんにあいさつに来たとき、この家は私たちが戻ったら住ませてやってくれとお願いしていたようだ。倉庫の家はそれなりに気に入っていたけど、三人衆が住む場所にはもってこいかもしれないので、さっそく引っ越しだね。


「あと村長さん、この子は例の南の屋敷に住んでいた吸血鬼のお子さんで、ルナロッサ君です。それとお友達のペリコです。私の魔法の師匠になってくれたんですよ、闇魔法をとても上手に扱うんです」


「るるルナロッサと申します、村長さんはとてもいい方だとお姉さまに聞いています!どうぞよろしくお願いしますっ!」


「吸血鬼の子とな!まだ小さいのに礼儀正しい子じゃのぅ、ルナロッサや、こちらこそよろしくたのむのぉ」


 一通りのあいさつを終えた私たちは、まずは三人衆を倉庫の家に案内する。ここのロフトには私とアルテ様とシンくんのベッドが作ってあるので、そのまますぐに使えそうだ。さっそく荷運びのカルスが棚割りを考え、ルナ君と一緒に倉庫にあった既存の荷物を素早く整理し、馬車の鉄の塊やその他雑貨を倉庫整理して作られた新しいスペースに綺麗に並べてくれた。さらには「ここに新しい棚を作りましょう」とか言ってる。この二人は港町の倉庫街を整理整頓しまくった実績があるので安心して任せられる。


 倉庫の家を引き渡してから、私たちの生活雑貨を馬車に乗せてアンドレおじさんの家に向かった。中央広場からは少し離れているけど、六部屋もある立派な平屋で、屋敷と呼んでもいい新居だ。けっこう広いお庭には芝生が綺麗に植え揃えてあり、よく手入れされていることが素人の私でもわかった。アンドレおじさんの性格って大雑把なのか几帳面なのかよくわかんないね。


「アンドレさんの荷物は一番奥の部屋に全部まとめておこっか、小物くらいしかなさそうですけど」


「食器はこのまま使わせてもらいましょう、アンドレッティ様はご自分でお料理はほとんどしていなかったようですから、わたくしたちが使っても問題ないと思うわ」


 アンドレおじさんは食堂の超常連だった。米を炊く用っぽい蓋付き鍋がひとつと、お酒を飲むための木のコップくらいしか使った形跡がない。男性の一人暮らしなんてこんなもんかもね。



「わたくしは神殿にごあいさつに行ってまいります、夕方の鐘で食堂に集合でいいのよね?」


「私は三人衆に仕事を作らなきゃいけないから、色々なところに顔を出さなきゃならないの」


「ぼっ、ぼくは何をすればいいですか?お姉さま」


 ルナ君には魔法で荷運びの仕事を・・・と思ったけど、港町からずっとそんなことばっかりで申し訳ないので、私と一緒に畑仕事をすることにした。ルナ君は嬉しそうに禍々しい鎌を高く掲げ、いつでも出発できます!と言わんばかりに待っている。物事には順番があるから、ちょっと待っててね。


「漁師のバドワにはこの村であまり仕事がないかもしれない。川魚を釣るのなんてみんな遊びでやってるくらいだし。そうだ、魚を上手にさばいていたよね、包丁は持ってきてる?」


「ええ、姐さん、俺・・・私たち漁師は船の上で獲れたての魚をさばいて生のまま喰ったりしてましたから、包丁の扱いは自信ありやすます」


「だったらさ、食堂のお手伝いをしてもらおうかな。おやっさんに認められるまで、けっこう苦労するかもしれないけど」


 食堂に出向いておやっさんにバドワを紹介する。するとおやっさんは無言で肉や野菜をまな板にいくつか置き、バドワに向かってアゴ突き出す。バドワは「へいわかりやした」と昔の言葉遣いに戻り、肉の脂や筋を綺麗に掃除し、ジャガイモや玉ネギの皮を素早くむく。おやっさんは「ふんっ」と鼻を鳴らしてからスープ作りに戻ってしまった。


「はははっ!合格だよバドワイゼル、今日の夜はナナセちゃんたちのためにも、たくさん仕込みがあるからね!」


「へい!おかみさん!おやっさん!よろしくお願いしやす!」


「ナナセちゃん、正直言って調理を手伝ってくれる人は大歓迎なんだよ、ナナセちゃんがいなくなってから、あたしが厨房に入りながら、村の子供たちを雇って給仕させたりしてたんだよ」


 よし、これでバドワは大丈夫そうだね。狩人のハイネもこの村は狩りスポットが多いので大丈夫だろう。さて、カルスは貴重な荷運び人材なので村長さんに預けたいんだよねぇ・・・


「村長さん、カルスと私の馬車を村と港町の物流に使ってもらいたんです。私たちが作ってるトマトジュースとケチャップは港町の町長代理になったピステロ様が定期購入してくれるから、今までは数か月に一回だった港町行きの馬車を、できれば週に一回の定期便くらいまで増やしたいと思ってるんですけど」


「おお、そりゃ願ったりかなったりじゃのう、一度に大量にこの村の産物を運ぶよりは、こまめに売り買いした方が良いに決まっておる。カルスバルグよ、あとで村のすべての店におぬしを紹介するからのぉ、各店で取り扱っている商品をできるだけ早く覚えて、港町で購入希望の商品も毎日聞いて回るんじゃぞ」


「へい!わかりました!とてもやりがいのある仕事になりそうでやんすですね!がんばるですます!」


 一人ですべての物流を担うのは大変だろうし、忙しいときは遠慮なくルナ君に応援を頼むよう、くれぐれも言いつけておいた。これでカルスも大丈夫そうなので、三人衆の仕事を考えるのは終了だね。



 引っ越しが落ち着いたので、私もさっそく働かなければならない。今日は大きな鎌を持ったルナ君とともに菜園の様子を見に行く。アンジェちゃんはアンドレおじさんの畑で育った大豆の収穫は終わったらしく、近くの小屋で豆にする作業をしていた。


「それは大豆を殻から取っているの?」


「そうだよぉ、刈り取って干しておくとぉ、豆が採りやすくなるんだぁ」


 それにしても膨大な量の大豆の枝だ、これを一人でやるのはあまりにも大変そうだ。私とルナ君も一緒になって大豆のなった枝をバサバサしながら種を取っていく。あまりバサバサすると枝がこまかくなりすぎて、こんどはふるいにかけるときにゴミがたくさん入ってしまうそうで加減が難しい。


 冬用の農作物はどうするのか聞いてみると、すでに根菜類を植えてあるそうだ。トマトを栽培しながら大豆を収穫しながら根菜まで始めてたなんてアンジェちゃん働きすぎなんじゃないの?


「ナナセちゃんにお金いっぱい預かったからぁ、お手伝いの人もいっぱいお願いできて大丈夫だったよぉ、今はもう脱穀しかやることないからぁ、一人でのんびりやってたんだぁ」


「アンジェさんも子供なのに、お姉さまと一緒ですごいですね、ぼくも頑張らないとっ」


 神殿の鐘が鳴り、朝ご飯の時間になったのでピザトーストを挟んでサンドイッチにしたようなものを渡してみんなで食べた。ひょうたんには紅茶を入れてきたので、これは三人で回し飲みする。ルナ君が一人で照れてるけど、私とアンジェちゃんはいつものことなのであまり気にしない。


 収穫が終わった葉や枝は、完全に枯れてしまう前に一ヶ所に集めて土を被せておくと肥料になるらしい。大豆の枝は完全に枯れているので、こちらは冬の焚き火用に積んでおくそうだ。なかなか無駄がなくてエコだね


「二人が一緒に畑仕事をやってくれるならぁ、春からたくさん種をまきたいからぁ、少しトマト菜園を広げようかぁ?」


「じゃあさ、あとで菜園の横の草原を少し綺麗にしよっか。ルナ君、草刈りお願いしていい?」


「はいっお姉さま!草刈りのことならぼくに任せて下さいっ!」


 ルナ君は禍々しい死神の鎌を掲げながら刃をギラリンヌ!と輝かせ、爽やかな笑顔で立ち上がった。私とアンジェちゃんはその姿に苦笑しながら、大豆の脱穀作業を続ける。そこにはトマトだけじゃなくてオリーブとかバジルとかの栽培をしてみたいと相談すると、どっちも強いから大丈夫だろうとのこと。


 アンジェちゃん、頼りになるね。

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