1の5 職業選択の自由




 前世の私は身体がちっこくて運動は苦手だった。なので、新しい人生は体を動かすことに重きを置きたい。魔法を使えるなんて確かに魅力的だけど、学問っぽいのは小学校までで十分やったから、もうお断りなのだ。


 私、次の人生は男の子に生まれ変わって野球選手やサッカー選手になるんだ!なんて、ずっと考えていたんだよね。


「運動を神命や職業として行っているのはせいぜい荷物を運ぶ早さを競うようなものではないでしょうか。それも地球のように世界的な大会があるわけではありません」


「そんなあぁ」


「ええと・・・あとは剣士でしょうか。これは大きな都市に専用の闘技場があり、観客を集めて戦いの勝敗に熱狂しているようです。優秀な剣闘士には莫大な報奨金もあるようですね」


 おお、なんか中世って感じ!私ゲームではナイト系ばかり使ってたんだよね。近接戦闘で剣をぶんぶんするのが好きだったんだ。


「じゃあ剣士になりたいです!」


「七瀬、考え直して下さい!」


「私は剣の道を極めますっ!」


「危ないですよ?斬られると痛いですよ?」


「もし戦争とかあって私が兵士だったら、間違いなく魔法使いを真っ先に狙い撃ちします。剣士と危険さは一緒どころか、むしろ魔法使いの方が死亡率が高いと思います」


「そうなのかしら・・・」


 私はゲームの中で一目散に魔法使いを斬りに行っていた。それが前衛のおしごとだったのだ。ここはアルテ様が納得するような理由を見つけなければならない。私が選ばれた理由は創造神が勝手に決めたって言ってたっけ?だったらその人に納得してもらわなきゃならないのかな?


「アルテ様の上位の神様は私の特別な才能に目を付けて惑星テリアに送り込みたいと思っているんですよね?」


「詳しくは聞いておりませんが、そういうことです」


「でしたら剣も魔法も両方頑張ります。魔道士なんてセコいこと言わず、最近流行りの二刀流で行きましょうよ!これまでに魔法剣士的な人はいないのですか?私がネットで読んできた異世界情報だと、みんな魔法剣士的な感じで強くなっていくんですけど」


「どうなのかしら?神命に従うのであればどちらか一つになると思いますけれど・・・創造神様のご理解を得られるのかしら」


「でも、普通は神命が一つしかないっていうなら、二つやれば特別な才能ってことになりますよねっ!これで決定ですっ!」


 アルテ様はまたもや光の抜けた目をして、上司にお説教されにどこかへ向かった。



 アルテ様は惑星テリアの創造神とやらに会いに行ったようで、ほんの一瞬で帰ってきた。さすが時の流れ無視の謎空間だ。ゲッソリとした顔のアルテ様は、創造神への報告と連絡と相談、それと例の便利機能付き装備づくりを休憩なしで何十日もやってきたらしい。


「お待たせしました七瀬、これが眼鏡です」


「こっちでは一瞬でしたよ・・・って、うわあ!すごい可愛い!」


 アルテ様が作ってくれた眼鏡は、フチなしレンズを金色と緑色のパーツでとめてあり、かけてみるともすごく軽い。まるでつけてないみたいだ。


「とても気に入りました!ありがとうございます!」


「次はこれです」


 あれ?ネックレスじゃなくてペットの首輪みたいなやつが出てきたよ?


「ネックレス型じゃなかったんですか?」


 それは革製のベルトっぽい素材で、中央には金色に光る宝石が埋め込んであるのがせめてもの救いかな。


「首に密着するように考えたらこうなってしまいました。機能は保証します」


 さっそく装備してみると、こちらも軽い。というよりも、まったく違和感がない。もちろん、首を絞められているような不愉快感などない。


「付けてることを忘れてしまいそうな素晴らしい装備ですねえ」


「ええ、どちらの装備も創造神様に手伝ってもらい・・・とても苦労して完成させましたから・・・」


 アルテ様が遠い目をしている。どうやら創造神とやらに徹底的にしごかれながら作ったのだろう。手伝いなんて生易しいものではなかったことが言葉の節々から感じ取れる。ごめんねアルテ様、私、大切に使うからね。


 さっそく眼鏡をかけて首輪をつけていると、アルテ様が腕を組んで困った顔をしていた。


「剣と鎧はどうしましょう・・・」


 そういえば今着ているのは地球で寝るときに着ていたパジャマがわりのジャージだった。


「いきなり伝説の剣とか持てないんですか?」


「そういった特別な剣は使うことができないと思います、剣に選ばれる必要があるかもしれません。その眼鏡と首輪には選ばれたようですね」


「首輪って言わないで下さい!かっこいいチョーカーですっ」


 どうやら最初から強い武器ってわけには行かないようだ。


「じゃあ、今の私の腕力に合わせた初心者用の剣でお願いします。両手でしっかり持つようなのがいいです」


「わかりました。鎧はどうしますか?」


「きっとそれも強いやつは選ばれないと駄目なんですよね、だったら普通のお洋服でいいです。色は青と白の貴族服みたいなワンピースで、でっかいスカートが風でヒラヒラなびくようなやつがいいです。それと両手剣は盾を持てないので小手が欲しいです。」


 なぜか剣をかまえた私の姿に、そういう服しか連想できなかった。どっかで見たことあるかもしれないけど気のせいだろう。


「剣と違いずいぶん細かい指定ですね、眼鏡と相まって、さらわれそう度がアップしませんか?」


「そしたらアルテ様が魔法で助けて下さいねっ」


 結局、素敵な貴族服みたいなのを作ってもらえたけど、必要になったら着るということで、普段着はいかにも異世界の大衆酒場で接客していそうな村娘風の服に落ち着いた。靴も服装に違和感ないよう、木と皮でできた古臭いものをお願いしておいた。


 他にはバスケットのようなふた付きの腰かごっぽいものと、ひょうたんみたいな形の水筒、剣は大きいのでさやにしまってからランドセルのように背負う形でお願いした。


「アルテ様、なんだかピクニックに行く子供みたいですけど・・・」


「あら、完全に新しい世界に溶け込めそうな姿ですよ。あとはおいおい現地で揃えて行きましょう」


 確かに、惑星テリアに存在しないようなものをいっぱい持ち込むのは何かと問題がありそうだし、少し現場の雰囲気を知ってから変えて行った方がいいよね。悪目立ちはさらわれ指数がアップしてしまう。


「じゃあ出発しましょうアルテ様。これからよろしくお願いしますね!」


「七瀬、こちらこそ期待しています、わたくしと一緒に頑張って下さい!」


 心置きなく準備をした私は希望を胸に、ようやく新しい世界へと旅立つときがやって来た。


 アルテ様は私の手を取ると神族語とやらで何かをつぶやき、二人は優しい光に包まれながらこの謎空間を後にした。

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