1の4 引越し準備
新しい世界への引越しにあたり、懸念事項をひとつひとつ頭の中に並べていく。全部解消するのは無理でも、先に考えて心の準備をしておくだけでも、きっと覚悟が全然違うもんね。
1.赤ちゃんから開始?
2.所持金ゼロから開始?
3.装備はボロきれ服から開始?
4.ド近眼だった私は惑星テリアでも同じ?
5.文化レベルは?
6.他にも転生者のような人はいるの?
7.言語は日本語でいいの?
「七瀬は本当に用心深いですね、一つづつ考えてみましょう」
「いや、ネットでマンガとか小説を色々と読んだりゲームとかやってると、だいたいこのへんが最初の問題になるんですよ・・・」
事前に取扱説明書を食い入るように読むタイプだった私は、先走ってゲームを始める前に攻略サイトを全部読んで後悔したことも何度かあったけど、事前の準備はとても大切なことだと思うんだよね。
「年齢や容姿は今の七瀬と同じままです、安心して下さい」
「所持金はわたくしが金貨を持参しますので、いきなり空腹で死にかけたり、寝るところがなく馬小屋で過ごすということはありません」
「お洋服は・・・そうですね、事前に準備しましょうか、新しい世界に行くと、わたくしたちの神技は一切使えませんから」
「神技・・・ですか?魔法とは違うんですか?」
「ええ、神技は創造の力です。わたくしは星を作ってしまうような強大な創造力は持っておりませんけれど・・・」
なるほど、この時の流れ無視の謎空間にいる間に、ある程度の装備を整えて、強くてニューゲームができそうだね。異世界あたしつええ!が夢じゃないかも。
「次は視力ですね、おそらく以前の世界と同じです」
「えー。だったら眼鏡を作ってください」
「眼鏡ですか・・・それは難しいかもしれません。ガラスが希少と聞いておりますから、少女が顔にガラスをぶらさげていたら強盗に襲われる可能性があります」
どうやらこの話は新しい世界の文化レベルの話にも通じていそうだ。ちゃんと確認しておかないと。
「ガラスが希少ってことは、採掘や工業なんかは地球よりはるかに遅れているということですね?」
「ええ。ガラスに限らず、加工されていない鉱石類も高価です。電車や自動車もありませんし、長距離の移動は馬車に乗るような世界です」
「ほかの産業は?農業や畜産や教育なんかも気になります。海はありますか?気候も地球と同じような感じですか?王族や爵位を持つ人が税を過剰に搾取したりしていませんか?宗教国家が支離滅裂な危険思想で非常に好戦的だったりしないですか?」
なんだか不安になってきた。せっかく新しい人生が始まるのに、奴隷におとされたり戦争で死ぬのは嫌だ。それにパソコンも車もない、ついでに眼鏡もない、そんな世界でやっていけるのだろうか?
「七瀬はとても十二歳とは思えない考え方で先を見ているのですね・・・全てを説明するのは難しいです。少なくとも今は戦争もなく平和だと聞いております」
「惑星テリア取扱説明の本とかないんですか?」
「・・・ありませんよ」
「本がないなら本を作ればいいじゃない!」
「それはもう他の異世界でやったから駄目ですっ!」
なんかの禁忌に触れてしまったようで、厳しめの口調で言われてしまった。でも、いくら神様が装備を整えてくれるとはいえ、ノーガードで知らない世界に乗り込むのは不安だ。
「それと、他の転移者などはおそらくいないと思います。詳しいことは創造神様しかわかりませんけれど、そういった話は聞いておりません。そしてこの先、別の転移者を迎える予定もないと思います」
「誰かが先に地球からやってきて、無事に生き残れた安心と信頼の実績があれば良かったんですけどね・・・」
どうやら私は先駆者にならなければいけないようだ。これはますますしっかり準備しなければならない。
「言語は現地の言葉です。これは勉強して覚えるには少し時間がかかりすぎるかもしれません。ですけれど、そのあたりは装備でなんとかなるかもしれませんね」
おお!アルテ様そんなすごい装備も作れるんだ。
「その勢いで眼鏡もお願いしますっ、私のアイデンティティなんですっ!子供の頃からずっと顔の一部なんです!」
「うーん、そうですね・・・あちらの文字を読めるように眼鏡をかけるのは悪くないかもしれませんね」
「やったぁ!」
私にとって眼鏡は苦楽を共にした相棒のようなものなのだ。
「ではレンズに翻訳などの便利機能を、耳にかける部分には骨伝導で音声を翻訳する便利機能を付けてみましょう。けれども、わたくしにそのような高度なことができるのかしら・・・」
「アルテ様ならできます!頑張って下さい!」
「そ、そうかしら?では頑張ってみますね」
アルテ様は常に自信がなさそうだ。なんだか少し頼りない感じがするけど、私にできるのは励ますことしかできない。
「あとはネックレスのような感じで話す言葉を翻訳する装備も必要でしょうか。声帯に直接翻訳機を刺し込むより良いですよね」
「なんか怖いこと言わないで下さいよ。もしできなければ、あきらめて新しい言語を勉強するだけです」
「これで七瀬の懸念事項の大半が解決しましたね」
「はい、ありがとうございますアルテ様、なんだか頑張れそうな気がしてきました」
「せっかくなので、新しい世界の“神命”と呼ばれている職業のようなものについて説明します」
「神命、ですか。運命、ではなくて?」
「ええ、わたくしたちが今から行く国では、あらかじめ決められた才能のようなものを与えられると言われています。これが“神命”と呼ばれ、神が個々に与えたものと信じられています」
「それは宗教的な感じですか?」
生命体と説明されたのは、動物や昆虫も含まれる大きな範囲の話で、人族だけではなく他の種族にも得手不得手があるそうだ。それは性格とか才能に近いもののようで、その才能の優れた部分が顕著に表れると考えられているとか。
神命に逆らうことは可能だけど、あまり才能は伸びずに成功しないと信じられていて、そもそも逆らおうなんて考える人はほとんどいないらしい。つまり、神の教えを忠実に守る宗教、といった地球的な感覚ではなく、そうした方が人生うまく行くに決まっているという「常識」と考えられているそうだ。
神命は大きめの神殿に赤ちゃんの時点で連れていくと、その道のプロ神官さんが調べてくれるらしい。どういう仕組みなのかわからないけど、才能を見抜く精度の高い占いのようなものなのかな?
「七瀬には、学問への勤勉な姿勢と、魔法因子への親和性を踏まえ、魔道士への道を歩んでいただきます。きっと世界一の魔道士になれると思います」
「嫌です」
「えっ?」
「嫌ですーっ」
「わたくしの説明を聞いていましたか?七瀬には類まれなる魔法の才能が・・・」
「私、スポーツ選手がいいですっ!」
大切なことなので二度お断りしておきました。
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