1の3 女神様との出会い(後編)
「七瀬、なにやら微妙な顔になっておりますよ」
私は可愛くない子供だったことを思い出し、複雑な気持ちになっていたのが顔に出ちゃっていたようだ。
「あはは・・・すみません神様、色々と可愛くなかった自分を思い出しちゃって。天才っていうのはちょっとズルして、みんなより早く勉強を始めていただけなんです」
小学校の高学年になる頃には、お兄ちゃんと同じ塾に通い、すでに中学校の勉強を終わらせていた。運動が苦手だった私は勉強することは特に苦痛でもなく、塾で知り合った中学生にノートを貸したり、時には教えてあげるくらいにまでなっていた。
ゲームもかなり上手かったけど、三歳からフィギュアスケートやってたとか、音楽一家に育ったとか、そういう人たちと同じようなものだと思う。子供の頃から練習していたので上手くなって当然だし、それを天才と呼ぶのは少し違う。
「皆より早くから勉強を始められることを、天才と呼ぶのではありませんか?」
「そんな立派なものじゃないです。たぶんみんなと同時に勉強を始めていたら私なんてきっと落ちこぼれですよ」
「そうなのかしら?わたくし人間のことはよくわからなくて・・・」
なんだか微妙に自信なさそうな女神様だね。
「・・・ところで一緒に新しい世界に来てくれるって言ってましたけど、女神様も魔法が使えるのですか?あと、これから行く世界には世紀末大魔王みたいなのがいて、それ倒してこーい!って王様からはした金を渡されて断れない命令されたりしちゃうんですか?」
「七瀬は用心深いですね、世紀末大魔王なんておりませんし、王様の断れない指令も無いと思います。それと、わたくしも魔法を使えます。簡単なものになってしまうと思いますけれど」
ゲームと違って大魔王はいない平和な世界っぽいね。でも、それなら私じゃなくていいのではなかろうか?
「大魔王いないんですね、良かった。でも、なぜ私なのですか?他にも特別な才能を持って生まれた人とかいなかったのですか?」
「それはですね、わたくしより上位の神が決めたことなのです・・・わたくしは七瀬が安心して新しい世界で過ごせるよう、そして才能を開花させられるよう、サポートするのが与えられた役割なのです」
神様の目が少し曇った。逆らえない上司の業務命令のようなものなのだろうか?あまり聞いてはいけない話っぽいから気を使ってしまう。とにかく偉い神様に私が選ばれたってことしかわからないんだね。今後は女神様の目が曇らないように気をつけよう。
「なんというか、神様の世界も大変なんですね・・・」
「ええ、神の関係は人間関係より複雑なのかもしれません・・・」
これはもう新しい世界に行く以外に選択肢がなさそうだね。私がわがまま言って神様上司に怒られちゃうのも可哀想だし。
「わかりました、私がんばって新しい世界でやって行こうと思います」
うん。一度死んじゃったのに異世界でもう一度やり直せるなんて、お得な気がしてきた。まだまだやりたいこともいっぱいあったし、全て新しい世界で夢をかなえればいいよね。よし、がんばろー!
・
「では七瀬、さっそく新しい世界へ参りま・・・」
と女神様が言いかけた声をさえぎる。
「ところで女神様、お名前を教えて頂けますか?」
きっと、いかにも神々しく、その美しい姿に負けない素敵な名前に違いない。
「そうでしたね、わたくしは『#>WNR△』と申します」
「えっ?」
「ですから名前は『#>WNR△』・・・あっ、ごめんなさい。人族には聞き取れないような音階なのかもしれません」
「音階・・・ですか・・・」
イメージとしてはファックスを間違って送ってきたときのピーヒャラ音や、聴力検査のときの高い音に近い。これは私にとっては、とてもじゃないけど言語ではない。もし新しい世界で周りの人が「ピーヒャラ、ピーヒャラ」と会話していたら、パッパラパーになって確実に初日で脱落だ。先に対策しておかなきゃまずそうだね。
「あの、もしかして新しい世界で私ってば他の人たちと意思疎通が全くできないところからの激ムズスタートとかないですよね?」
「今のは神族語とでも言っておきましょうか。この音はわたくしたち神や、それに近い存在しか使わないので大丈夫だと思います」
女神様は神族なんだ。ってことは人間は人族かな。
「それと、この星に関わりのある神は惑星テリアの衛星・・・そうですね、地球でいうところの月の裏側あたりが拠点とでも申し上げましょうか、まず会うことはありませんよ」
「新しい世界はテリアっていう星なんですね・・・わかりました。でも名前呼べないと不便です。なんかニックネームみたいなのとか無いんですか?」
あ、ニックネームもピーヒャラ音だったら意味ないじゃん。もう女神様って呼んじゃっていればいいのかな?でも他にもたくさん女神様がいたらどうしよう、メガレッド、メガブルーとか呼ぶの失礼だよね。
「わたくしニックネームなんて付けてもらったことないですし・・・」
あ、女神様ってばまた目が曇って悲しそうな顔になっちゃった。また聞いちゃいけない系のお話だったのかしら。こう見えて私はけっこう空気が読める子なのだ。
「そっ、それじゃあ私が付けてあげますっ!」
女神様の目に光が戻ってくる。
「あら素敵!お願いしてもいいかしら?」
「まっ、任せて下さいっ!」
ふう、わりとナイーブなのかもしれないね、この女神様。
さてと、新しい名前かぁ・・・私、名前付けるの好きなんだよね。
「うーん。では、ゲレゲレ」
「そんな魔獣みたいなの嫌ですっ!」
「えー、じゃあーもょもと」
「発音しにくいではありませんか!」
「†宵闇の来訪者†なんてどうですか?なんかかっちょいい!」
「・・・。」
「駄目なんですか?じゃあー・・・」
いけないいけない、ネトゲの初期設定で数時間悩んで遊べる子だった私が本領を発揮してしまった。確か神様は月の裏側に住んでいるようなことを言ってたよね、だったらぁー・・・
「決めた。アルテミス!」
「あら、素敵な響きのお名前ね!先ほどまでのはなんだったの?」
「ごめんなさい、つい前世の記憶が邪魔をしてしまって。それではこれからはアルテ様って呼びますねっ」
「アルテミス・・・アルテ様・・・うふふっ」
よかった、なんか嬉しそうにしてるから気に入ってくれたみたいだ。でも、神様に名前を付けるなんていう大それたことしちゃっていいのかな。
「では七瀬、さっそく新しい世界へ参りましょう!」
「ちょっ、ちょっと待って下さいアルテ様っ!早い!早いですよ!」
なんだかすぐにでも異世界に向かいたそうなアルテ様に待ってもらい、先に確認しておかなきゃならなそうなことをゆっくり考える。
私はけっこう慎重な子なのだ。
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