第4話 街に行こう!①

目が覚めると、あたりは真っ暗で、レイは眠っていた。レイも疲れていたんだろう。


川のことを思い出したから、すぐそこにある川まで行こうとした。すると

【どこに行く?まだ暗い。大人しくしていろ。】と、尻尾で身動きが取れないように囲まれた。

「まだ確認出来てないのは顔だけだから、顔を見たいの。それに、川はすぐそこよ、大丈夫でしょ。」

【なら、明るい時の方が見やすいだろう。もうすぐ夜が明ける。しばし待て。】

結局、動こうにも動けないので、レイの尻尾をモフモフして待っていた。


しばらくすると、明るくなってきた。

チラッとレイを見ると、もう少し待てというように見つめてきたので、大人しく待っていた。


太陽が出てきたので、もういいかと尋ねると

【いいぞ。歩きづらいなら俺に乗るか?】と言って、屈んでくれた。

すごくありがたかった。

しょうじき、この身体にまだ慣れていなくて歩きずらかったのだ。

「よいしょっ。おぉ、座り心地がいい。」

【しっかりと掴まれよ。】

そうは言っても、レイは落とさないように慎重に歩いているので、そんなに掴んでなくても大丈夫だった。


川について、降りるために屈んでもらった。


初めて自分の顔を見て、驚いた。

一枚だけある唯一の私の小さい頃の写真と、そっくりだったから。

固まっている私を不思議に思い、レイは私の顔を覗いてきた。

【大丈夫か?その顔は嫌いなのか?俺は可愛いと思うぞ。】

「え?私、別に可愛くないよ。もっと美人な子は大勢いるし…。懐かしい…。あの頃はまだ、良かったのに。」

【いや、アヤネは全然可愛い顔をしているぞ。それと、何が懐かしいのだ?】

「…私ね、出来損ないと言われ続けてきたけど、入園式に、1回だけ写真を撮ったことがあるの。他の子が撮ってて、真似したかったんだ。その日までは普通に優しかったの。でも、幼稚園ですごい可愛い子が同じ組にいてね。私は負けてるから、勉強をしろって。その日から厳しくなってったなぁって、懐かしくなって。」


まだ優しかった頃の思い出は、嫌な思い出でほとんど忘れていたけど、思い出すと嬉しくなるようなことばっかりだった。

【そうか。ずっと愛されていたらよかったのにな。でも、今は俺がいるだろ?心配することなんてないさ。】


きっと、私はその言葉が欲しかったのだろう。愛されたかった。心から思われていたかった。心配されたかった。どれも叶えることは出来なかったが、この世界では、レイがいるからうまく生きてける気がした。


「ありがとう。…これからどこに行けばいいのかな。レイはどこに行きたい?」

【行きたい訳では無いが、街にはいった方がいいと思うぞ。】

「街?親探し?」

【それもあるけど、違う。昨日は俺がいたから大丈夫だったが、夜は魔物がいる。ずっと夜で寝泊まりは危ないから、とりあえず泊まろう。門番は、親なしで俺がいると色々聞いてくるだろう。異世界のことは話さず、上手く話を作ってくれ。俺のことは、フェンリルで、従魔契約しているから安全だと言ってくれれば問題ない。あと、8歳っぽい口調でな。】

「分かった!早速行こう。町はどこにあるかわかる?」

【あぁ、また上に乗るか?】

「乗る!」


レイは、さっきは近いからと歩いていたが、少し離れているからと、走っている。それでも、風がないのはレイが魔法を使ってるかららしい。魔法は便利だね。


数十分たった頃、街が見えてきた。

大きな壁で囲まれていて、中は見えない。門には、門番が二人いた。


私たちはかなりの速さで走っていたので、近づけば近づくほど、門番たちは手に持っている槍のようなものを突き出していたが、その手はかなり震えていた。私はレイに速度を落としてとお願いすると、ゆっくり走ってくれた。

門番も、震えがおさまっていた。


門に着いたとこで、レイに屈んでとお願いしたが、【何が起こるかわからないから俺の上にいろ】と言うのでそのまま乗っていた。


「あ、あの〜。そこのお嬢さん、ちょっといいかな?」

「なぁに?」

「あ、いや、その…。狼から降りてくれるかな?話しをしたいんだけど…ヒッ」


レイが、近づくなと威嚇したら、門番の一人がすぐに、後ろに下がってしまった。もう一人が仕方ないとばかりに出てきた。


「降りなくてもいいから、俺の質問に答えてくれるか?」

「うん。いいよ!」

「まず、一つ目。君の名前は?」

「藤本綾音!8歳よ。」

「そんか。歳も言えてえらいな。次、二つ目。親はいないのか?」

「…。お父さんね、病気でね、薬もらうお金が無いから森に行ったの。そしたらね、私、どれが薬作れる草かわからなくてね、家に帰ったの。」

「調べないで家を出たのか?」

「うん。だから、お母さんに聞こうとしてね、家に帰ったの。でもね、家が開かないの。それでね、窓が開いてたからね、外にある物を台にして家に入ったの。そしたらね、その部屋は私の部屋で、すごく荒れてたの。」

「部屋が荒れてた?」

「うん。足音が聞こえてね、隣の部屋に行く音がしたの。隣はお母さんの部屋でね、お母さんの叫び声がしたの。気になって部屋を覗いて見たらね、お母さんが壁に張り付けられててね、たくさん血を流してたの。ビックリして、音を立てちゃったから逃げようと、外に繋がる扉に走ったの。そこでね、…うっ、お、お父さんがね、口から血を出してっ…ヒック。そ、それでね、お腹が赤いのっ。でもね、足音がっ、近くなってね、私、怖くなって、…うぅっ。それで、家を出たの。走って逃げてねっ、息が苦しくっ、なってね、もういないの確認して…。、だ、だから…っ。も、もう、お母さんも、お父さんも、いないのっ…ヒック。」


今まで泣けなかったぶん、ここで涙をながせたのはよかった。私、ナイス演技!と、思っていたら

【アヤネ、凄いじゃないか。演技だとバレないと思うぞ。8歳のように出来ているし、我慢できずに泣くというのはいい考えだ。】と、レイに褒められて嬉しかった。


「そ、そうか。辛かったな。その、質問の続き聞くぞ?三つ目。どこから来たんだ?」

「…ずっと、向こうの森。」

「森?どうして森に住んでたんだ?」

「誰もいないとこで静かに暮らしたいって、お父さんが言ってた。」

「そうか、分かった。次、四つ目。その狼とはいつから一緒にいるんだ?」


昨日初めてあった、紳士狼ですよ〜。と、頭の中では本当のことを思いながら、偽りを口にした、

「走り続けて、途中で木の根っこに引っかかっちゃったの。それでね、歩けないくらい疲れてて、痛かったの。その時はお昼くらいで、お日様が暖かいからそこで寝ちゃったの。起きたら真っ暗で、怖くなって。そしたら、近くの草むらに何かが動いてたの。動かないようにじっとしてたら、そこから熊が出てきてね、私をじっとみて来たの。だんだん近づいてきたから、後ろに下がってったんだ。そしたら、クマが飛びかかってきたの。怖くて、目をつぶってたら、何も起きなくて目を開けてみたの。そしたらね、目の前に狼がいたの。その狼がこの子よ。」

「では、その森であったんだな?五つ目。この狼はなんなんだ?」

「うん。それからはずっと、一緒にいてくれるの。この狼は、フェンリルっていうの。名前はレイだよ。」


フェンリルという名を知ると、固まったあとに、もう一人の門番に何かを伝えて、また戻ってきた。

「その、フェンリルは、さっき威嚇しできたが、街の人たちには何もしないよな?」

「レイはそんな事しないよ!」

【そうだぞ。俺はアヤネになにかするやつには容赦しないが、何もしてこないのならどっちでもいい。】


門番は、また固まった。今度は、口を大きく開けて。

「し、喋れるのか…。」

【当たり前だ。ずっと生きてきたのだから、話すなんて簡単な事だ。他の聖獣もよく話すぞ。まぁ、人前にはなかなか現れないけどな。】

「そうか。アヤネちゃんと言ったな。辛いことまで思い出させて悪かった。質問に答えてくれて、ありがとな。あと少し、付き合ってくれないか?」


長くなりそうな予感に、遠い目で

「あ、はい。大丈夫です。」と答えたのは、演技が出来ないほど嫌だなと思ったからだった…。

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