第7話 遊園地
ある晴れた昼さがり
僕は遊園地に来ていた。
賑やかな音楽
元気な子供たち
楽しそうなカップル
うん
不愉快だ。
しかし逃げることは出来ない。少女がぎゅうっと手を握って来ているからだ。
ここに来たいと言い出したのは少女だった。
傍を離れたがらないこと以外にはほとんどわがままを言わない少女に根負けし、連れてきてしまった。
正直後悔している。
何が楽しいのかよくわからないが、少女はオモチャの馬に乗ってご満悦だった(一緒に乗せられた)。
コーヒーカップで目を回し、お化け屋敷で怯える。そしてソフトクリームに目を輝かせる。教科書(あいつに無理矢理読まされたマンガ)通りの反応だった。
最後に夕焼けに染まる観覧車に乗ったのも教科書通りだった(僕たちはコイビトではないけど)。
「えへへ、いつもありがとう」
考え事をしていたら、少女が照れたように笑いながらそう言って来た。
「なんのことだ?」
「お父さんの親友ってだけで、いつもわたしと一緒にいてくれて…。わたしの相手、正直面倒だったでしょ……?」
「そうだな」
即答すると、少しは否定してほしいと少女は口を尖らせる。やっぱりめんどくさい奴だ。
「今やっぱりめんどくさい奴だって思ったでしょ!」
お前はエスパーか。
「伊達にいつも引っ付いてませんよ。ふふん」
そうですか。
「とりあえずお礼がしたいから目を閉じて?」
ものすごく嫌そうな顔をしていたのだろう。少女は半ギレで「早く!」と怒鳴る。
しぶしぶ目を閉じると「いい?! いいって言うまで目を開けちゃだめだからね!」と怒鳴られた。
まさかお礼で怒鳴られようとは……。そんなことを考えていると、頬が柔らかい感触に包まれ、やがてなにかが顔に近づけられ、唇に押し付けられた。
「もう開けていいよ」
えへへと笑う少女の顔は、夕陽のせいで真っ赤だった。まあ、それでいけば僕の顔もなんだろうが。
「……わたしの、ファーストキスだからね……?」
ファーストキス? はて、そういえば僕はキスしたことがあったろうか。まるで思い出せない。ひょっとしてさっきのがファーストキスになるんだろうか?
そんなことを少女に話すと、なぜかとても嬉しそうにしていた。
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