第5話 同居人

ある曇った日曜日の昼下がり。


 僕は以前と変わらず、庭で紅茶を飲みながら本を読んでいた。ふいに車の音が聞こえ、誰かがここに近づいていることに気づいた。一応門まで行くと、ちょうど車からスーツ姿の老人と少女が降りてきた。老人の胸元のバッジから彼が弁護士だとわかった。また少女の方はあいつらの娘だった。


 その老人から聞かされた話は衝撃的だった。あいつは自分達になにかあったとき、身寄りの無くなる少女の未成年後見人に僕を指名していたらしい。しばらく逡巡していたが、痛いほどに腕を掴んでくる少女を見て引き受けた。

こうして僕にはじめての同居人ができた。


 その日の夜

 何がなんでも腕を離さない少女をなんとか引き剥がし、与えた部屋に放り込んだ。仕事をしようとパソコンを開いたが、思いの外疲れていたらしい。気づいたら寝ていた。

 そんな僕を叩き起こしたのは、辺りをつんざく獣のような叫び声だった。何事かと思い部屋を出ると、叫び声の発生源は少女の部屋だった。

 おそらく少女が騒いでいるのだろう。

 この時ばかりはこの屋敷が人里離れていることに感謝した。これが住宅街だったら苦情ラッシュだろう。とはいえこれでは僕が眠れないので部屋のドアを開けた。


 少女はベッドの上に膝を抱えて座っていた。寒いのだろうか? ガタガタと震えながら自身の身体を抱き締め、涙と汗を滝のように流している。そして獣染みた叫び声を上げ続ける。

 ふと昔戯れに読んだ医学書に乗っていたPTSDという症状を思い出した。

 冷静に観察している僕に気づいた少女は、手足を縺れさせるような変な動きでしがみついてきた。


 痛い……。


 子どもとは思えない腕力でしがみつかれ、背中には爪が刺さっている気がする。引きはなそうとすればするほど、苦痛を与えてくるので、仕方なくそのままにさせてやった。

 しばらく泣きじゃくっていたかと思うと、いつの間にか少女は寝ていた。やれやれと思い引きはなそうとすると、また万力の力でしがみついてきた。

 無理矢理引き剥がすことも考えたが、これ以上やると次は噛みつかれそうだ。いや、下手したら肉を食いちぎられるかも……。

 仕方ないのでそのまま少女に与えたベッドに入ることにした。

 少女の体温を感じていると、いつの間にか寝ていた。


 次の日。生まれてはじめて寝坊をした。

 今までどんなに疲れていようと、体調が悪かろうとそんなことしたことなかったのに。


 なぜだろう?

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