第3話 喪失

身を裂くように寒い雪の日曜日


 滅多に鳴らない年代物の電話が鳴り響いた。電話をかけて来た女の泣き声が不快だ。


 あいつが死んだ。


 交通事故らしい。あいつと助手席にいた妻は即死した。その日学校に居た娘だけは助かったらしい。


「俺もあいつも、親の愛を知らない。だから娘にはたくさん愛情を注いでやりたい」


 そんなことを言っていたことを思い出す。


 皮肉なもんだ。


 笑いが漏れる。


 電話口の相手は怒っているようだったが、とにかく葬式に出てほしいということはわかった。


 果たしてこの屋敷に喪服はあっただろうか?


 そんなことを考えている自分の心は今、喪失感を感じているだろうか? 悲しいと思っているのだろうか?


 それとも、なにも感じていないのだろうか?


 わからない。しかし涙が流れる気配はなかった。

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