第2話 親友の子どもと絵本

ある秋風薫る日曜日


 あいつとその妻、そして2人の娘が屋敷にやって来た。ここの庭は観光地ではないのだが、あいつの妻はここの庭が気に入っているらしい。僕が紅茶を飲んでいると、娘である少女が近づいてきてじぃっとこっちを見上げてきた。


「絵本読んで!」


 にこにこと笑っている少女の手には絵本どころかなにもない。顔をしかめないようにしながらこの子の父親であるあいつを見たが「読んでやれよ」という視線が返って来た。仕方なく少女を屋敷の図書室に連れていくことにした。

 図書室に連れ込むと少女は、うわぁという感嘆の声を上げながら駆け出していった。その様子を見ながらため息を着くと、僕は窓辺に置かれたソファに腰を下ろした。しばらくすると少女が1冊の絵本を携えて戻ってきた。


「これ読んで!」


 少女が手渡して来た絵本にはサンタクロースの格好をした幼い少女が描かれていた。はあ、ため息をついていると少女が膝によじ登ってきたので、しぶしぶ絵本を読んでやっていたが、しばらくすると少女は人の胸を枕に寝てしまった。


「おい」


 声をかけても目覚める気配のない少女にまたため息をついた。ふと窓から見える庭に目を向けると、一組の夫婦が寄り添い、談笑しながら花を眺めていた。そのことに僕がぶつけようのないイライラを感じていると少女が「んぅ……」と妙に艶かしい声をあげながらすり寄ってきた。そういえば、誰かの体温を感じるのはいつ以来だろうか?そんなことを考えているとなにもかもがどうでもよくなり、子どもの高い体温を感じながら、何とはなしに少女の頭をゆっくりと撫でた。

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