第182話 既視感

 結婚式の招待状が届き、返事をしてから一月近く真秋達に特にイベントは発生しなかった。


 その代わりクリスマスに向けた女性陣の企みの方が真秋としては気になりつつあった。


 クリスマスプレゼントという名目で、栗とリスプレゼントというボケをかましそうな茜。


 白い袋の中にはいって自分がプレゼントと言いそうな茜。


 悠子や瑞希とは違い、何かしてきそうだと真秋は想像している。




 まだまだ日にちはあるといっても、そういったイベント事に何も計画をしていないはずもない。


 瑞希の父親の裁判などはどの道直ぐに進むわけもいが、ある程度は結果が想定できる。


 心神喪失など病を理由に無罪にはならないだろうと、真秋達は踏んでいた。


 そちらの心配がほぼないとなれば、後は自分達の思うように生きていいのである。


 尤も、唐突なイレギュラーとして現れはしたが、ともえとの決別が済んでからはかなり自由にやってはいた面々。


 ようやく、再度自由に出来るようになったのであった。


 そんな時に届いたかつての同級生の結婚式の案内。


 住所を教えていない相手なのに、案内が届いたのは何故か。


 直ぐに明らかにはなるのだが、本当に世間は狭いとしか言えない事が世の中には多々存在する。





 今回結婚式の案内を送付してきた人物は、名前を見れば真秋は「あぁ懐かしいな。」という人物であった。


 中学時代の同級生であり、名前は一色日影いっしきひかげ


 当時真秋とはそこそこ交流はあったものの、深い付き合いではないがお互い知っている程度の人物でしかない。


 しかし深く掘り下げてみると、かつて月見里瑞希が入院した時に王様ゲームなどに乱入してきた同僚、一色光琉いっしきひかるの血縁者、妹である。


 それが分かったのは瑞希の職場に迎えに行った際、姉である光琉と一緒に居たのが日影であった。


 その時は姉妹の会話に邪魔するのも悪いと思い、真秋は「結婚おめでとう。」は当日にとっておこうと、その時は「久しぶり」と軽く挨拶をした程度だった。


 

 ただし、招待状は悠子と瑞希、環希にも来ている。


 この時点では友人枠だなと推測はした真秋であるが、理由についてはわからなかった。


「あ、私はその日はがあるから、みんなでしてきて。」


 茜は用事があるようで、一人だけ別行動にするのに若干の罪悪感を覚えてしまう真秋だった。







 事前の推測通り二つの友人席の一つには真秋と悠子、そして瑞希・環希は着席をしている。


 真秋の身の周りの年齢順は、環希・カレン、一色姉、瑞希(同学年)・茜と一色妹(同級生)、悠子の順である。


 一色日影とは高校が別だったため、暫く疎遠となっていた。故に真秋達が日影の高校や社会人時代を知る事はなかった。


 正確には成人式の時に若干言葉を交わしたりはしているが、当時はともえとラブラブだったために他は意識の範囲外であった。


 真秋は友人テーブル、そして会社の同僚テーブルを見て違和感を覚えた。


 着用しているスーツやドレスはどれも見事に美しく、綺麗なのだが笑顔がどこかぎこちない。


 笑顔を見て、これは営業用スマイルだと分かる感覚と似ていた。




 そして席に座る悠子達とは違い、茜はスタッフとして正装し働いていた。料理を運んだり飲料などを運んだりしている。


 残念ながら司会等ではなかった。茜の用事とは会場スタッフの事であった。


 この披露宴会場はかつての事件が起こったホテルである。


 つまりは田宮未美がオーナーであるこのホテルは、茜が職員として働く事に何の問題もないのである。


 このホテルを会場に選んだのは新婦である一色日影であった。


 日影から披露宴の前に会った際、自分の強い薦めでこの会場を選んだと聞いていた。


 元はこのホテルで働いていたから……という事だった。



 披露宴は滞りなく進んで行き、新郎新婦がお色直しという事で一旦席を外す。


 その間に【新郎新婦の軌跡】という事で、出会いからまでが静止画が順次切り替わりスライドしていく。


 二人の出会いは高校時代、部活のエースとマネージャーという事で2年の頃から付き合いが始まった。


 二人共初めての恋人という事で色々燃え上がり、一度も別れる事無く同じ大学へ進学。


 おかしなサークルなどもなく、普通に卒業を迎える。


 会社こそ別々となったものの、二人は愛を育み現在に……


 そこで少し会場の空気が変わる。騒めき始めたのである。


 一方そのころ……という見出しが現れ表示されてくる映像の数々。





 何の変哲もないデート風景。見る人が見れば、「けっこのリア充めがっ禿げろ、もげろっ」というシーンの数々。


 中には服装的にやや際どいシーン等もスライドしていく。


 しかし、新郎のの横に映るのは一色日影ではなかった。


 会場がざわつくのも無理はない。そしてこのざわつきさえも営業的なものを感じる真秋であった。


 そして最終章と思われる場面へと切り替わる。


 収音マイクや編集作業の賜物か、音声が大きくなったのに雑音が殆ど感じられなかった。


 そのため、声だけが綺麗にはっきりと響く。


 新郎と新婦が向かい合い、互いを見つめている。



「私は……誓い……ませんっ」


 


 式から参加している真秋達だが、その時は新婦は随分聞き取り辛い声だなと思っていた一同。


 式の時には誓い以外は、ほぼ何を言っていたのか聞き取れていない。


 誓いの口付けはしていたし、幸せそうな表情から誰一人その後の展開がおかしくなるなどとは思っていない。


 抑結婚式や披露宴で婚姻を破談や破棄するような男女が……いるはずもないというのは盲目であるが。



「ん?」


 どこかで同じような光景を見たな……と思う真秋だった。

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