第175話 就寝刑
豆電球のみが点灯し、灯りはオレンジ色のその一点のみの薄暗い部屋に布団が3枚敷かれている。
其処にはこの部屋の本来の主が寝ている。
その主の周りには4人の女性が所狭しと並んでいる。
布団で横になっている住人は全員既に夢の中。
その布団には部屋の奥から、悠子・茜・真秋・瑞希・環希が並んでいた。
それぞれが身動きもろくに取れない程に密着し、部屋の中には女子の香りを残して眠っている。
女の中に男が一人と、中学生なら揶揄されてしまう環境で、魅惑のパジャマ達に挟まれて眠っている真秋は、羨ましいを通り越して大変だなと思われるだろう。
右手を動かせば茜の身体に、左手を動かせば瑞希の身体に触れてしまう。
実際触れていないわけではない、半身が覆いかぶさっているのだから。
手を動かしてしまうと、敏感な部分に触れてしまう恐れがあるというのが、眠りに落ちる前の真秋の思考だった。
茜に限れば寧ろウエルカムカモンな状態だろうけれど。
少し前の真秋だったらここまで女子に触れる事が出来ただろうか。
良くも悪くも真秋の女性不信はほぼ治っているのいってもおかしくはない。
後はその下半身機能が回復すれば完治といえるだろう。
真秋の身体は暑いのか熱いのか、少し項垂れているようだった。
汗をうっすらと掻いており、寝苦しそうにしていた。
眠っているのに少し呼吸が荒い。窮屈で身動きが思うように取れないからだろうか。
落ち着いて眠れないこの環境は、まさしく【就寝刑】と言えよう。
☆ ☆ ☆
この就寝刑の決定は一日前の出来事に遡る。
悠子と茜が風呂で真秋の背中を流した事に起因していた。
スク水と全裸についてはともかく、風呂で裸の付き合いをした事。
その後一緒の布団で寝た事を、黙っているのは卑怯と考えた悠子が翌日瑞希に報告してしまう。
前日一緒の布団で寝た時は特段何もやましい事はしていない。
真秋が茜のエロ対策にと、茜を後ろ手に手錠を嵌めて寝たくらいだ。
川の字で寝る事自体に対する真秋の譲歩だった。
風呂場での前科があるために茜もしぶしぶ了承した……と真秋は思っている。
実のところは、茜は茜でそういうプレイだと認識する事で、勝負パンツは何もしていないのに人には言えない状態になっていた。
途中、トイレに行きたくなった時には……大人の事情でお漏らしはなかったとだけ。
お漏らしはしなかったけれど、真秋は手錠を後ろ手にしたのはまずかったかと反省していた。
しかし前で拘束だと何かしてくるのではという不安もあったので、後ろでに手錠拘束をしたのだけれど、結果的には失敗といえた。
真秋はもうこんな事二度としないと自分に誓った。
赤ん坊ならまだしも、他人のパジャマのズボンやパンツを下ろして、放尿を見て、ウォシュレットのボタンを押して、紙で他人のおまたを拭いて、立たせてパンツやズボンを穿かせたなんて誰にも言えない。
手錠を外してやれば良い話なのだけれど、その肝心の手錠の鍵は……
何故か悠子のパジャマのポケットに入っていた。
鍵を取ろうとポケット付近に触れると、夢の中とリンクしているのかは別にして、悠子から艶やかな声が漏れていたからだ。
手を離すと静かになり、触れると声が。とてもではないけれど鍵を取る事が出来なかった。
その結果が茜のトイレに付き合うだった。
それ以外には特に何もなく、大きな川の字は朝を迎える。
真秋が目を覚ました時に、悠子は抱き付いており、茜に至っては脇の当たりに顔を埋めていた。
ほぼありのままに、退院してきた瑞希に悠子は報告する。
自分達だけ占領してしまったようで申し訳ないと思ったのだろう。
それを聞いた瑞希は羨ましがり、面白がった環希が便乗し5人で横になって寝るという就寝刑が発動する事になった。
問題はその位置関係であり、悠子は前夜に真秋の横になったからと身を引こうと考えたけれど、悠子と同じように卑怯な事が出来ない瑞希がある提案をする。
勝負をして勝った人から順に寝る位置を決めようと。
これまた面白がった環希は更なる提案をする。
「彼ぴっぴに決めて貰うのはどう?」
勝負はどこにいった?と真秋は反論する。それにその彼ぴっぴとは何ぞや?と。
「もうあなた達は付き合ってるのも同然でしょ?だから彼氏で良いじゃない?」
「その彼ぴっぴとかいうJKか頭の緩い人が使いそうな言い方……一番年輩n……」
「年齢の事は禁句よ?」
笑顔が怖い環希に押され、真秋は頭を下げる。
そして彼氏という言葉に反応し膠着している人物が二人。
顔を赤くして固まっている悠子と瑞希。
部屋に差し込む太陽の光が、撮影等で使うレフ版を当てているかのようにピンポイントで二人の頬を照らしている。
恍惚の表情を浮かべている変態一名……おまたを挟んで妙な動きを見せているのは安定の茜。
「膝枕をして、どの膝枕が気持ち良かったかを真秋君に点数判断してもらうのが良いかと。」
環希はいつの間にか真秋君と呼ぶようになっていた。
「それは俺が点数付け辛いので却下します。普通にじゃんけんかあみだくじで良いじゃん。」
既に大の大人が5人横一列になって寝るという事自体は、いつの間にか納得しているかのような真秋の返しだった。
「ではあみだくじでお願いします。」
瑞希がそれで良いならと、真秋も環希も承諾し納得した。
悠子もそれに応じ、茜は「ちぇ~」という感じで承諾した。
真秋はセンターなので図面に書いた☆マークが決定している。
その☆の両脇には2番と3番、つまりはあみだくじでこの2と3を引けば、夜中にラッキースケベが起こり得る可能性が特大というわけだ。
ここのところ仕事をしていないラッキースケベ神がこの機を逃すはずはない。
「あっみだっくじ~♪あっみだっくじ~♪引いてたのしいあっみだっくじ~♪」
ノリノリで歌いながら自分の書いたラインを辿っていく茜。
意外にも抽選という事にノリノリであった。
当たるも八卦当たらぬも八卦というように、どこになっても何かが起こると期待しているのだろう。
最初になぜ茜からスタートしているか。
辿る順番はじゃんけんで負けたビリからと決まったからだ。
茜、環希、瑞希、悠子の順であみだは行われる。
「さぁ、ラッキースケベが起こるであろう2番か3番、おなしゃす!」
随分と軽い、学生時代では恐らくは言わない「おなしゃす」のような若者言葉を口にする茜。
「てってれー♪やったね、2番右側、小澤茜っ。触っても脱がせても弄っても良いんだからねっ」
茜は拳を突き上げ喜びを露わにしている。少しがっかり気味の悠子と瑞希。
まだあと3番が残っている、大丈夫と自分に言い聞かせて。
「流石に持ってるわね。これが経験者の余裕……しかし経験の数では負けてないよ、次は私ね。」
「態と触れたり脱がせたり弄ったりするわけないだろ。引っ越ししたいのか?」
環希があみだを追う中、含みのある言い方をする真秋。
そして環希は外れと言って良いのか当たりと言っていいのか、部屋の入口に一番近い4番だった。
その様子にホッとする悠子と瑞希。
「一緒にやりません?」
瑞希が悠子に提案をする。最後に残るのが何であれ、最後にあみだをする悠子に対する配慮だろう。
驚いたものの、その提案を飲む事にした悠子は、「せーの」という掛け声の後、同時にあみだの線を辿っていく。
決められたラインを忠実に動かしていく。
右へ左へと渡りながら指先は下方へと向かう。
固唾をのんでその様子を見守る3人。
線は最後のゴール手前で止まる。
せーので紙を捲って結果を確認する。
「1番です。」と言って落胆を見せる悠子と、「3番でした。」と安堵する瑞希。
茜はともかく、瑞希は果たして真秋の真横で眠る事が出来るのだろうか。
未だに元父の影が脳裏に焼き付いていて、就寝時に異性が真横に居て大丈夫なのだろうか。
真秋はそこを懸念していた。
しかし言葉に出すのも愚門だなと、言葉を飲み込んだ。
前向きに生きようとしているかもしれないのに、態々思い起こす事もない。
紆余曲折のあみだの後、このようにして就寝刑は決まった。
瑞希・環希姉妹が退院したのは午後、迎えに行った真秋達と合流し昼は退院祝いに何故か近所の鰻屋に行く事になった。
百合鰻という、この辺りでは美味いと評判の鰻屋だ。
看板娘が注文を取ったり食事を運んだりしていた。
そんな豪華な昼食だったので、夜は昨日のカレーに決定する。
元々少し多めに作っていたので、もしかすると瑞希達姉妹も食べるのではないかと推察される。
流石悠子といったところでもある。退院後は姉妹二人っきりで過ごすか、真秋邸にお邪魔するか。
恐らくは後者だろうなと頭を過ぎっていたからの量だろう。
もし余っても三日目のカレーは焼きカレーとかカレードリアとかにすれば良いとも考えていた。
そのため悠子は朝、カレーに火を通しておいた。
二人増えた事で量が足らないかもと、夕方茜が追加を作って合体させた。
何のスパイスが入っているかは茜にしかわからない。
隣で悠子が一緒に作っていたのだから、怪しいものは入っていない。
普段カレーには入れない何かが入っていたとしても、食べられるものしか入れていないのは悠子も確認していた。
目を離したのは包丁を使う時と、火加減を見る時くらいのものだった。
香辛料を増やしているのは悠子も見ている。
タマネギは疲労回復、血液循環の改善、滋養強壮、精力向上などに効果がある。
ターメリックはストレスによるEDや精力減少の改善に、クミンには媚薬効果、コリアンダーは毒素を排出ということで精力にも結びつく。
フェヌグリークはボディービルダーの間では筋肉増量に加え精力増加、ナツメグは媚薬にも使われる。
一応、自然なものばかり。悠子も安心して見ていた。カレーには様々な香辛料が使われている。
疲れた時にはとりあえずカレー食っとけと言う人がいるのは、香辛料が様々な回復効果を齎すからである。
そして茜はこっそりブラックコブラの箱と袋を処分した。
時刻は17時過ぎ。この時真秋は買い物に出掛けていた。
近所の商店街へ、瑞希・環希姉妹と共に。
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