倖せの育て方

第173話 エロいのはなしって言ったのに……

 「本当に泊まらなくて良いの?」


 真秋はベッドで横になる瑞希に問いかける。


 付き添いは一人が定員なので仕方ないが、男手は……いらないようだ。

 寧ろ着替えたりとか、脱いだものとかが出るので恥ずかしいと。 


 当初の予定通り姉の環希が宿泊するという事で落ち着いた。


 「何?黄葉君、瑞希の着替え見たかった?脱ぎたてパ……」


 「お姉ちゃんっ!?」


 瑞希は悲鳴以外で一番の大きな声を出して抗議した。

 面会時間はもう殆ど残っていない。まだぎりぎり20時前ではあるが、大きな声は他の入院患者に迷惑となる。

 周囲は個室のため、大部屋よりは多少軽減されるとはいえ、実際大声は迷惑となってしまう。


 先程唇を重ねた一瞬の時程ではないにしろ、本日何度目かの赤面をする瑞希。

 揶揄ってるのは理解出来ても恥ずかしいものは恥ずかしい。


 「脱ぎたてパンティが欲しければ私いつでも脱ぐよ?」


 「お前は相変わらずだな。悠子もいるんだから教育に良くないぞ。」

 そろそろ悠子呼びにも慣れた頃だろうか、アクセントに違和感は殆ど感じられない。


 カーテンを摘まんで、モジモジしている悠子がいじらしく見える。



 「ってもう脱いでるのかよ。って見せるな、今見せるな。悠子も瑞希も困るだろっ。」


 環希はケラケラ笑っていた。他の患者に迷惑である。


 

 「今見せるなって事は後なら良いって事?言質取っ……」


 「言葉の綾って知ってるか?揚げ足取りって知ってるか?それともお前は態とやってお仕置きして貰えるとか考えてた?」

 こういう話は二人の時にするべきである。


 悠子の教育にも良くないし、初心な瑞希にも毒である。


 「いや、本当に黄葉君はモテモテね。あ、やっぱり私も貰っちゃう?」

 色々と収拾がつかなくなりループしてしまいそうだと真秋は思った。


 「環希さんも茜のエロネタに乗っかるような言動は慎んでください。」



 「私は流石にこの場でパンティは脱がないよ?トイレでならわからないけど。」

 個室病室のために、シャワーもトイレも付いている。


 個室にも種類があって大抵の個室はトイレだけ部屋に付いている。

 シャワーも付いているこの個室は……

 1泊10万超えもするVIPルームでもある。


 そんな中学生みたいなワイワイしたやりとりを経て、真秋は悠子と茜を連れて帰る事にする。


 「困った事があったら連絡ください。明日もまだ退院しないようでしたら夕方寄りますので。」

 環希に向かって言うので真秋は敬語で話していた。


 「瑞希も……怖い夢見たら遠慮なく頼って良いから。」

 呼び捨てで呼ぶようになって、今まで丁寧語で話していた会話は、徐々にタメ口となっていた。

 瑞希もどこかその方が良いみたいで、表情が軽く見える。


 「人が減ると、灯りが落ちると一気に寂しくなるから……」

 一度入院した真秋だからこそわかる事だった。

 もちろん看護師として働く瑞希や環希も、患者を見ていたのだから分かっているかもしれない。


 夜中の入院病棟はどこか怖いものがある。

 機械音が受付ナースステーションから定期的に響く。

 それ以外にはたまに看護師が歩く靴音だけ。



☆ ☆ ☆ 


 真秋は悠子と茜を連れて帰った。真っ直ぐ……買い物にすら寄る事もなく帰った。

 しかし真秋にとって問題が発生する。


 「今日だけで良いので同じ家にいれてください。」

 茜が90度身体を曲げて真秋に懇願していた。


 田宮未美の所でどんな修行をしていても、今日の事は中々に心に効いたようだ。

 救出直後や病院内では気が張っているので別として、帰ってきた事で感情がぶり返してきたのか、一人で家にいるのが辛いし怖い。


 「仕方ないな。今日は流石に色々あり過ぎた。一歩間違えば誰かが取り返しのつかない事になっていた可能性もあったしな。」

 真秋もそこそこなツンデレなので言葉がいまいち優しくはない。

 その中にあの発信機やこれまでの瑞希への送迎等に対する感謝の気持ちは含まれている。

 もちろんあの発信機の斡旋も。


 「でもエロいのはなしな。」

 

 真秋と悠子が手を差し伸べると、茜はその手を取った。

 二人に手を引っ張られて階段を上っていく茜達はとてもシュールだった。


 悠子と茜がいっしょに夕飯を作る。

 真秋は風呂を洗った。

 じっとしているとやはり張り裂けてしまいそうだからか。


 テレビをつける事すらしなかった。

 恐らくニュース番組では、瑞希の父が逮捕された事が報道されているはずである。

 四六時中そのニュースというわけでもないだろうけれど、数人の殺人にも関わった事だ。

 数秒で終わってしまうニュースでもない。


 二人が用意した夕飯はカレーだった。

 疲れた時はカレーを食っておけば良いという言葉が頭にあったのかもしれない。


 「大丈夫だよ、変なものは入れてないから。」

 流石の茜もカレーを塗ったくって私ごと召し上がれ?なんて事はしなかった。

 

 「入れたらてるてる坊主にして窓の外に吊るすわっ 


 吊るされる姿を想像して勝手に濡れるのまでは面倒を見ない真秋だった。



 夕飯のカレーは普通に美味であり、心が落ち着くようだった。

 悠子と茜の計らいで薬膳カレーにしていたおかげかもしれない。


 真秋も瑞希父の事を思い浮かべる事無く、夕飯を食べる事が出来た。


 「普通に美味かった。二人共料理上手いな。いつも食べているはずなのに、二日目じゃないのにカレーが染み渡ったよ。」


 その言葉を聞いて、いつも食事を用意している悠子はもちろん、茜の頬まで赤く染まっていた。

 真秋もそれなりにツンデレで、それなりに天然ジゴロでもあるようだった。


 食器を流し台に持って行きお湯をさっとかけて浸けておく。

 後程悠子か茜が洗浄する。その間に真秋は先に入浴を済ませようとする。


 これは女性陣二人が先に入ってと強く言うものだから、真秋も「二人がそう言うなら。」と先に入る事にした。 

 着替えを用意し脱衣所に置くと衣服を脱いでいく、目に入った息子を最近使ってないな……当然だけどとしみじみと思いながら。



 

 真秋が頭を洗っていると、がちゃっと風呂場の扉が開かれる。

 

 「その……お背中流します。」

 そこには全裸の茜と、流石に恥ずかしいのかスク水の悠子が立っていた。

 それに「お背中流してもよろしいですか?」という訊ねではなく、「お背中流します。」というやる事前提で風呂場に入って行く。

 

 「いや、そういうのはい……いいぃぃぃっ?」

 頭を洗っていたせいで声しか確認出来ていなかったが、洗い流し声のした方へ顔を向けると件の二人の姿が目に映った。

 茜はタオルで大事な所を隠す事すらしていない。左手に持ったタオルこそ胸元に持っていっているが、それは別に胸を隠すためではない。

 いじらしく甲斐甲斐しく、どちらかといえば羞恥から悠子がやるようなおどおどポーズとしてだった。


 漫画やゲームのような湯気は仕事をしない。

 タオルで微妙に隠れた左胸以外はばっちりと真秋の目に焼き付く事となる。

 


 「だからエロいのはなしって言ったじゃん!」

 

 お店に出なくなった時にやめたからか、ピアス等の跡もなくなり綺麗な身体となっている茜の裸体に、真秋は思わず見惚れてしまっていた。

 そして横に居るスク水姿の悠子にも少なからず見惚れていた。


 悠子は知らないだろうけれど、全裸よりもスク水や着崩れたスク水の方がえっちに見える事を。


 真咲は紺色ブルマー派だ。どうでも良い事だけれど。

 そして旧スク水も好きである。

 ともえとまだ良好な関係の時、たまに着衣プレーをしていた事がある。

 その時に多かったのが紺色ブルマーと旧スク水である。


 それを知っているからこその悠子チョイスでもあった。 

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