第166話 世界の中心で瑞希の名前を叫ぶ

 とある廃……


 灯りは外から入って来る月明りのみ。

 目が醒めた瑞希にはここがどこだか理解出来るはずもなく。


 身動きの出来ない、不自由となった身体だけが理解出来た。


 縛られた腕と足。

 痛むところこそないものの、容易に逃げ出せない事だけは想像出来る。



 「よう、目覚めたか。流石に寝てる間に色々奪うのもつまらないからな。待ったかいがあった。」


 舌で唇を舐める仕草は悪党よろしく厭らしくというよりは嫌らしく瑞希の目に映った。


 男……瑞希の父は立ち上がり瑞希の元へと近付いていく。

 月明りで隠れた父の顔が瑞希の恐怖を呼び起こしていく。


 「ひっ、ちか、近付かないでっ。」


 「おいおい、仮にも父親に向かってそれはないだろう。書類上は父親じゃなくなっても血縁だけは切っても切れないだろう?」


 瑞希の眼前まで移動すると、しゃがみ込んだ父は瑞希の頭を掴んで言った。


 「ひぐっ、痛いっ。」


 「おっとごめんよ。まだ乱暴するには早かったね。」

 微妙に語尾を優しくすることが余計に恐怖を煽る。


 「瑞希も知ってるよね、テレビでニュースくらいはみてるもんね。」


 父は……ポケットからナイフを取り出す。


 「ひっ」

 月明りに照らされてナイフはより一層に恐怖を与えている。


 「瑞希も知っての通り、河川敷で見つかった3人は俺の犯行だ。環希のところに瑞希の居場所を知る手掛かりがないかと忍び込んだ時にな。」


 「邪魔をするもんだから男をまずヤってしまった。女二人は逃げ出せないように縛って、男の解体ショーを見学させた。」

 あの時は悲鳴で煩いもんだからご近所様に聞こえるんじゃないかとヒヤヒヤしたもんだけどと繋げた。


 「女はそのままその部屋で暫く飼う事にした。なんせ出所するまでに溜まりに溜まったものを発散する方法が転がってるんだからな。」


 「好みではなかったが何度も利用して、頃合いを見て棄てようかと思っていたところで……」


 「瑞希の居場所、正確には勤め先がわかった。それからは俺が戻ってきた事を知らしめるために、一人また一人とバラして住まいの近くに廃棄した。」


 「日本の警察は優秀だからな、多分俺の犯行だともう気付いているだろうな。あいつらの膣内には俺の精液が残っていただろうしな。」


 「もう一度捕まって……多分死刑になるだろうな。その前に、本当に欲しかったもの……お前だ、瑞希。」


 「まだ純潔を守ってるんだろう?俺のためにとっておいてくれたんだろう?」


 「ち、違うっ」


 パシンッ

 「痛いっ。」


 父は瑞希の左頬にビンタを喰らわせる。


 「あまり痛めつけるつもりはないんだよ。破瓜の痛み以外はな。これでも少しは反省してるんだ。」


 大の男の力で張り手をすれば鼓膜が破けてしまうかもしれない。

 父はそれなりに、冷静に自分の叩く場所は見極めていた。



 「それじゃぁ成長した瑞希を確認してみようかね。」

 父は瑞希のシャツに手をかけると、ナイフを入れてそのまま縦に下ろす。


 「ひっ、やめっ。」

 引き裂かれたのはシャツ1枚、左右に開かれたシャツの下からはブラジャーが覗いていた。


 「可愛いブラだな。大人になっても可愛くて安心したぞぉ。」

 「ひぐっやめってっ、やめてっ。」


 「そんな泣かなくても良いだろう。ほら、御開帳~。」

 ピッとブラジャーの真ん中にナイフを入れると、シャツと同様下に布はあっさりと断ち切られる。


 そこから現れる乳房と少しの突起。


 「可愛いままで安心したよ。」


 そう言って父は瑞希の唇を塞ぐ。

 「うぐっ」


 突然の事で防御する事も出来ない瑞希。

 胸を狙うと思わせておいて唇を奪う。

 姑息かもしれないが、それは父にとっては狡猾的な手段として当然であった。


 無理矢理唇を奪っても、噛まれたりする恐れがある。

 恐怖を煽っておいて、違うところを奪うと思っていればどうしてもガードは緩くなる。


 「久しぶりの瑞希の味。大人しく服役していて良かった。」

 瑞希の涙は止まらない。嗚咽も止まらない。

 悔しさと悲しさと。


 「じゃぁ今度こそ……」

 父の手が半分現れている胸へと延びる。


 優しく掴んだ胸はかつて乱暴した時から殆ど変わっていない。

 父は実感していた。


 「乱雑に揉んでくれる輩もいなかったからか、綺麗なままだな。」

 

 抵抗出来ない瑞希、それを良い事に父は両方の手で胸を揉んでいく。

 ナイフを持ったままのため、視界に入る恐怖から瑞希は悲鳴を出す事すら出来ないでいた。


 「それじゃぁ……」


 スカートに手をやり、もったいぶる事もなく、父は切り裂いた。

 留め具があるため、一回で切り裂く事は出来なかったがスカートを割いた後、金具は普通に外していた。

 それならば最初から普通に外せよと思われるであろうが、そこは楽しみながらという父の余興だろう。



 「さ、このナイフを下に割いたら……久しぶりの瑞希の大事なところとご対面だ。」

 「瑞希はどんな形をしてるのかな?下の毛はどんなかな?生えてるのかな?生えてないのかな?」

 ショーツの端に指をかけ、ナイフの先端を当てていた。



 「ん?あ、ごめんね。恐怖を与えすぎちゃったか。」

 父はその違和感に気付いていた。

 瑞希の股間部分からもわっとした臭気が漂ってきた事に。

 ショーツの一部の色が変色してきた事に。


 「お父さんは気にしないぞぉ。なんせこれでもお前達のおしめを替えていたんだからな。」


 「小さい方も大きい方も、お父さんは気にしないからなぁ。」

 


 「じゃ、今度こそ……」





☆ ☆ ☆




 「なんだって?待ち合わせ場所にいない?ハンカチだけ落ちてた?」

 真秋は突然掛かってきた茜からの電話に、驚いて大きな声をあげた。

 周囲の人はその様子に驚いてしまう。


 「ごめんなさいっ、少し待ち合わせ時間に遅れたら……」

 茜が謝罪をするが、その言葉を最後まで言い切らせずに真秋は決断する。 


 「わかった。すぐ行くっ。」


 真秋は事情を説明し早退する事を伝える。

 即刻着替えて会社を後にした。


 


 「ごめんなさいっ。どんな罰でも受けるから……」


 「それは良い。少し油断していた。恐らくは数分、数十分程度の時間の隙を狙っていたのだろう。」

 「それよりも……」


 真秋はタブレットの画面を広げた。


 そこには何でも願いの叶うボールを探すレーダーのように、点で示す何かが映っていた。


 「そんなに遠くない。追うぞっ。」

 真秋はこんな事もあろうかと、瑞希の持ち物に発信機を取り付けていた。

 後に変態と罵られる事も厭わないと。


 もちろん、こういう事態以外で使う気はなかった。

 使わないままならそれでも良い。

 しかし使う機会が出来てしまった。


 「真秋君。私が画面を見ながら案内するから、運転に集中して。」

 姉である環希が案内を買って出た。


 「茜っ。連絡を頼むっ。」

 小澤茜は携帯電話を取り出すと番号を押して電話を始めた。



 

 レーダーに従い辿り着いたのは普通の事務所ビル。

 そこは何の変哲もない場所だった。

 町外れの廃工場の方がしっくりとくるのだが、木を隠すなら森の中という言葉ではないが、逆に怪しまれないと言えるのか。

 ある意味では父親は狡猾だった。


 本当に狡猾であればハンカチ等あの場に残したりはしないだろうけれど。


 「よし。俺は行って来る。」

 真秋はタブレットを受け取ると、建物の中に急いで入っていった。

 

 このレーダーでは横方向は分かっても縦方向は分からない。

 何階に瑞希がいるかまでは分からない。


 真秋に遅れる事僅か、茜と環希もそれに続く。

 

 一部屋一部屋確認する事4階に辿り着く。

 この建物は6階床。両極端な場合、最下階と最上階に別れて探された場合に直ぐに発見される。

 3階、ないしは4階は格好の隠し所と思えた。


 真秋は窓の隙間から中を覗くと、二つの影を捉える。

 片方はどう見ても探していた月見里瑞希だと理解出来る。


 血が上っており、叫んでしまいそうだが真秋はそこで息を飲んだ。

 今ここで大声を出したところで、鍵が閉まっていれば何も出来ずに終わってしまう。


 「茜、良い所に。開けてくれっ。」


 「了解。」

 真秋は茜に鍵開けのスキルがある事がわかっていたかのように即頼んでいた。

 それもそのはず、ここに来るまでの間に茜が鍵開けは任せてと言っていたからだった。

 あの方の元で、万一客とのトラブル時に逃げ出せるようにと教わったテクニックの一つだと言う。


 「開いたよっ。」


 時間にして3分も経っていない。

 このテクニックを他の機会に使わない事を切に願う真秋だった。

 しかし今この瞬間においてはとても頼りになる特技だった。


 真秋が扉を開けると、そのまま中へとずけずけと入っていく。

 

 二人の影を見つけると真秋は叫んだ。


 「瑞希ィィィィ、もう大丈夫だぁぁぁぁぁぁっ!」





☆ ☆ ☆

 

 「じゃ、今度こそ……」


 父がショーツに食い込ませたナイフをすっと下ろす。

 刑事ドラマにあるような、散々復讐だと殺人を重ねておきながら、最後の復讐相手を目の前にしておいて、のらりくらりとして結果的に復讐も果たせずに逮捕されてしまうようなマヌケとは違う。

 まるでそう言いたげな程素早い行動の父だった。


 ナイフがショーツを切り裂くと、左右にパカっと開くように中が露わになる。


 「おぉ、やはり瑞希は素晴らしい。この歳になってもまさか……」


 「ひっや、やだ……やめて……」

 ショーツを切り裂いた後、父は左手で瑞希の右腿を押さえつけていた。

 右手に持ったナイフをチラつかせながら左腿付近に構えているため、瑞希は左腿を閉じる事が出来ない。


 「御開帳~パートツー……」

 下卑た笑みを浮かべて、瑞希の秘所を拝もうと父は顔を近付けようと……


 「瑞希ィィィィ、もう大丈夫だぁぁぁぁぁぁっ!」

 父の行動を遮るような大声が部屋の中を木霊する。

 瑞希が絶望に染まるその一寸前、涙で濡れるその眼には、自らの名前を叫んだ真秋の姿を捉えていた。

 ヒーローは遅れてやってくるとは言うけれど、本当に手遅れになる前に瑞希にとってのヒーローは登場した。


―――――――――――――――――――――――――――

 後書きです。

 もう父のターンは終わりです。


 真秋、つい瑞希と大声で叫びました。

 何かが変わった瞬間です。

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