第157話 瑞希の告白③

 「ふぐぅっ……ぐずっ……わ、私が泣いてもっ、吐いても父はやめてくれませんでした。」


 俺が言葉を掛けられず、ただ苦し紛れに握った手は、ほんの少しだけ震えを緩めていた。

 今の瑞希さんにはそんな些細な事でも、勇気に安らぎに繋がっているのだろうか。


 「父が吐き出したせ、精液と……私の吐しゃ物とで、父の性器と私の身体は汚れてしまいました。」

 

 「なんでこんなことするの?と泣きながら聞いたら……」

 「お前はあいつの若い頃とそっくりだ。俺達が幼馴染だったのは知ってるよな?俺達の性的な関係は高校の頃からだが、お互いの事はちっちゃな頃から知っている。」

 「幼少の頃から瑞希、お前はあいつにそっくりなんだよ。だからどのタイミングでヤってやろうかとずっと考えていた。」

 「やりすぎずないように過ごすのは大変だったんだが……流石に我慢の限界だった。さっきのお前はな、あの頃のあいつが無防備な姿を晒していたのかと思えるくらいなシチュエーションだったんだよ。そんな所を見たらもう我慢は出来なかった。」


聞いていて瑞希さんの父への怒りが湧いてくる。握っている瑞希さんの手を強く握らないようにと気をやる事で冷静さを失わないようにしないと、何か言ってしまいそうだ。


 「あ、あいつというのは母の事です。写真で昔の母を見た事ありますが、確かに似ているなって思った事はあります。」

 瑞希さんが説明をしてくれているけど、あいつが母親だというのは想像がつく。

 どんな人だったか聞いたことがないので、人物像を想像する事は出来ないけど。


 「お前は俺の娘だ、あいつではない。だけどあいつの子供だ。もう一度あいつと出来ると思ったら……理性など捨ててやるよ。」

 「だけど、俺の大事なモノを嘔吐で汚したのは許せないな……」


 「父はそう言うと最初は平手打ちを左右の頬にしました。何度か叩くと興奮したのか、再び大きさを取り戻した性器で私の左右の頬を平手打ちしてきました。」

 「私が泣いてやめてと何度も言うと、それに業を煮やしたのか、拳を握って殴るようになりました。お前が悪い子だからと……」


 「口が切れて血が出てきました。鼻血も出ました。歯が折れなかったのが幸いです。」


 「醜くなった私の姿に冷めたのか、お前のゲロと血で〇〇〇と手が汚れたじゃねぇか、洗ったら続きするからそこで待ってろ……そう言い残し、父は風呂場に入っていきました。」


 「このままそこに留まっていたら私は全てを失う、そう思ったらなけなしの勇気と気力を振り絞って……無我夢中で逃げようとしました。」


 「震える身体でどうにか立ち上がって、衣服もろくに身に着けず、玄関に掛けてあったコートを一つ持って私は家を飛び出しました。」


 話を聞いていると、瑞希さんの父親は自分勝手なだけの性欲おばけにしか聞こえない。

 瑞希さんの肉親を悪く言うのは気が引ける……とは思わない。

 ともえも喜納も散々なクズだったけれど、瑞希さんの父親もそれに匹敵するクズだ。


 無理矢理自分の子供に対してと考えると、ともえ達以上かも知れない。

 

 「そこで……そこで真秋さんに出会ったんです。」

 

 俺は本当はもう思い出していた。

 ほんのさっきの事ではあるけれど。


 確かに会っていた。会っていたんだ。今の見た目と違うから結び付ける事が出来なかっただけだった。

 顔を腫らして、涙を流して、息を切らして、口や鼻から血を流して、精液と吐瀉物に塗れそれらの臭いをするコート姿の女の子に。


 もっともその時ランニングをしていた俺自身も汗臭かっただろうけど、そんな事はどうでも良い些細な話だ。


 あの時会った少女が今こうして再び俺の前に姿を現している。

 何がどうして今の瑞希さんを形成したのか、今の俺にわかるはずはない。


 「あの時の真秋さんの優しさがなければ……もしかしたらどこからか飛び降りていたかも知れません。」

 いつの間にか、瑞希さんは泣き止んでいて、俺が重ねた手はいつの間にか片方だけ握り返されていた。



―――――――――――――――――――

 後書きです。


 えちシーンを描写するとまた引っかかりますので……割愛です。当時の瑞希サイドとか親父サイドはね。


 嘔吐云々のところで気付いたのですが、「えずく」は京都の方言なんですね。二重で表現するところでした。

 方言だと意識せず使ってる言葉が、実は方言だと知ると色々難しくなります。

 

 そしてもう少しだけ瑞希さんの過去続きます。

 ボスケテに繋がるまでもう少し。

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