第156話 瑞希の告白②

※瑞希の過去の告白になるので会話多めです。



☆ ☆ ☆


 一瞬視線を逸らした先には柱に掛かっている温度計が見えた。

 室温は20度、湿度は出てないのでわからないけれど、先程まで快適に感じていたのだから可もなく不可もなくなのだと思う。


 しかし先程の瑞希さんの言葉で温度も湿度も、体感ではどのくらいなのかがわからなくなっていた。

 

 「小さい頃からスキンシップが過度な事なのは気付いてました。」

 瑞希さんは話を淡々と進めた。

 それは小学生が先生に当てられて朗読する物語のように。


 「下着がなくなっている事もありました。それは私のだけでなく姉のもでしたけど。」

 もうそれ変態を通り越して変質者の粋ではないかと思ったけれど、俺は黙って聞く。


 「丁度同じ時期に、近所で下着泥棒が捕まったのでその人が犯人だろうという事で落ち着きました。」

 その人物は今となっては、濡れ衣か身代わりで捕まったのではないかと思ってしまう。



 さっきはつかめなかったコーヒーカップの取手を今度は普通に掴む事が出来た。

 ……しかし、味がわからなくなっていた、俺の好きなモカだと言うのに。


 「父からのボディタッチも少なからずありました。姉は上手い事躱していましたけど、私は姉のようにはいきませんでした。」

 「私が幼少の頃から、父はマッサージをして私の筋肉とかを解してくれていましたから。」

 小さい頃は本当にただのマッサージだったのですが、高校生の頃にもなるとそれが普通ではないと流石に気付きましたと付け加えていた。


 瑞希さんは具体的には言っていないけど、表情からそれが胸や股間のような箇所にも触れていたという事なのではと思った。


 「学生時代は運動をしていたので、着替えやシャワーの時など私自身に隙があったのではないかとも思いました。」

 着替えを見られたり、汗だくのユニフォームや下着が不自然な事になっている事もあったと付け加えていた。



 「姉は私が中学の頃には看護学校へ通うために実家を出ていましたから、その頃は両親と私の三人暮らしでした。」

 先程からちょいちょい出てくる瑞希さんの姉。実は初めて姉の存在を知ったのだけれど……

 そしてお姉さんも瑞希さんと同じ看護師だという事に驚きを抱いた。


 「3年生の秋、9月末の土曜日でした。暑い日と涼しい日が入れ替わる時期で、色々油断をしていました。」


 「その日母はパートに出ており、父も昼間なので仕事に行ってました。」

 「だから無防備だったんです。シャワーを浴びて脱衣場で身体を拭いていた時の事です。」

 この辺りから瑞希さんの声が震え始めてきていた。

 きっと核心に近いのだろう。一句毎に声に震えが混じっている。


 「脱衣所は内側から鍵がかかるようになっていたのですけど、その日は両親共働きに出ていたため油断していたのです。」


 「鍵を掛けずにお風呂場に入っていました。偶然とはいえ、シャワーの音で家の玄関が開く音に気付けませんでした。」


 「父が帰ってきた事に気付けませんでした……」

 


 「身体を拭き終わり、下着に片足を差し込もうとしたところで……うぅぁっ」

 歯ががちがちと当たる音が聞こえる。

 嗚咽も漏れている。目からは涙が伝っていた。

 薄いとはいえ瑞希さんも化粧はしている。

 涙で化粧が落ちかけてきているけれど、それについて指摘をする事は出来なかった。


 「無理……しなくて良いんだよ。」

 俺はなんて気の利かない言葉しかかけられないんだ。

 傷口を埋める優しい言葉が思いつかない。


 「ぃ、いいえ。これは話さないといけない事、聞いて貰わなければならない事です。」

 声はまだ震えているけれど、その決意の眼差しだけは炎を灯していた。


 「片足を入れようとした所で扉がガラっと開きました。」


 「そして……き、鬼気迫る表情の父がち、ちか……近付いてき……きて、壁に押し付けられて……手をお、押さえられて……」

 「驚きと恐怖で動けないわた……私の唇に……唇を重ねてきました。」



 「それだけでなく……手と唇で……私の身体中を……」

 瑞希さんの涙は留まる事を知らない。


 「そこまでで良い。それ以上は瑞希さんがもたない。苦しむ必要ないんだ。」

 瑞希さんは首を横に振ってさらに続ける。


 「腰が抜けて座り込んだ私を……背中には壁を背負い逃がれようもない私……の。」


 「ち、父は自分の大きくなった……を……わ、私の……口の中に無理矢理……お、押し込んできました。」

  俺は絶句した。

そして震える瑞希さんの手を両手で覆う事しか出来なかった。


――――――――――――――――――――――――――


 後書きです。

 この辺で一度切ります。


 月見里瑞希というキャラを作った時に、真秋と逆位置なキャラが必要かなと設定が決まってました。

 黄葉真秋が女性不信であるならば、月見里瑞希は男性不信にしようと。


 ただし、数年とはいえ大人になって瑞希はある程度克服しているので真秋のような症状は殆ど出ていません。

 一瞬であの飲み会で真秋を認識出来たのも大きかったのですが。

 

 克服といってもその方法は明確にしてませんので……

  

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