第155話 瑞希の告白①

 嗚咽の収まった瑞希さんを連れ、話を聞くためにアニスミアに行こうとする俺を瑞希さんは腕を掴んで止めた。


 「そ、外から見えないお店が良いです。」


 アニスミアの店内は透明ガラスとなっている。

 それは外の人からは店内が見えるという事に他ならない。

 

 瑞希さんは誰かに見られるのを恐れているという事だろうか。


 喫茶店は大抵ガラス張りだ。

 そこで思い出した。ガラス張りではあるが、店舗が二階にあり外から見られない場所がある事を。



 昔からある古い喫茶店。

 そこそこの広さがあるため、カウンターに近い席は外からは見られない。


 席に着いて漸く腰を落ち着ける。


 俺から聞くのも無神経かなと思わなくはないけど、お互い黙ったままだと進まないため声を掛ける事にした。


 「瑞希さん、大丈夫?最近連絡も取れないし、今日は瑞希さんの同僚の看護師からも気にしてあげて欲しいと言われたよ。」


 その言葉にビクっとして身体を震わせる。

 瑞希さんは一体何に怯えているのだろうか。



 「あ、ああ、ご、ごめんなさい。」

 弱々しい言葉で謝って来る瑞希さんだけれど、彼女が悪い事など何もない。

 俺は少し急ぎ過ぎたのだろうか。


 「温かいココア飲んで落ち着いてからで良いよ。知りたいのは事実だけど無理矢理や強制したいわけじゃないから。」


 瑞希さんは震える手でカップを持ち口をつけると一口ココアを啜った。


 「わた、私の過去については思い出してはないですよね。」

 瑞希さんがそう尋ねてくる。二度目の出会いについての事だろう。


 「ごめん。申し訳ないけどまだ思い出せてない。」

 素直に謝った。俺も自分の注文したモカを一口飲んだ。

 酸味が程よく広がり自分自身を落ち着かせる。



 「い、いえ。それは仕方ありません。あの時名乗ったわけではありませんし。」

 もう一口ココアを飲んでから意を決したのか話始めた。


 「私の昔話をします。私の父は。」

 衝撃の言葉から始まった。

 瑞希さんの言ういないというのはどういう意味だろうか。

 これから語られるのだろうけど、俺はそれを真正面から受け止めなければいけない気がしていた。



 「高校3年の時、私への性的暴行と母や私に対する暴力で逮捕されました。月見里というのは母方の性です。」

 俺は手にかけかけたコーヒーカップを掴む事が出来なかった。



――――――――――――――――――――――――


 後書きです。

 語りが始まりました。

 中々に衝撃です。


 なんだか真秋の托卵事件が霞んできました。

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